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第1章

11話

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 時は遡り、アリの巣を潰した冒険者たちは、他にも巣はないか探していたが、しばらくして剣士がアリたちの動きに変化がある事に気づく。

「なあ、アリの動きが変わっていないか?」

「そう言われると、動きにばらつきがあるような?」

「それだけじゃない。アリ同士で戦っている奴もいる」

「どうやら、巣が潰された事に気づいたのかもしれませんね」

「へぇ。ということは巣は1つだけだったのか」

「いえ、まだそう決めつけるのは早いですよ。もしかしたら、他の巣のアリと戦っている、という可能性もあります」

「……どちらにしろ、そろそろ日が沈む。今日はここまでにして夜営の準備だ」

 剣士のその言葉で、夜営の準備を始める。
 といっても、することは大したことはなく、草の生えていない場所へ移動して、草や枯れ木を探して焚き火を起こすだけであった。
 その後は、保存食を食べ二人一組になって、交代で見張り役をする。
 翌朝、簡単に食事を済ますと、アリの巣の捜索を始める。
 が、すぐに他にアリの巣がある可能性は低いと、全員が思っていた。
 なぜなら、アリの様子が完全に変わっていたからだ。
 昨日までは、若干のばらつきはあっても、群で襲いかかってきたのに、群ではなく単独で襲ってくるだけだ。
 それも、ほんの数回だけで、他は遭遇しても逃げるか、何もしないというものばかりだった。
 アリたちの統率が取れていない事は間違いない。
 これは、頭である女王アリが亡くなった時に起こる現象である。
 こうなると、アリたちは次世代のアリが誕生する事はなく、滅亡するしかないので、アリたちは勝手な動きを始めるようになる。
 この動きを見他冒険者たちは、早々に巣の探索を打ち切り村へ帰る事にした。



 村に戻った冒険者たちは、村長に巣を潰したので、アリはそう遠くないうちにいなくなるだろう、と告げる。
 それを聞いた村長は安堵の息をつき、冒険者に感謝を述べ、宴を開く事にした。
 すぐさま、見張り以外の村人を集めて飲めや歌えやの大宴会となった。
 その見張りの中に、リリィの父親であるアランがいて、せっかく好きなだけ酒が飲めるのに見張りをしなくはならないとは、と嘆いていた。
 翌日になると、昨夜遅くまで飲み明かしたせいか、あちこちに呻き声が聞こえる。
 冒険者たちもそれは同様なのだが、一人だけ平然としているものがいた。
 それは、槍使いの女性だった。
 彼女は、周りの男たちと一緒に飲んでいたのに、平然としていて二日酔いとなっている仲間たちを、冷めた目で見ていた。

「はぁ。全く情けない。この程度で根をあげるなんて」

 それを聞いた仲間たちは、内心で化け物とか、お前と一緒にするな! などと思っていたが、そんな事を言えばひどい目に会う事は目に見えていたので、賢く口を閉ざしていた。
 ぶっちゃけると、そんな元気もなかったのだ。
 昼をだいぶ回った頃に、ようやく動けるようになったので、4人は村を立ち去る事にした。
 そんな彼らを見送ったのは、子供達と酒を口にしなかった——できなかったというのが正しいが——見張りの者たちだけであった。

 それから数日が経つが、あれからアリは一度も現れることがなく、村の様子は戻っていった。
 だからだろう。アランは気づけなかった。
 娘のリリィは、ありに襲われたときに助けてくれたトカゲにもう一度会ってお礼をしたいと思っていた事に。

 リリィは、アリの危険がなくなってから数日後、トカゲと出会った場所へとこっそりと向かった。
 今回は、また何かに襲われるかもしれないと思い、家にあったナイフを持ち出して。
 草原に入り、トカゲと出会ったと思う場所へとたどり着くが、トカゲの姿はない。
 それもそのはずで、この時はトカゲはアリの巣に篭っていたのだから。
 しかし、リリィは諦める事はなく、その後も数日おきに目を盗んではここにやって来た。
 そして、ある日、この場所に来て1時間ほど待っていると、ガサガサと草が揺れ何かが近寄ってきたのがわかった。
 リリィはトカゲさん? と思ったが、違う可能性も考えて持ってきたナイフを構える。





 森から引き返した翌日、トカゲは森へ向かわず草原の中を歩いていた。
 今日は、森の反対の方へ行ってみようと。
 適当に歩いて、草原の様子を見ていたが、アリが見当たらない事以外特に大きな変化はない。
 そんな事は気にせず、気の向くまま自由に歩き続ける。
 しばらく歩いていると、身に覚えのある匂いが漂っている事に気づく。
 その事が不思議に思い、匂いの元へ向かう事にした。
 匂いをたどっていく、そこには以前見た幼体——リリィ——がいた。
 リリィが、キラリと光るものを持っているのを見たトカゲは、立ち止まる。
 あれは危険だと。
 だが、あの幼体はなぜここにいるのだろうか? と不思議に思った。


 リリィはというと、目の前に現れたトカゲを目にして、体が固まった。
 リリィからすれば、巨大な魔物にしか見えず、そんな巨大な魔物が現れてどうすればいいのかわからずに。

 なんで、こんな巨大なのが、ここに!?
 どうしよう、どうすればいいの!?
 パパ、助けて!!

 リリィは、唐突に現れた巨大な魔物に恐怖し、ここに来た事を後悔していた。
 だが、しばらく経っても目の前に現れた魔物は、動く様子がなかった。
 その事に気づいたリリィは、若干落ち着く事ができた。
 冷静になったリリィは、目の前にいる魔物をじっくりと見る。
 すると、どこか見覚えのあるような顔つきをしているのに気づく。
 それは、以前あったトカゲに似ている事に。
 リリィは、勇気を出して口を開く。

「……もしかして、トカゲ、さん?」

 一旦口にすると、もうトカゲにしか見えなくなった。

「トカゲさん、だよね? よかった。やっと会えたよ! あっ、そうだ」

 リリィは、そういうなりナイフをしまって自分の腰にぶら下げていた小袋を開け、中の物を取り出す。

「これ、あげる!」

 リリィが差し出してきたのは、干した果実だった。
 差し出した干し果実は、リリィにとって数少ないデザートであった。
 リリィは、どんな事をすればトカゲにお礼になるのか、考えた末にこの事に至った。
 これなら、トカゲさんも喜ぶだろうと。


 トカゲは差し出された干し果実を見ると、ゆっくりと近づく。
 口を開き、差し出されたものを食べようとしたのだが、このままだとこの幼体リリィの手も一緒に食べてしまう事に気づく。
 この幼体程度、簡単に食べれる事はわかっているのだが、本能が警鐘を鳴らす。
 食べてはいけない、傷つけてはいけない、と。
 なので、どうやって食べようか悩んでいると、幼体が動き出す。

「はい」

 幼体はそう言って、手に持っていたものを口の中に放り込んできた。
 トカゲは咄嗟に口を閉じ、干し果実を飲み込む。

「どう、美味しい?」

 幼体が何を言っているのかわからないが、食べた物の味は悪くない。
 今まで食べた事がないほどの甘味を感じ、もっと食べてみたいと思った。

「もう1つ食べる?」

 幼体は再び、干し果実を差し出してきたので口を開ける。
 すると、またもや口の中に放り込まれたので、今度はじっくりと味わうために何度も咀嚼してから飲み込む。

 うん、美味い。

「よかった。喜んでくれたみたいで」

 幼体が嬉しそうに笑う。
 それをみたトカゲは、なんだか嬉しくなる。

「うん、お礼もできたし、もう帰るね」

 幼体は身を翻し、歩き始める。
 トカゲは、それを見送ると、幼体とは別の方へと歩き出す。
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