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第2章

19話

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 しばらく進んでいくと、ゴブリンとコボルトの集団が睨み合っているのを発見する。
 数は、ゴブリンが8匹、コボルトは5匹だ。
 数だけを見れば、ゴブリンの方が有利に思えるが、身体能力はコボルトの方が若干上。
 その上、コボルトは連携をとって行動する習性がある。
 これは、見た目通りの犬の習性がある為だろうと言われている。
 なので、同じ数であればコボルトの方が有利だったのだが、ゴブリンの方が倍とはいかないが、1.5倍以上多い数である。
 これだけの数の差があると、戦力的に見れば互角か、わずかにゴブリンの方が有利かもしれない。

 それを見たジェフは、珍しそうに見つめる。

「へえ、珍しい。魔物の集団での争いの現場に遭遇するなんてな」

「ジェフどうするの?これくらいなら、私たちが突っ込めば簡単に倒せるけど……」

 アンリはそこで口を閉ざし、リリィとリルを見る。
 それがわかったジェフは少し考える。

「んー、そうだな。俺とビリー、ヴィオでゴブリンの方を相手にするから、アンリはリリイとリルをサポートしながらコボルトの方を」

「わかったわ。このまま、突っ込む?」

「いや、迂回して背後から攻めよう。その方がやりやすいだろ」

「了解。じゃ、行くわよ」

 アンリはリリィたちを率いて、迂回しコボルトの背後へと回る。
 同時に、ジェフたちも動き出す。

 少しして2組は、それぞれの背後を取ると、ビリーは矢をつがえゴブリン目掛け放つ。
 矢は見事に、1匹のゴブリンの頭に突き刺さり、その場に倒れる。
 急に仲間が倒れたことに驚いたゴブリンたちは、驚いて動きを止めてしまう。
 それをチャンスだと思ったコボルトたちは、ゴブリンたちめがけ走り出す。
 が、その時、リルが1匹のコボルトを押し倒し、後ろ首に噛み付いた。
 コボルトたちは、そのことに驚くが、すぐさま襲われた仲間を助けるべく動き始める。
 リルは、それを察知すると、その場から離れる。
 コボルトは、離れていくリルを追うものと、倒れたコボルトの様子を見るものと別れる。
 リルを追ったものは3匹、様子を見たのが1匹だった。

 3匹のコボルトは、逃げたリルを倒そうと追いかけていると、木の陰から先頭を走っていたコボルトめがけ何かが当たる。

「ほい。いっちょあがり」

 アンリはそういって、突き出した槍が先頭のコボルトの頭を貫いていた。
 残ったコボルトたちは、それを見てアンリがとても敵わない相手だと気づき、尻尾を丸め逃げようとする。
 すると、いつの間にやら引き返してきたリルが、そのうちの1匹に飛びかかる。
 臆病風に吹かれたコボルトには、とっさに腕を顔の前に交差してりるの攻撃を防ぐが、反撃をしようとする気配が見えない。
 そうなれば、リルはいまが攻めるべきだと判断したのか、果敢に攻め立てる。
 残ったコボルトはというと、背を向けて逃げていくが、アンリは槍を逆手に持つと、「おりゃ!」といって投げる。
 槍は、逃げているコボルトの背中に突き刺さり、コボルトは倒れる。
 それを見届けたアンリは、予備武器として腰に際している短剣を抜き、コボルトへ近寄る。
 近寄ってみると、コボルトはまだ息があったのか、地面を這って逃げようとするが、アンリはコボルトの背を踏むと、短剣をしまい、刺さっていた槍を引き抜き抜くと、再び刺す。しかも体重を乗せて。
 流石にこれは致命傷となったのか、痙攣を起こしそのまま命を落とす。

 最初にりるの攻撃を食らって倒れたコボルトの様子を見るために残っていたのだが、ガサッという物音が聞こえ、音をした方を向きながら警戒する。
 すると、そこにいたのはリリィだ。
 手には剣を持ち、コボルトと対峙する。
 対峙したリリィを見たコボルトは、強くはないが迂闊に飛び込むのは危険と判断した。
 ジリジリと近寄り、距離を縮めていく。
 対し、リリィは動くことなく、コボルトが近寄ってくるのを待つ。
 しばらくして距離が縮まると、コボルトは、リリィに向かって飛びかかる。
 しかし、そのことを理解していたリリィも、後ろに飛び退く。
 そのため、コボルトは間合いを外し、振りかぶった腕はリリィに届かない。
 ほぼ同時に着地すると、コボルトは再び飛びかかろうと体勢を直しつつリリィに向くと、そこにはこちらに向かっているリリィの姿が目に入る。
 しかも、リリィは最も動きの少ない突きを放つ。
 コボルトは体を捻り、ギリギリ避けることはできたが、体勢を崩す。
 リリィは、躱された突きを止め、避けたコボルトめがけ剣を薙ぐ。
 体勢を崩していたコボルトには、これを防ぐことはできず、剣が胴に当たる。
 剣は、胴を深く切り裂き、慌ててコボルトは手で押さえるが、そうなれば頭が無防備になる。
 気がついた時には、コボルトは頭に剣が当たる直前だった。
 それがコボルトの最後に見たものであった。


 リリィは、コボルトの頭をかち割り、剣を抜くと「フゥ」と一息つき、倒れていたコボルトのもとに行く。
 コボルトに近づいて様子を伺うと、動いてはいるがすでに虫の息であった。
 このまま放っておけば遠くないうちに死ぬだろうと思ったが念を入れ、手にしていた剣の切っ先をコボルトの後ろ首に当て、体重を乗せて一気に押し込む。
 剣は、脊髄を断ち喉から突き出ると、コボルトは大きな痙攣を一度だけして動きが止まる。
 完全に死んだことを把握すると、剣を引き抜き血を拭った後に鞘に収める。

「終わったみたいだな」

 リリィが剣を収めたのと同時にジェフから声がかかる。
 声がした方に目を向けると、少し離れたところにジェフたち3人がいた。
 どうやら、ジェフたちは瞬く間にゴブリンたちを倒して、リリィがコボルトを倒すところを見ていたようであった。
 リリィと向き合うと、ジェフは何かを放り投げる。
 リリィはとっさにそれを受け取ると、小さな小袋で中を覗くと魔石が入っていた。
 数は8個だったことからゴブリンの魔石だと気づく。

「あの、これは?」

「やるよ」

「えっ!?」

「いいから受け取っておけ。俺たちにとっちゃ、こんなもん売ったところではした金にしかならねぇ。だったらお前に、リルにくれてやったほうが有意義だろ?」

「でも、いつもでしたらきちんと山分けしているのに、いきなりそういわれても」

「まあ、そう戸惑うのはわかるが、俺の勘が囁くんだよ。少しでもリルを強くしておいたほうがいいってな」

「それは本当ですか?」

「ああ。といっても、嫌な予感という感じではないんだ。それがちょっと悩みどころなんだがな」

「ジェフの勘はよく当たりますからねぇ。どっちにしたって、備えておいたほうだ良さそうですね。というわけでリリィさんは気にせずにそれをリルに与えてください。それが今後のためになりますから」

「……わかりました。そういう事でしたら」

 流石にそういわれてしまえば、リリィも返すことなどできない。
 受け取った小袋を閉めていると、リルとアンリたちも合流してきた。

「どうやらそっちも終わったみたいね」

「当然だろ。こんな奴らに手間取るかよ」

「それもそうね。リリィちゃん、はい」

 アンリはそう言って何かを掴んだ手を差し出してきたので、リリィは受け取ると、魔石が3個であった。

「あの、アンリさんの分は?」

「あ、いいのいいの。私はサポートだったからね。もらうほど働いてはいないわ」

「そういうわけには」

「それに、早くリルちゃんを強くしたほうがいいと思うの」

「アンリ、貴方もですか」

「ん?何が?」

「ジェフもね、リルを強くしたほうがいいと言ってるんですよ」

「へぇ。ということは、やっぱり?」

「そういうことだろ?」

 2人ははっきりとは口にしなかったが、リリィも何が言いたいのか理解できた。
 どうやら、予想以上に危険になりそうだ、ということが。
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