Sランク〜天災級〜へと至ったトカゲ

時雨

文字の大きさ
上 下
20 / 42
第2章

20話

しおりを挟む
 リリィが倒したコボルトの処理をして少し進むが、夕刻近くとなったので野営することになった。

 火を熾すと、焚き火用の枝のいくつかを軽く削り、倒したホーンラビットの肉や途中で手に入れていた山菜やキノコ等を刺し焼いて食事をする。
 味付けは塩のみではあるが、ホーンラビットやキノコがしっかりとした味を持っているために、野営としては上等な食事となった。
 普通であれば、干し肉か固いパンが野営の時の食事であった。
 山菜やキノコも、しっかりと見極めることができなれば食中毒にあったりするので、下手に採る事はしないのだが、冒険歴が長いためか、ジェフたちはある程度の見極めることができたが、リリィだけでならば、こうまで豪華な食事にはありつけなかっただろう。
 食事をすませると、ビリーは地図を取り出した。

「今いるところは、おそらくこの辺になる」

 ビリーは、地図に描かれていているあるところを指す。

「だいたい、目標の三分の一、といったところだな。このペースなら2日後にはたどり着けるはずだ」

「そうか。それならいいんだがな」

 ジェフはビリーの言葉を聞いても喜ぶどころか、困惑気な顔つきであった。
 そのことが気になったリリィは尋ねてみることにした。

「あの、何か問題でもあるんですか?」

「ああ、リリィはわからなかったか。予想していたよりも魔物の数が少ないんだ」

 そう言われても、リリィはなぜ問題なのかわからない。
 それどころか、いいことなのでは、と思った。

「いいか。この森が魔境と呼ばれるという事は、それだけ魔物がたくさんいるはずなんだ。なのに少ないという事は、そうなった原因がある、という事だ。こういうときは、大概いい事じゃないんだよな」

「考えられるのは、強力な魔物が誕生したか、勢力争いをして数が減った、というのが主なところでしょう。あと考えられるとしたら、未知な病気が流行り、魔物が病死した、といったところでしょうか?」

「どれにしても、碌なもんじゃないな」

 そう言うと、ジェフとヴィオは溜め息をついた。
 2人の話を聞いて、ようやくリリィは状況を理解できた。
 しかし、それとは別の事も。

「それって、ラミィがここにいる可能性が高い、ということですよね?」

 そう言われた、ジェフとヴィオは、リリィの顔をしばらく見つめてる。

「そういわれると、その可能性が高い、のか?」

「ええ、可能性は高いかもしれません。カラミティが通ったと思われる場所にいた魔物は、極端に数を減らしていましたからね。問題は、カラミティがどんな魔物になっているか、という事でしょうね」

「こちらに友好的ならいいんだが、な」

「わからないことを口にしても仕方ありません。それよりも、明日のことです。ここから先からは、今日よりも強力な魔物が出てくるはずですよ」

「ギルドの情報だと、EランクやDランクも出るんだっけか?まあ、それくらいならなんとかなるがCランクあたりになると、ちと厳しいかもな」

 ジェフは、リリィに視線を向けながら口にする。
 リリィはそのことに気づくと、うつむいてしまう。
 やはり、自分は足手まといでしかない、と。

「それなら、リルを強くさせればいいでしょ」

 そう割り込んだのはアンリであった。

「リルは、Eランクのグレイウルフだったわよね?だいぶ成長しているみたいだし、Cランクの魔物の魔石をいくつか与えれば、なんとかやりあえるくらいにはなるんじゃない?」

 そういわれたジェフは、リリィの傍で丸くなっているリルを見る。
 今日倒した魔物の魔石を全て与えた影響なのか、目を瞑りじっと大人しくしているが、耳を立てていることから眠りについてはいないことがわかる。

「そうだな。今のリルは僅かにCランクには届かない、といったところか?それなら魔石を与え続ければ、なんとかなりそうか?」

「そもそも、ここの調査には1週間かけるつもりだったんだから、数日かけてリルの強化させてから先に進んだほうがいいと思うんだ。私は」

「俺もその方がいいと思う」

 と、ビリーも賛成する。
 そうなると、ヴィオがどう考えているのかと、ジェフはヴィオに顔を向ける。

「そうですね。これから行くところを考えれば、少しでも戦力は欲しいところです。となれば、リルを強化させるのは、最善かと」

「決まりだな。とりあえず、2・3日かけてリルの強化をしよう。で、その後は、リルの成長具合を見てから判断しよう」

 ジェフがそう決めると、ヴィオ・アンリ・ビリーの3人は頷く。

「嬢ちゃんも、それでいいか?」

「あ、はい!」

 そう決まると、夜番を決めてさっさと休む事になった。
 翌朝、食事を済ませ支度を整えると、ここを一時的な拠点として、周辺の魔物を狩るために移動を始める。
 しかし、1時間ほど立つが魔物に遭遇することができない。

「やはり、おかしい。こんなにも魔物に遭遇できないとは」

「何か異変があったか事は間違いないですね。いつも以上に慎重にいきましょう」

 ジェフとヴィオがそういうと、全員が頷く。
 そして、しばらくしてようやくリルが、魔物を発見することができた。
 リルが警戒する先から現れたのは、高さ2m近くもある真っ赤なイノシシであった。

「レッドボア、か。参ったな」

 ジェフは、レッドボアと呼んだ真っ赤なイノシシを見てそう呟く。
 ジェフがそういうのも無理はない。
 レッドボアの強さはCランクであり、今は戦いたくはないと思っていた相手であった。
 だが、ジェフはすぐに決断する。

「リルは退がれ!俺とアンリが前に出る!ヴィオとビリーは援護を!」

「わかりました」「わかった」「はいよ」

 3人は返事をすると、それぞれ動き出す。
 リルも、ジェフの言った事に素直に従って退がる。
 しかし、指示をされていなかったリリィはどうすればいいのか、と動くことができない。
 そんなリリィを見たヴィオは口を開く。

「とりあえず、リリィさんはそこで見学していてください。これも勉強です」

「え、でも」

 リリィも何かをしたいと思っていたため、ヴィオのいう事に困惑を見せる。

「今のあなたでは、私たちがどう動くか分からないでしょう?ですから、今は見ているだけにして、私たちがどう動くか理解する事に努めてください」

 そういわれると、リリィは反論できない。
 今までに何度か一緒に戦った事はあるが、その時は、せいぜいDランクまで魔物であった。
 Cランクの魔物を相手にするのは、これが初めて。
 となれば、ジェフたちの動きもそれまでとは違って当然であり、その動きリリィはついていけない。
 そのことを理解したリリィは、悔しく思いながらも従う事にした。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。 野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。 その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。 果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!? ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

処理中です...