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世界銀行デラリオ Ⅳ

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俺はどうやら知らぬ間に世界皇帝になっていたらしい。

それでいいのか異世界。

てか、世界皇帝ってなんだよ。

俺が王や魔王より偉いってことか?

「なあ、さすがに大袈裟じゃないか?
 噂になっているのは理解したとして、どうして商会のトップに世界皇帝って大層な名前がつくんだよ」

「これだけの富を築いておいてなにをおっしゃりますか。
 シマダの名なくしては世界が回らないといわれるほどの大商会。
 その商会の主であるコウタロウ様に相応しい異名であると思いますがね」

「我々シマダ商会の扱いには王族どころか三柱様まで気を遣われているほどですからね。
 これまでの歴史の中で三柱様がお認めになった人間なんてほかにいないですよ。
 そんなコウタロウさんが世界皇帝と崇められるのは必然のことかと」

「でもさ、所詮俺は商人なんだよ。
 ちょっと資産があるだけのちっぽけな人間じゃないか。
 アダムみたいなカリスマ性とかもないし」

アダムとは魔王のことである。

おそらくシマダ商会の幹部や幹部補佐、三柱様を除いて俺のことを知る唯一の男だろう。

どうしてアダムが俺のことを知っているかというと、簡単な話ダチなのである。

シマダ商会を立ち上げたばかりのころ、あいつは魔王の身でありながらまだ何者でもない俺を色々と助けてくれた。

あいつはスゴい。

武力も富も名声もすべて持っている。

だというのにそのことに驕ることもない。

何事にも紳士に向き合い、ただ魔族の、ひいては世界の安寧のために人生を捧げている。

ああいう奴こそ世界皇帝と呼ばれるに相応しいと俺は思うのだが。

「確かにアダム様も稀に見る傑物ではありますし、世界皇帝の名を冠してもおかしくないように思います。
 惜しむらくはコウタロウ様と同じ時代に生を受けてしまったことでしょうな。
 アダム様を傑物と評すならば、コウタロウ様は怪物。
 傑物は怪物に敵いませぬ」
 
「まあ、アダム様はそんなこと気にしていないでしょうけどね。
 むしろコウタロウ様の恩恵を受けれる時代に産まれてよかったと思っているのではないでしょうか?」

「ふぉっふぉっふぉ。
 それはこの時代を生きるすべての人に言えるのではないですかな?」

「わっはっはっは!
 そりゃあちげえねえ!」

なんだかみんなして持ち上げてくるなあ。

ちょっと恥ずかしい。

俺はただ現世での知識をこの世界にちょっとばかり持ち込んで儲けただけなんだけどな。

そう考えるとみんなを騙しているような罪悪感すら感じる。

これまでは目の前の仕事に夢中過ぎて考えたこともなかったが、これからは慕ってくれる人たちのためにも自分の立ち振る舞いを意識していかなくてはならないのかもしれないな。



金庫からはひとまずお金だけ持っていくことにした。

これだけの金の量だ。

マジックバッグに入れるだけでも一苦労である。

みんなで協力してぽんぽこぽんぽこバッグに放り込んでいく。

すべて詰め込むまでに1時間近くかかってしまった。

金を回収するだけで汗を掻くことになるとは誰が予想しただろうか。

そんなわけで風呂に入りたくなったので、さっそく今宵の宿を探すことにする。

これまでは商会の運営する宿に泊まっていたのだが、これだけの金を個人が溜め込んでいるのはヤバいと思い、シマダ商会とは違うところの宿をとることにする。

まさか自分の貯金額を見て経済を意識することになるとは思わなんだ。

これからはじゃんじゃん使って経済を回していかないと。

金を使わねばという強迫観念にかられてすらいる。

旅を続けられる資金があればなぐらいに考えていたのにどうしてこうなった。

すべてはナターシャさんの報告を聞いてなかった俺の責任である。

宿はランスフォードホテルというところに決めた。

数多の富豪が訪れるここデラリオでもトップクラスの高級ホテルらしい。

チェックインカウンターのお姉さんに脳死でプレミアムスイートルームを三部屋お願いした。

さすがは高級ホテル。

ビギナー冒険者姿の俺たちを(俺に関して言えば妖精を肩に乗せてさえいる)いぶかしむことなくスムーズに手続きが行われる。

一部屋一泊420万イェンだった。

たけえ!

420万イェンといったらあれか。

さっきまで両手で抱えて投げこんでいた札束キューブのうちの4枚ちょっとか。

……全然減らねえじゃん。

あー、俺の金銭感覚もバグってきちゃったみたいだ。

いや、それはむしろ歓迎すべきことなのかもしれない。

庶民感覚のままケチケチやってたらいつまでたっても札束キューブ一つ消費しきれない。

ええーいままよ。

別にいらないけどルームサービスやらオプションやら全部付けてなんとか500万までいった。

それでも5枚か。

死ぬまでに札束キューブ一つ減らせるかいよいよ不安になってきました。



「おおー、高い。
 コウタロウ見て。
 人間のおうちがあんなに小さい」

プレミアムスイートルームはホテルの最上階にあった。

地上33階建てのホテルなので非常に見晴らしがいい。

デラリオの街で一番高い建物である。

シマダ商会もデラリオに高級宿を構えているが、あちらは古き良き日本旅館をイメージして作ってあるので見晴らしの良さじゃこちらに軍配が上がる。

それ以外は勝っているといいなと思う。

金だけ出しといて一度も入ったことがないけども。

ホテルの窓から波ひとつない静かな湖を眺めていると、ドアのベルが鳴った。

「お待たせしました。
 お風呂の準備ができましたよ」

エマさんだった。

エマさんは魔導士の姿からふわふわのバスローブに着替えていた。

なんだか新鮮だなあ。

こうして見ると女性というより女の子って感じもしなくもない。

だが、やっぱり滲み出る強烈な色気。

その色気どこから出てんの?

どぎまぎしてしまうからやめてほしい。

「では、ファラちゃん預かりますね」

「やだ。
 ファラ、コウタロウと一緒がいい」

「ダメだよファラ。
 ファラは女の子なんだから一緒には行けないよ。
 エマさんとゆっくりお風呂に浸かっておいで」

「むう。
 ……わかった」

俺の手の上からエマさんの肩にぴょんと飛び乗ろうとしたファラだが上手くいかなかった。

肩の上から滑り落ちたファラはあろうことかエマさん谷間にすぽっとハマってしまう。

なんじゃそりゃ。

俺はなにを見せられているんだ?

俺はなにに魅せられているんだ?

「ここ、あったかくてやわらかい。
 コウタロウ、ほら。
 すごい、ぽよんぽよん」

ど、どうすりゃいいのこの状況。

妖精のいたずらってこういうことなの?

と、とりあえずファラはその天国から出ようか。

エマさんも顔真っ赤にして黙ってないで、おっさんの心の平穏のために何とか言ってくれ……
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