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第2章

34話

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 宿屋に1人残されたリリィは、しばらく考えていたが答えを出せず思い悩んでいた。
 このままではダメだと思い、従魔たちと触れ合って気分転換をしようと、部屋を出る。
 今泊まっている宿は冒険者向けではあるが、従魔を部屋にあげることができず、仕方なくうまやに預けていた。
 厩に入ると、リリィに気付いたコボルトのアイギスとイージスは、尻尾を振って駆け寄る。
 その様子はまさに犬であった。
 リルも近寄るが、アイギスたちのように駆け寄るのではなくゆっくりと歩いて近寄ってきたが、尻尾を大きく揺らしていることから喜んでいることがわかる。
 そんな3匹の様子を見たリリィは顔をほころばせ、もふもふタイムに入った。
 しばらく、もふもふを楽しんでいると外がやけに騒がしいことに気づく。
 何事だろうと思い、騒ぎの元になっている場所へと向かってみると、城門についている衛兵に詰め寄っている人がいた。
 格好からして行商人といったところだろう。

「だから、さっさと中に入れてくれ!またさっきにみたいな光が出るかもしれないんだ!!いやだ、俺は嫌だぞ!!あの光に飲み込まれた奴が跡形もなく消え去っちまったんだ!!俺はそんな目に遭いたくない!!」

 と、すごい剣幕で詰め寄っていた。
 その様子から、よほど恐ろしい目にあったのだろうと検討がつくが、この者が言っている光というのものが理解できなかった。
 なので、近くにいた衛兵に尋ねることにしてみた。

「あの~、そこの人が言ってる光って、なんですか?」

「ん?ああ、それはだな、先程魔の森から光線が伸びてきたんだよ」

「光線、ですか?」

「そうだ。かなり遠かったが、相当の太さだということはわかったな。多分だが、この城門も飲み込めたかもしれないな」

 衛兵はそういうと、城門を見上げる。
 それに釣られるようにリリィも城門を見上げる。
 城門の高さは7~8m、幅5mくらいの大きな門だ。
 それを飲み込むような光線となれば異常な大きさだ。
 しかも、それに当たった人がいて、跡形もなく消えてしまったというのだから、それを目の当たりにすれば、衛兵に詰め寄っている人みたく恐慌に陥るのも無理はない、と思った。

「もし、そんな光線がここに向かってきたらどうなると思いますか?」

「さて、どうなるんだろうね?俺にも予想はつかないさ」

 衛兵の言っていることは本当だろう。
 リリィもどうなるのか、予想がつかなかった。
 と、そこであることに思い至る。

 魔の森から伸びてきた?
 もしかして、森の主と何かが争って、その結果がこの光線なのかもしれない。
 だとすれば、争っているのは、ラミィ!?

 そう思い至ったリリィは、魔の森に向かおうと思ったが、すぐさま1人だけでは無理だということに気づく。
 ジェフさんたちが一緒なら心強いけど、先ほどの様子からして頼んでも無理だろう、と予想がついた。
 それなら、リルたちだけでも連れて!
 宿に引き返すと、最低限の装備を手にすると厩に行きリルたちを連れ出し、魔の森へと向かった。

 どうやって魔の森の中を行くか考え、光線の通った後を辿れば争った場所へ辿り着ける、と判断した。
 この時リリィは、カラミティが危ないということしか頭になく、まともな判断とは言えなかった。
 普通であれば、同じような光線がまたあるかもしれない、と考えるものなのだがそことに一切思い至っていない。
 それにリリィには、カラミティとの繋がりがるのだから、それがあるかどうかで、カラミティの生死を判断することもできたはずだった。
 だが、リリィはそんなことを確認すらしない。
 それだけ、今のリリィは視野狭窄に陥っている。

 町から出ると魔の森に目を向けるが、全力で走ったとしてもたどり着くのは数時間はかかるほど距離がある。
 それでは間に合わない。
 そう判断したリリィは、傍にいるリルが視界に入る。
 そこである方法を思いつく。
 リリィはリルの背中に乗りしがみつく。

「リル、行って!」

 リリィがそういうと、リルは魔の森に向かって駆け出す。
 アイギスとイージスは、急に駆け出したリルを慌てて追いかけるが、リリィを乗せてもリルの方が足が早く、追いつけるどころか離されていく。
 リリィは、リルにしがみつのに精一杯で、そんなことになっているなんて気づいていなかった。
 リルは、リリィならば数時間はかかるだろう距離を、1時間足らずでたどり着いた。
 リルが立ち止まったことで、魔の森にたどり着いたことに気づいたリリィは、光線が通っただろうと思われる場所に移動するよう、新たに指示を出した。
 その場所は離れていなかったのか、数分でたどり着いてしまう。
 最初から、そのことまで含めて指示を出していれば、もう少し早くたどり着けていた。

 光線が通ったと思われる場所は、木の根元だと思われる残骸が残った、幅10mちかくある長い跡があった。
 それを見たリリィはどうすればこんなことができるのか理解できなかった。
 しばらく呆然としていたが、アイギスとイージスが息を切らしてリリィの下にたどり着いたことで我に返る。

「あ、ごめんね。置き去りにして」

 リリィがそういうと、気にするなと言わんばかりに、アイギスとイージスは顔を横に振る。

「それじゃあ、改めて一緒に行こう」

「「「ウォン」」」

 リリィたちは、光線の跡と思しき道を辿り魔の森の中を歩いていく。
 しばらく歩いていくが、森の中は生き物の気配が全く感じられなかった。
 何度か調査にきてはいたが、その時は虫や鳥などの気配はあった。
 なのに今はそれすら感じ取れない。
 やはり、今ここは普通ではないのだと、思い知らされる。
 しかも、今歩いている場所を作り出すようなものがいる、という事が尋常じゃないプレッシャーをリリィは感じ続けていた。
 その影響で、森に入って30分も経っていないというのに、息が上がり足元がおぼつかなくなり、倒れてしまいそうになってしまった。
 それを、アイギスが腕を掴んで助ける。

「ありがと。アイギス」

 リリィはそういうと、再び歩き出そうとするが、アイギスだけでなくイージスにも腕を掴まれて止められる。

「離して。行かないと」

 リリィは、振り解こうとするが、力が入らず振りほどくことができない。
 それだけでなく、リルもリリィの前に立ちふさがる。
 リルの目は、少し休め、と言っているようだった。
 それを見たリリィは、大きく息を吐くと、その場に座り込み休むことにした。
 そうしたことで、リリィは自分が想像以上に消耗していることにようやく気づいた。

「ごめん。私が足を引張ているね」

 リリィがそういうと、リルたちは寄り添い慰める。
 しばらく休んだことで、リリィは多少冷静になることができ、今の森の様子がおかしいことに気づく。
 森が異様に静かすぎることに。
 ギルドマスターのディアナから聞いた、Sランクの主が争っているのであれば、今通っている場所を作った光線が飛び交うなりしているはず。
 しかし、今はそんな様子はなく、不自然なほど静まり返っている。
 これはすでに争いに決着がついた、ということ?
 ということは、ラミィはもう!?

 リリィは慌ててカラミティとの繋がりを確かめる。
 すると、いまだ繋がっているのがわかった。

 よかった。まだ繋がっている。ラミィは生きている。
 でも、そうなると、ラミィが勝ったの?
 確かに、私が見たラミィは、かなり強そうに見えたけど、でも、こんなことができるような相手を倒せるとは思えない。
 何が起きたの?

 ある程度の冷静さを取り戻し、状況を確認することができたが、それ故に一番大事なことがわからなくなった。
 それを確かめるために、リリィは森を進むしかなかった。

 考えていたことで十分な休憩を取ることができ、森の奥へと進む。
 争いが終わっているということに気づいたため、プレッシャーをそれほど感じることがなくなり、体力の消耗もだいぶ減った。
 それでも、警戒する必要があり、慎重に進む。
 そうして数時間が経ち、日が暮れるがリリィは気にせずに森の奥へと進む。
 そして、真夜中と言っていい時間になって、光線の跡が終わりを告げた。

「ここが争っていた場所」

 リリィは周囲を見渡すが、暗すぎて何があったのかわからなかった。

「しょうがない。今日は休んで明日の朝に調べることにしよう」

 そう決めたリリィは、リルたちとひと塊りになる。
 こうすれば火を熾さずとも十分な暖を取ることができた。
 体があったまると、無理な強行軍の影響もあってか、自然とまぶたが降り深い眠りへと落ちてしまった。
 翌日、目を覚ましたリリィはお腹が空いていることに気づくが、食料を持たずにきてしまったため食べるものがなかった。
 空腹を我慢して、争いとなった場所を確認すると、大量の血痕があるのが見て取れた。
 しかし、ほかにこれというものが見つからず、ここで争っていたものがなんなのかわからずじまいになってしまった。
 これ以上ここを調べてもわかることはないと判断したリリィは、最後にカラミティがどこにいるか繋がりから調べてみた。
 すると、遠くではあるがわかる範囲の中にカラミティがいることがわかった。
 そのことから、カラミティは無事であることが予想でき、安堵の息をついた。
 ラミィに会いたいが、光線の跡以外の場所を行くのは危険だと思い、諦める。
 ここまで無事にこれたのは、主の力を感じさせる光線の跡を辿ったからだとリリィは思っている。
 だから、この跡を通れば無事に森の外まで行くことはできるだろう、と思っていた。
 その考えは当たっていて、光線の跡を通り無事に外まで出ることができた。
 と、そこでジェフが言ったことを思い出した。
 ジェフたちは、今日の朝に街を出るということを。
 空を見ると、日はすっかり登り、昼過ぎになっていた。

「ちゃんとお別れの挨拶をしておきたかったな」
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