9 / 42
第1章
9話
しおりを挟む
巨大な獲物を目の前にしたトカゲは、どこから食べるか迷った。
いつもであれば、胸部だけを食べるのだが、これだけの獲物は二度と手に入らないかと思うと、無駄にはできない。
散々迷った挙句、腹部から食べることにした。
場所を移動し、女王アリの腹部を正面にする。
正面から見ると、圧倒的な大きさで圧倒される。
なんせ腹部だけでも、ビッグアントの体積よりも大きいのだから。
下手をすれば2~3匹分はありそうだった。
トカゲは口を開き、腹部に噛み付く。
すると、腹部の皮が破け体液が溢れてきた。
女王アリの体液は、今まで食べてきたアリよりも濃厚で美味く感じた。
その体液をゴクゴクと飲み干していくが、次から次へと出てきて飲み終わらない。
しばらく飲み続けると、腹がだいぶ満たされた頃、ようやく体液を飲み干すことができた。
しかし、体液を飲み干したにもかかわらず、腹部はまだ膨らんでいる部分があった。
トカゲは一旦口を放し、膨れている部分を前足で触れてみる。
触ってみると、ブヨブヨと柔らかい感触がする。
どうなっているのか気になり、爪を使い腹部を切り裂く。
切り裂かれ中身があらわになると、そこにあったのは、白く丸い塊がいくつもあった。
それは女王アリが産む直前の卵であった。
トカゲはそんなことも知らず、アリの卵をパクリと食べてしまう。
口の中に入った卵は、ブチュッと潰れしまう。
卵の中身は、女王アリの体液と比べると淡白だが、普通のアリと比べると少し濃いかな? というくらいだった。
ただ、食べた時に潰れる感触が面白く、次々に口に入れては卵を潰して飲み込んでいった。
全ての卵を食べ終えたトカゲは満足して、食休みと言わんばかりに女王アリから少し離れると伏して目を閉じてしまう。
すると、いつの間にか眠りに落ちてしまう。
翌日目を覚ましたトカゲは、一瞬どこにいるのかわからなくなって周囲を見渡し、女王アリを目にしてアリの巣の中にいることを思い出す。
いつもであれば、目を覚ますと獲物を狩りに行くのだが、今は必要ない。
一晩眠って腹を空かせたトカゲは、食べ残した女王アリに近寄る。
女王アリの残った部分は胸部と頭部、そして足だが、足はほとんど食べる場所はないので、食べれるのは胸部と頭部だ。
その2つを見比べ、頭部は頑丈で食べづらそうに思ったので、胸部から食べることにした。
足を退けて、胸部へと噛み付く。
が、胸部の皮——外殻——は思ったより硬く牙が刺さらない。
トカゲは、顎に力を入れて噛むと、パキッという音ともに殻が割れる。
殻が破けてしまえば、中身は柔らかい肉なので、簡単に噛みちぎることができた。
そのまま破れた殻へ口を突っ込み肉を食べ続けていくと、ガリッと硬いものを噛んでしまう。
なんだと思い、その硬いものを口の外へ吐き出す。
吐き出したものは、女王アリの魔石で、大きさは10cm近くもあった。
今までトカゲは、アリの魔石を殻ごと食べていたので気づいていなかったが、アリの魔石の大きさが2~3cm程度なので、段違いに大きいことがわかるだろう。
トカゲはじっと魔石を見つめていたのだが、唐突にパクッと咥えてそのまま飲み込んでしまう。
魔石を飲み込んだトカゲは、また女王アリの胸部を食べ始めた。
胸部を食べていると、腹に違和感を持った。
なんだか、熱いのだ。
その熱は徐々に体に広がっていき、しかも力が抜けていった。
ついには、完全に全身の力が抜けてしまい、その場に倒れてしまう。
トカゲは、この状態に身に覚えがあった。
初めて魔石を口にした時だ。
あの時は、運良く生き延びることができた。
このままでは危ない。吐き出さなければ。
そう思うのだが、身体は言うことを聞かず吐くことができない。
しかも、段々と意識が薄くなっていき、抗おうとしたのだが、抵抗むなしく意識を失ってしまう。
しかし、これは意識を失うことで余計な力を使わせないための本能だった。
トカゲが意識を失ってから数時間経ち、時折体がわずかに動いていることから生きていることがわかる。
そして、ある時間が経った頃、トカゲの体に変化が起こる。
トカゲの体がムクムクと大きくなっていった。
その変化は、飲み込んだ魔石がトカゲの身体に馴染んだ影響だった。
体が一回りどころか二回りほど大きくなった頃、トカゲの目が開く。
目を覚ましたトカゲは、今まで感じたことがないほど全身に力が漲っていることがわかった。
今なら、大きな蛇と戦っても勝てるのではないか、と思った。
だが、その前にと、トカゲは女王アリの頭部に噛み付く。
すると、いとも簡単に頭部を噛み砕いてしまう。
そのまま咀嚼をしながら、やはり力が強くなったと思った。
残っていた頭部を食べ尽くすと、周囲を見わたしすと焦げていないアリがあることに気づく。
そのことに気づいたトカゲは、しばらくはここにこもる事を決める。
力が強くなったとはいえ、わざわざ蛇に立ち向かう必要はない。
そんな事をしなくても、ここに十分な餌があると考えたからだ。
トカゲの考えは正しく、このアリの巣にいたアリの8割近くは、燃え尽きたり焦げ付いて食べれなくなっていたが、何百匹もいて、残る2割近くの100匹ほどは食べれそうだったのだ。
これだけあれば、体が大きくなったトカゲでも、十数日は食べることに困ることはなかった。
冒険者たちは、草原で大量繁殖していたアリを退治することに成功していたが、そのせいで新たな脅威が生まれたことに気づかなかった。
もし、この事に気付いていれば、すぐにでもトカゲを始末しようとしていただろうが、そうはならなかった。
この日、世界の運命は大きく変わる事になる。
いつもであれば、胸部だけを食べるのだが、これだけの獲物は二度と手に入らないかと思うと、無駄にはできない。
散々迷った挙句、腹部から食べることにした。
場所を移動し、女王アリの腹部を正面にする。
正面から見ると、圧倒的な大きさで圧倒される。
なんせ腹部だけでも、ビッグアントの体積よりも大きいのだから。
下手をすれば2~3匹分はありそうだった。
トカゲは口を開き、腹部に噛み付く。
すると、腹部の皮が破け体液が溢れてきた。
女王アリの体液は、今まで食べてきたアリよりも濃厚で美味く感じた。
その体液をゴクゴクと飲み干していくが、次から次へと出てきて飲み終わらない。
しばらく飲み続けると、腹がだいぶ満たされた頃、ようやく体液を飲み干すことができた。
しかし、体液を飲み干したにもかかわらず、腹部はまだ膨らんでいる部分があった。
トカゲは一旦口を放し、膨れている部分を前足で触れてみる。
触ってみると、ブヨブヨと柔らかい感触がする。
どうなっているのか気になり、爪を使い腹部を切り裂く。
切り裂かれ中身があらわになると、そこにあったのは、白く丸い塊がいくつもあった。
それは女王アリが産む直前の卵であった。
トカゲはそんなことも知らず、アリの卵をパクリと食べてしまう。
口の中に入った卵は、ブチュッと潰れしまう。
卵の中身は、女王アリの体液と比べると淡白だが、普通のアリと比べると少し濃いかな? というくらいだった。
ただ、食べた時に潰れる感触が面白く、次々に口に入れては卵を潰して飲み込んでいった。
全ての卵を食べ終えたトカゲは満足して、食休みと言わんばかりに女王アリから少し離れると伏して目を閉じてしまう。
すると、いつの間にか眠りに落ちてしまう。
翌日目を覚ましたトカゲは、一瞬どこにいるのかわからなくなって周囲を見渡し、女王アリを目にしてアリの巣の中にいることを思い出す。
いつもであれば、目を覚ますと獲物を狩りに行くのだが、今は必要ない。
一晩眠って腹を空かせたトカゲは、食べ残した女王アリに近寄る。
女王アリの残った部分は胸部と頭部、そして足だが、足はほとんど食べる場所はないので、食べれるのは胸部と頭部だ。
その2つを見比べ、頭部は頑丈で食べづらそうに思ったので、胸部から食べることにした。
足を退けて、胸部へと噛み付く。
が、胸部の皮——外殻——は思ったより硬く牙が刺さらない。
トカゲは、顎に力を入れて噛むと、パキッという音ともに殻が割れる。
殻が破けてしまえば、中身は柔らかい肉なので、簡単に噛みちぎることができた。
そのまま破れた殻へ口を突っ込み肉を食べ続けていくと、ガリッと硬いものを噛んでしまう。
なんだと思い、その硬いものを口の外へ吐き出す。
吐き出したものは、女王アリの魔石で、大きさは10cm近くもあった。
今までトカゲは、アリの魔石を殻ごと食べていたので気づいていなかったが、アリの魔石の大きさが2~3cm程度なので、段違いに大きいことがわかるだろう。
トカゲはじっと魔石を見つめていたのだが、唐突にパクッと咥えてそのまま飲み込んでしまう。
魔石を飲み込んだトカゲは、また女王アリの胸部を食べ始めた。
胸部を食べていると、腹に違和感を持った。
なんだか、熱いのだ。
その熱は徐々に体に広がっていき、しかも力が抜けていった。
ついには、完全に全身の力が抜けてしまい、その場に倒れてしまう。
トカゲは、この状態に身に覚えがあった。
初めて魔石を口にした時だ。
あの時は、運良く生き延びることができた。
このままでは危ない。吐き出さなければ。
そう思うのだが、身体は言うことを聞かず吐くことができない。
しかも、段々と意識が薄くなっていき、抗おうとしたのだが、抵抗むなしく意識を失ってしまう。
しかし、これは意識を失うことで余計な力を使わせないための本能だった。
トカゲが意識を失ってから数時間経ち、時折体がわずかに動いていることから生きていることがわかる。
そして、ある時間が経った頃、トカゲの体に変化が起こる。
トカゲの体がムクムクと大きくなっていった。
その変化は、飲み込んだ魔石がトカゲの身体に馴染んだ影響だった。
体が一回りどころか二回りほど大きくなった頃、トカゲの目が開く。
目を覚ましたトカゲは、今まで感じたことがないほど全身に力が漲っていることがわかった。
今なら、大きな蛇と戦っても勝てるのではないか、と思った。
だが、その前にと、トカゲは女王アリの頭部に噛み付く。
すると、いとも簡単に頭部を噛み砕いてしまう。
そのまま咀嚼をしながら、やはり力が強くなったと思った。
残っていた頭部を食べ尽くすと、周囲を見わたしすと焦げていないアリがあることに気づく。
そのことに気づいたトカゲは、しばらくはここにこもる事を決める。
力が強くなったとはいえ、わざわざ蛇に立ち向かう必要はない。
そんな事をしなくても、ここに十分な餌があると考えたからだ。
トカゲの考えは正しく、このアリの巣にいたアリの8割近くは、燃え尽きたり焦げ付いて食べれなくなっていたが、何百匹もいて、残る2割近くの100匹ほどは食べれそうだったのだ。
これだけあれば、体が大きくなったトカゲでも、十数日は食べることに困ることはなかった。
冒険者たちは、草原で大量繁殖していたアリを退治することに成功していたが、そのせいで新たな脅威が生まれたことに気づかなかった。
もし、この事に気付いていれば、すぐにでもトカゲを始末しようとしていただろうが、そうはならなかった。
この日、世界の運命は大きく変わる事になる。
0
お気に入りに追加
1,607
あなたにおすすめの小説
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
転生?いいえ。天声です!
Ryoha
ファンタジー
天野セイは気がつくと雲の上にいた。
あー、死んだのかな?
そう心の中で呟くと、ケイと名乗る少年のような何かが、セイの呟きを肯定するように死んだことを告げる。
ケイいわく、わたしは異世界に転生する事になり、同行者と一緒に旅をすることになるようだ。セイは「なんでも一つ願いを叶える」という報酬に期待をしながら転生する。
ケイが最後に残した
「向こうに行ったら身体はなくなっちゃうけど心配しないでね」
という言葉に不穏を感じながら……。
カクヨム様にて先行掲載しています。続きが気になる方はそちらもどうぞ。
異世界でホワイトな飲食店経営を
視世陽木
ファンタジー
定食屋チェーン店で雇われ店長をしていた飯田譲治(イイダ ジョウジ)は、気がついたら真っ白な世界に立っていた。
彼の最後の記憶は、連勤に連勤を重ねてふらふらになりながら帰宅し、赤信号に気づかずに道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなったというもの。
彼が置かれた状況を説明するためにスタンバイしていた女神様を思いっきり無視しながら、1人考察を進める譲治。
しまいには女神様を泣かせてしまい、十分な説明もないままに異世界に転移させられてしまった!
ブラック企業で酷使されながら、それでも料理が大好きでいつかは自分の店を開きたいと夢見ていた彼は、はたして異世界でどんな生活を送るのか!?
異世界物のテンプレと超ご都合主義を盛り沢山に、ちょいちょい社会風刺を入れながらお送りする異世界定食屋経営物語。はたしてジョージはホワイトな飲食店を経営できるのか!?
● 異世界テンプレと超ご都合主義で話が進むので、苦手な方や飽きてきた方には合わないかもしれません。
● かつて作者もブラック飲食店で店長をしていました。
● 基本的にはおふざけ多め、たまにシリアス。
● 残酷な描写や性的な描写はほとんどありませんが、後々死者は出ます。
あの夕方を、もう一度
秋澤えで
ファンタジー
海洋に浮かび隔絶された島国、メタンプシコーズ王国。かつて豊かで恵まれた国であった。しかし天災に見舞われ太平は乱れ始める。この国では二度、革命戦争が起こった。
二度目の革命戦争、革命軍総長メンテ・エスペランサの公開処刑が行われることに。革命軍は王都へなだれ込み、総長の奪還に向かう。しかし奮闘するも敵わず、革命軍副長アルマ・ベルネットの前でメンテは首を落とされてしまう。そしてアルマもまた、王国軍大将によって斬首される。
だがアルマが気が付くと何故か自身の故郷にいた。わけもわからず茫然とするが、海面に映る自分の姿を見て自身が革命戦争の18年前にいることに気が付く。
友人であり、恩人であったメンテを助け出すために、アルマは王国軍軍人として二度目の人生を歩み始める。
全てはあの日の、あの一瞬のために
元革命軍アルマ・ベルネットのやり直しファンタジー戦記
小説家になろうにて「あの夕方を、もう一度」として投稿した物を一人称に書き換えたものです。
9月末まで毎日投稿になります。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
はぐれ聖女 ジルの冒険 ~その聖女、意外と純情派につき~
タツダノキイチ
ファンタジー
少し変わった聖女もの。
冒険者兼聖女の主人公ジルが冒険と出会いを通し、成長して行く物語。
聖魔法の素養がありつつも教会に属さず、幼いころからの夢であった冒険者として生きていくことを選んだ主人公、ジル。
しかし、教会から懇願され、時折聖女として各地の地脈の浄化という仕事も請け負うことに。
そこから教会に属さない聖女=「はぐれ聖女」兼冒険者としての日々が始まる。
最初はいやいやだったものの、ある日をきっかけに聖女としての責任を自覚するように。
冒険者や他の様々な人達との出会いを通して、自分の未熟さを自覚し、しかし、人生を前向きに生きて行こうとする若い女性の物語。
ちょっと「吞兵衛」な女子、主人公ジルが、冒険者として、はぐれ聖女として、そして人として成長していく過程をお楽しみいただければ幸いです。
カクヨム・小説家になろうにも掲載
先行掲載はカクヨム
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる