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第2章

26話

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 リリィはリルと共に、森の奥へといってしまったカラミティを追って、全力で走る。
 カラミティを追うのは非常に容易たやすかった。
 カラミティが通ったと思われる場所には、木々が薙ぎ倒されているからだ。
 その手がかりを頼りに走り続けて数分経つが、いまだにカラミティの姿が見えない。
 体を鍛えているが、流石に息がもたない。
 仕方なく、ペースを落とし痛む脇腹を抑えて走る。
 一度走る速度を落としてしまうと、体は限界に来ていることがわかって駆け足程度の速度になってしまった。
 それでも、リリィは諦めなかった。

「はぁはぁ、どこ、なの?ラミィ……」

 リリィは思わずそう呟いてしまう。
 しかし、諦めずに追いかけ続けると、前方が拓けている事に気づく。

 一旦そこまで行って、一休みしよう。

 そう思って、重い体を動かし、前へと進む。
 リリィは懸命に前に進み、拓けた場所の入り口にたどり着く。
 そして、そこで目に入ったものを見て、リリィは唖然となる。
 なぜなら、そこには、へし折られた、もしくはなぎ倒された木々で、拓けているように見えていたからだ。
 しかも、その中心で堂々と寝転んでいるカラミティがいた。
 その事から、この参事はカラミティが起こしたものだと理解した。

 しばらくの間、呆気に取られていたリリィではあったが、考えるの放棄したのか、カラミティへと近づく。
 その事に気づいたカラミティは、また体を小さくする。

「ねぇ、ラミィ?これって、ラミィがやったの?」

 小さくなったカラミティに、リリィがそう問うが、言っている意味が理解できなかったのか、カラミティは首をかしげるだけであった。

「えっとね、木がいっぱい倒れているでしょ?それってラミィがやったの?」

 改めてリリィがそう問うと、意味が理解できたのか、そうだよと言わんばかりに「クゥー」と鳴く。

「すごいね、ラミィは」

 そう言いながらリリィはカラミティを撫でる。
 撫でながらも、周囲を見渡す。
 カラミティを中心に、半径数十mが先ほど述べたように、木々がへし折られているか、なぎ倒されていた。
 もし、これが街の中で起きていたら、どれほどの被害になっていたのか、と考えると、背筋が震える。
 頭の中では、理解していたつもりではあったが、カラミティのしたことを目にして、初めてどれほど危険な存在なのか理解できた。
 こんなことができる前に、みんながカラミティを倒そうとしたことも。
 これほどの力を持ったカラミティを倒すことなど、少なくともリリィは想像できなかった。
 だけど、カラミティはそんなに危険な存在だろうか、とリリィは思う。
 今、リリィの目の前にいるカラミティは、撫でられて嬉しそうにしている。
 とても人族に、仇なすものには見えない。
 それどころか、今までのカラミティが行ってきた——と思われる——ことを考えると、カラミティは仇なしているのは魔物だけ。
 もしかしたら、人族にも害をなしたのかもしれないけど、知られている範囲では、そういったことはない。
 知られていないのなら、それはないと同じ。
 暴論とも言える考えではあるが、知られていなければ、それがあったと証明はできない。
 そして、ここがこうなったのも魔物を倒したためではないか、とリリィは考えた。

 もし、この考えが正しければ、ラミィが狙われなくなるかもしれない。

 リリィはそう思ってしまう。
 しかし、そのことを証明するのは難しい。
 仮に今まで、人族に害をなしていなかったとしても、これから先もそうだとは限らない、と言われるのがオチだろう。
 そうなった時、お前に止められるか、と言われたら、リリィには止められると断言はできない。
 人がそうであるように、カラミティもこれから先、性格が変わらないとは保証できないからだ。
 ならば、どうするのが最善なのだろう、とリリィは考え込む。
 しかし、ただの冒険者であるリリィに、そんな妙案が浮かぶことはなかった。
 わかることは、ラミィを連れて行くことはできないだろうな、ということであった。

 そこのことがわかったリリィは、カラミティを見つめ口を開く。

「ねえ、ラミィ。これからどうするの?私は、ラミィと一緒にいたい。けど、それはできないの。……どうすればいいのかな?」

 リリィがそう問うが、カラミティは答えることなく、リリィを見つめるだけであった。

「何をしてるんだろ、私。そんなこと聞いても、ラミィが答えられるはずがないのに。バカみたい」

 リリィは、そう口にすると、顔をカラミティに押し付ける。
 その時、リリィがどんな顔をしていたのか、わからないが、決して嬉しそうではなかった。

 しばらくすると、リリィはカラミティから離れる。

「とりあえず、ラミィが元気だってわかってよかったよ。……また、会いに来るね!」

 リリィは笑顔でそういうと、カラミティに背を向け、リルを連れて森の外へと向かって歩き出す。
 カラミティは、離れて行くリリィをじっと見つめるだけで、追おうとはしない。
 一緒にいれば、リリィに危険な目に合わせることになるだろう。
 だから、今みたいに時々会うだけにしたほうがいい、と。

 しばらくして、リリィの姿が完全に見えなくなると、カラミティは森の奥へと向かって歩き出す。




 カラミティから逃げ出したジェフは、森の外で仲間と出会うことができた。
 もし、何かあって逸れた場合は、森の外で落ち合おう、という話をしていたためであった。
 しかし、仲間たちはジェフ1人だけであったことに、眉をひそめる。

「ちょっと、ジェフ。リリィちゃんはどうしたの?」

「……置いてきた」

「置いてきた!?」

 ジェフの言葉に、アンリは驚いたが、すぐに怒りがこみ上げてくる。

「あんた、それがどういう意味か分かってるんでしょうね!それは、見捨てたってことよ!!」

 アンリは、ジェフに詰め寄ろうとしたが、ヴィオとビリーに止められる。

「アンリ、落ち着きなさい。ジェフだって、したくてしたわけではないようですよ」

「でも!」

「まずは話を聞きましょう。それから判断しても遅くはないでしょ?」

「……分かったわ。さあ、どういうことか、キリキリ吐いてもらいましょうか」

「ああ。退却の指示を出した後だが……」

 ジェフは、どういうことが起きたのか、誤魔化さずに話す。
 全てを聞き終えたアンリたちは、苦悶の表情を浮かべる。

「……なるほど。あれがカラミティだったのですか」

「そうだ。俺の予想では、少なくともAランクだと判断した」

「少なくとも、ですか。ということは、Sランクの可能性も?」

「ある」

 ジェフの答えを聞きヴィオはため息をつく。
 その表情は、諦めたような顔つきであった。
 それは、ヴィオだけではなく他のものも似たような顔つきであった。

「そうなりますと、完全に手に負えませんね」

「全くだ。Aランクである事を願うしかない」

 ジェフとヴィオがそう結論を出すと、アンリが口を開く。

「……リリィはどうするの?」

 それに答えたのはヴィオだった。

「そうですね。時間が時間ですから、朝までは待ちましょう」

 カラミティから逃げ出して丸1日が経ち、夕刻へとなっていた。

「朝までに、来なかったら?」

 アンリがそう尋ねるが、ヴィオは答えない。
 そのことから、アンリは悟る。

「お願い、リリィ。生きてて」

 今のアンリは、そう祈るしかできなかった。
 翌日、ジェフたちは昼近くまで待ち、リリィが来る気配が見えず諦めて帰ろうとした時、リルを伴ってリリィが現れた。
 真っ先にリリィがきたことに気づいたアンリは、駆け寄って抱きしめる。

「よかった。生きてたのね。私はもうダメだとばかり……」

「アンリさん。心配かけてごめんなさい」

 リリィは急に抱きしめられて驚いたが、アンリの気持ちがわかり抱き返す。
 ジェフたちは、しばらく2人の様子を見ていたが、リリィに近寄り声を掛ける。

「よく生きてたな。驚いたぞ」

「そうだぞ。ジェフの話を聞いた時は、もう会えないものだと思った」

「全くです。しかし、こうして会えた、ということはカラミティは危険ではなかったということですか?」

「そうです!ラミィは、昔と変わっていなかったんです!!それにもしかしたら、なんですが……」

 リリィは、カラミティと会っていた時に考えた事を口にする。

「なるほど。そういう考え方もありますか」

「ヴィオ、どう思う」

「ない、とは言い切れませんが、根拠が少ないですね。偶々だと、そう考えられるだけで、実際のところはどうなのかは、わかりません」

「だが、リリィはこうして無事だったんだぞ?」

「リリィさんは、カラミティの名付けの親だったから無事だった、と考えることができます。他の人たちにも同じだと判断するには、早計かと」

「そうか。だが、一考するには値する、と思うが?」

「ええ、それは否定しません。そういう考えも含めて色々な角度から、考えてみる必要もあると思います」

「わかった。そのことも含めて、ギルドに報告だな」

 そう結論を出すと、ジェフたちは街へと引き返す。
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