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育成の街ベールズ Ⅻ
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「なんだよ今の!
あんたら高位の冒険者だったのか?」
「ありえない……
特殊個体をこんな一瞬で……」
「あの突進の威力……
あれから皆を守ってみせるだなんて自惚れもいいとこだった。
それを蹴り上げるなんて……」
「あれだけ高位の魔法をいともたやすく……
あれはとても個人で発動できる代物じゃないですよ。
お姉さんはもしかしてハイエルフだったりしますか?」
当然質問攻めにあった。
装備まで整えてせっかく変装しているんだ。
申し訳ないがノーコメントである。
俺たち三人は意味深な微笑みだけ浮かべてそれをやり過ごす。
その態度に彼らもなにか察してくれたようで、しばらくしたら怒涛の質問攻めは収まった。
ただ、ちらちらとこちらの様子をうかがっていることから依然として興味津々なようだ。
まあ、それも仕方ないか。
世界最高峰の実力者が隣にいるんだ。
彼らの目指すべき終着点といえよう。
俺はなんともそわそわしている狼の爪のメンバーにクスっとしてしまい、エマさんとドラファルさんに少しだけ彼らへの指導をお願いした。
間髪を容れず快諾する二人。
二人ともきらきらした彼らの瞳にうずうずしていたんだろうな。
ドラファルさんはジャンとルウの二人に戦闘中の立ち回りについてを。
エマさんはサリナとリンに魔法についてをそれぞれレクチャーしているようだ。
後になって思ったことだが、エマさんやドラファルさんの桁違いの実力を見せられて彼らが自信を失わず良かった。
もし俺が少年少女の立場であれば、「あっ、こりゃダメだ。ほかの道を探そう」とか思っていただろうな。
俺は何事においても見切りをつけるのが早い。
とりわけ自分のことについては特にだ。
だからこそ、こんなにも趣味がないのかもしれないとも思う。
それこそ周りに心配されるぐらいに。
子供の時から夢だとか熱中になれる趣味というものがないのだ。
その点、仕事はいい。
趣味と違って日々の生活に直結する義務であるからだ。
やらねばやらないことは嫌でも続けられる。
しかし、運が良いことに一生生活に困らないぐらいには稼いでしまったし、商会も俺の手を離れた。
なにか趣味とやらを探さないとなあ。
ただぼーっと過ごすだけの老後も悪くないが、いずれ飽きがきそうだし。
この旅路の中で見つけられることを期待しよう。
〇
二人のレクチャーが終わり、俺たち一行は帰路につく。
レクチャーはだいたい一時間ほどだった。
少年少女たちはまだまだ物足りなさそうな感じだったし、エマさんとドラファルさんの二人もすっかり指導に熱が入っていたのだが、俺のひと声でおひらきとなった形だ。
そう不満そうな顔を俺にぶつけないでくれ少年少女。
そろそろ戻らないとアントン君を無駄に商会に拘束させてしまうんだ。
アントン君ももうすぐ退勤の時間だし。
ホワイトな職場を第一に考える俺は、シマダ商会の就業時間を午前九時から午後五時までと定めている。
休憩一時間を含めての一日七時間労働だ。
よっぽどの事態がない限り、社員にはこれを徹底してもらっている。
もちろん、完全週休二日制だ。
家族との時間であれ、趣味の時間であれ、恋人との時間であれ、シマダ商会の人たちには仕事以外の時間でも豊かに過ごして欲しいと思っている。
仕事人間でしかない俺が言うのもなんだけどな。
〇
ちょっとしたトラブルもあったけど、俺たち一行は無事に冒険者ギルドへと戻ってきた。
受付のお姉さんに摘んできたエノク草を渡し、これにてクエスト完了である。
報酬は9800イェンだった。
山分けすると一人ちょうど1400イェンか。
大人数で受けたせいもあるが、疲労した割には寂しいもんである。
ちゃんと肉体労働だったからな。
でもまあ初級のクエストだとこんなものなんだろう。
こうしたクエストで下積みをして、徐々に高難易度のクエストに挑んでいくのだろう。
プラチナクラスだと一つのクエストでどれだけ稼げるのか気になるところではある。
特殊個体についてはギルドに報告していない。
あまり大事にしたくないということで、ジャンたちにも口裏を合わせてもらっている。
さすがに報告しないとまずいかなと思ったけど、ドラファルさん曰く、特殊個体は滅多に出るものじゃないし報告したところで対策しようがないから、討伐したのであれば問題ないとのことだった。
討伐の証拠を持っていき、ギルド側の討伐の確認が取れれば討伐報酬なるものが貰えるらしいが、お金に困っているわけではないしブラッディーヴァイパーの亡骸はそのまま放置してきた。
たとえほかの冒険者が見つけたとしてもエマさんが黒焦げにしちゃってるので、じっくり検分しなければポイズンヴァイパーと勘違いして終わりだろう。
狙ったわけではないだろうが、エマさんのファインプレーである。
「なあ、さすがに受け取れないって。
こっちは命まで助けられているんだぞ。
それに勉強もさせてもらったし」
ジャンの言葉にうんうん頷く狼の爪のメンバー。
じゃあ報酬を山分けしようかと俺が言うと彼らは受け取れないと言い張った。
「こちらも冒険者について色々と教えてもらったからね。
それでおあいこだよ。
そもそも俺たちは報酬が欲しくてクエストを受けたわけじゃないんだし」
「で、でもよおっさん……」
「ふぉっふぉっふぉ。
その気持ちはありがたいですが……皆さん強くなりたいのでしょう?
であれば、今後お金は必要不可欠ですぞ」
「ドラファル翁の言う通りですよ。
装備はもちろんですが、そのほかにも移動や宿泊で色々と費用がかかるものことでしょう。
あなたたちも言ってたじゃないですか。
これから世界中のダンジョンを巡って冒険者の高みを目指すと」
「そ、そりゃそのつもりだけどよ」
「なら遠慮せず貰っておきなよ。
少額だけど馬鹿にしちゃいけない。
こういう小さなお金を大事にして、やっと大きくお金を貯められるんだから」
「あっ、今のはコウタロウさんならではのアドバイスですね」
「ふぉっふぉっふぉ。
まさしく金言ですな」
最後の最後で少々小っ恥ずかしい気持ちになったが、まあいいか。
こうして俺たち”アンバランス”は初クエストを終えたのである。
あんたら高位の冒険者だったのか?」
「ありえない……
特殊個体をこんな一瞬で……」
「あの突進の威力……
あれから皆を守ってみせるだなんて自惚れもいいとこだった。
それを蹴り上げるなんて……」
「あれだけ高位の魔法をいともたやすく……
あれはとても個人で発動できる代物じゃないですよ。
お姉さんはもしかしてハイエルフだったりしますか?」
当然質問攻めにあった。
装備まで整えてせっかく変装しているんだ。
申し訳ないがノーコメントである。
俺たち三人は意味深な微笑みだけ浮かべてそれをやり過ごす。
その態度に彼らもなにか察してくれたようで、しばらくしたら怒涛の質問攻めは収まった。
ただ、ちらちらとこちらの様子をうかがっていることから依然として興味津々なようだ。
まあ、それも仕方ないか。
世界最高峰の実力者が隣にいるんだ。
彼らの目指すべき終着点といえよう。
俺はなんともそわそわしている狼の爪のメンバーにクスっとしてしまい、エマさんとドラファルさんに少しだけ彼らへの指導をお願いした。
間髪を容れず快諾する二人。
二人ともきらきらした彼らの瞳にうずうずしていたんだろうな。
ドラファルさんはジャンとルウの二人に戦闘中の立ち回りについてを。
エマさんはサリナとリンに魔法についてをそれぞれレクチャーしているようだ。
後になって思ったことだが、エマさんやドラファルさんの桁違いの実力を見せられて彼らが自信を失わず良かった。
もし俺が少年少女の立場であれば、「あっ、こりゃダメだ。ほかの道を探そう」とか思っていただろうな。
俺は何事においても見切りをつけるのが早い。
とりわけ自分のことについては特にだ。
だからこそ、こんなにも趣味がないのかもしれないとも思う。
それこそ周りに心配されるぐらいに。
子供の時から夢だとか熱中になれる趣味というものがないのだ。
その点、仕事はいい。
趣味と違って日々の生活に直結する義務であるからだ。
やらねばやらないことは嫌でも続けられる。
しかし、運が良いことに一生生活に困らないぐらいには稼いでしまったし、商会も俺の手を離れた。
なにか趣味とやらを探さないとなあ。
ただぼーっと過ごすだけの老後も悪くないが、いずれ飽きがきそうだし。
この旅路の中で見つけられることを期待しよう。
〇
二人のレクチャーが終わり、俺たち一行は帰路につく。
レクチャーはだいたい一時間ほどだった。
少年少女たちはまだまだ物足りなさそうな感じだったし、エマさんとドラファルさんの二人もすっかり指導に熱が入っていたのだが、俺のひと声でおひらきとなった形だ。
そう不満そうな顔を俺にぶつけないでくれ少年少女。
そろそろ戻らないとアントン君を無駄に商会に拘束させてしまうんだ。
アントン君ももうすぐ退勤の時間だし。
ホワイトな職場を第一に考える俺は、シマダ商会の就業時間を午前九時から午後五時までと定めている。
休憩一時間を含めての一日七時間労働だ。
よっぽどの事態がない限り、社員にはこれを徹底してもらっている。
もちろん、完全週休二日制だ。
家族との時間であれ、趣味の時間であれ、恋人との時間であれ、シマダ商会の人たちには仕事以外の時間でも豊かに過ごして欲しいと思っている。
仕事人間でしかない俺が言うのもなんだけどな。
〇
ちょっとしたトラブルもあったけど、俺たち一行は無事に冒険者ギルドへと戻ってきた。
受付のお姉さんに摘んできたエノク草を渡し、これにてクエスト完了である。
報酬は9800イェンだった。
山分けすると一人ちょうど1400イェンか。
大人数で受けたせいもあるが、疲労した割には寂しいもんである。
ちゃんと肉体労働だったからな。
でもまあ初級のクエストだとこんなものなんだろう。
こうしたクエストで下積みをして、徐々に高難易度のクエストに挑んでいくのだろう。
プラチナクラスだと一つのクエストでどれだけ稼げるのか気になるところではある。
特殊個体についてはギルドに報告していない。
あまり大事にしたくないということで、ジャンたちにも口裏を合わせてもらっている。
さすがに報告しないとまずいかなと思ったけど、ドラファルさん曰く、特殊個体は滅多に出るものじゃないし報告したところで対策しようがないから、討伐したのであれば問題ないとのことだった。
討伐の証拠を持っていき、ギルド側の討伐の確認が取れれば討伐報酬なるものが貰えるらしいが、お金に困っているわけではないしブラッディーヴァイパーの亡骸はそのまま放置してきた。
たとえほかの冒険者が見つけたとしてもエマさんが黒焦げにしちゃってるので、じっくり検分しなければポイズンヴァイパーと勘違いして終わりだろう。
狙ったわけではないだろうが、エマさんのファインプレーである。
「なあ、さすがに受け取れないって。
こっちは命まで助けられているんだぞ。
それに勉強もさせてもらったし」
ジャンの言葉にうんうん頷く狼の爪のメンバー。
じゃあ報酬を山分けしようかと俺が言うと彼らは受け取れないと言い張った。
「こちらも冒険者について色々と教えてもらったからね。
それでおあいこだよ。
そもそも俺たちは報酬が欲しくてクエストを受けたわけじゃないんだし」
「で、でもよおっさん……」
「ふぉっふぉっふぉ。
その気持ちはありがたいですが……皆さん強くなりたいのでしょう?
であれば、今後お金は必要不可欠ですぞ」
「ドラファル翁の言う通りですよ。
装備はもちろんですが、そのほかにも移動や宿泊で色々と費用がかかるものことでしょう。
あなたたちも言ってたじゃないですか。
これから世界中のダンジョンを巡って冒険者の高みを目指すと」
「そ、そりゃそのつもりだけどよ」
「なら遠慮せず貰っておきなよ。
少額だけど馬鹿にしちゃいけない。
こういう小さなお金を大事にして、やっと大きくお金を貯められるんだから」
「あっ、今のはコウタロウさんならではのアドバイスですね」
「ふぉっふぉっふぉ。
まさしく金言ですな」
最後の最後で少々小っ恥ずかしい気持ちになったが、まあいいか。
こうして俺たち”アンバランス”は初クエストを終えたのである。
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