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プロローグ
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俺の名前は島田耕太郎。
日本ではどこにでもいるような見た目のアラサーのしがない男だ。
強くたくましく労働できるように、とあるスーパービジネスマンの名前から一文字拝借して名付けられた、生まれついてのビジネスマンである。
その名に恥じることなく現世でも俺は働きまくっていた。
労働というものになんの疑念も持たず、ただ経済と顧客の満足のために働きまくった。
働くことは俺の性に合っていた。
俺にはこれといった趣味も特技もないからだ。
強いて言うなら美味しい食事と酒は好きだが、ぐうたら過ごした休日の晩酌より、がっつり働いて疲れ切った日の晩酌の方がなんとも身に染みる美味さを感じれるものだから、俺は休日出勤も喜んで応じたものだ。
そんな俺はどういうわけだが異世界にいる。
帰宅中、二つの眩い光が突っ込んできたと思った矢先、俺はなにもない草原に独り佇んでいた。
スーツとビジネスバッグを下げた姿のままで。
そこからはもう大変だった。
それはもう大変だった。
語ればキリがないほどの苦労だったのでここでは割愛するが……。
しかし、様々な助けと出会い、運に恵まれたことも相まってなんとか自分の会社を立ち上げるまで至り、こうして今日という日を迎えることになったのだ。
「じゃあ、エドワード君。
シマダ商会のことは頼んだよ。
今日から君がこの商会のトップだ」
俺は目の前でさながら騎士のようにひざまづく一人の青年に話す。
ここはとある商会の一室……でしかないのだが、どういうわけかこの国の玉座の間より荘厳かつ豪華な仕様になっている。
よくわからない絵画やら、役割のわからない無駄にでかい壺やらといった芸術品が絶妙なバランスで配置されている。
俺が成金趣味というわけではない。
魔王やらドラゴンやらからお返しの品としてもらったものを置いているだけだ。
倉庫に放り込んで、埃被っちゃうだけの置物にしておくのもなんだか不義理だし。
それぞれの品が国宝級のものであるらしいが、あいにく俺はそういった審美眼的なものが備わっていないのでなんとも言えないところではある。
「コウタロウさん。
そのような大役……とても僕に務まるとは思えません」
ヨーロッパ風の端正な顔立ちを自信なさげに歪ませてエドワードは言う。
俺は小さくため息をつき、かたわらに立つ男に声をかける。
「もう何度も話し合って決めたことじゃないか。
俺はエドワード君になら任せられると心から思っているんだ。
ドラファルさんもそう思いますよね?」
「ええ。
まず間違いなく。
エドワード様なら今後数百年は安泰でしょう」
「数百年って。
そのころにはみんな土に還って骨ですよ。
ドラファル翁の寿命と一緒にしないでください」
「ふぁっふぁっふぁ。
ちょっとした冗談ですよ。
でも、エドワード様なら安泰という判断は本心から思っておりますぞ」
白く長い顎鬚を撫でつけながらドラファルさんは言う。
ドラゴニュートとハイエルフのハーフであり、千年近い寿命を持つ「生ける伝説」ことドラファルさん。
どういうわけか俺の側近を務めるひとりである。
「まあ、役職の肩書がちょっと変わるだけです。
それだけですよ。
自信を持っていつもと同じようにやればいいんです。
あなたもそう思うでしょうエマ殿?」
ドラファルさんの語りかけた相手に俺も視線を送る。
身の丈もある杖を持ち、少しくたびれたとんがり帽子を小さな頭にのせた、いかにも魔法使いといった装いの女性。
稀代の天才魔術研究者であり、現代最強の魔導士であるエマ・シーラッハ。
「神域の魔女」との異名を持つ彼女も俺の側近のひとりだ。
これまたどういうわけだかなんだけど。
「エドワードさん。
シマダ商会は素晴らしい人材の宝庫ではありますが、跡継ぎという点においてあなた以上にふさわしい人材はいないと私も思っておりますよ。
コウタロウさんの妻である私が言うんです。
これ以上ない判断材料ではありませんか」
彼女は当たり前のように俺の妻であると述べているが、そうではない。
素晴らしい才と美貌を持った彼女に言い寄られるのはとても光栄なことであるが、俺は徹底的な独身主義者である。
上記の理由から幾度とない告白を断ってきたが、彼女は諦めるつもりがないらしくついには自ら妻であると公言しはじめたのだ。
まあ、独身主義である俺がそれで困るようなことはないので、彼女の好きにさせているが。
彼女のこれからを思い、きちんと強くお断りをしているんだがなあ。
俺としては早く次の恋を見つけてほしいものである
「ま、そんなわけだ。
俺もこの二人も……なんならほかの幹部たちも君なら問題ないと判断しているんだ。
自信を持ってやりなよ。
困ったことがあったら俺もこの二人も助けてあげるからさ」
「……わかりました。
では、ありがたくシマダ商会会長の役職拝命させていただきます。
お三方の期待に恥じない働きを見せれるよう精進してみせます」
「よし、任せたよ」
こうして俺は自ら立ち上げた商会から身を引くことになった。
エドワード君に任せっきりにするつもりはないが、なんとなく肩の荷が降りた気がする。
思い返せばまったくずいぶんと大きく成長したものだ。
いや……俺も全貌は把握してないが、ひょっとして大きくなり過ぎたのでは?
日本ではどこにでもいるような見た目のアラサーのしがない男だ。
強くたくましく労働できるように、とあるスーパービジネスマンの名前から一文字拝借して名付けられた、生まれついてのビジネスマンである。
その名に恥じることなく現世でも俺は働きまくっていた。
労働というものになんの疑念も持たず、ただ経済と顧客の満足のために働きまくった。
働くことは俺の性に合っていた。
俺にはこれといった趣味も特技もないからだ。
強いて言うなら美味しい食事と酒は好きだが、ぐうたら過ごした休日の晩酌より、がっつり働いて疲れ切った日の晩酌の方がなんとも身に染みる美味さを感じれるものだから、俺は休日出勤も喜んで応じたものだ。
そんな俺はどういうわけだが異世界にいる。
帰宅中、二つの眩い光が突っ込んできたと思った矢先、俺はなにもない草原に独り佇んでいた。
スーツとビジネスバッグを下げた姿のままで。
そこからはもう大変だった。
それはもう大変だった。
語ればキリがないほどの苦労だったのでここでは割愛するが……。
しかし、様々な助けと出会い、運に恵まれたことも相まってなんとか自分の会社を立ち上げるまで至り、こうして今日という日を迎えることになったのだ。
「じゃあ、エドワード君。
シマダ商会のことは頼んだよ。
今日から君がこの商会のトップだ」
俺は目の前でさながら騎士のようにひざまづく一人の青年に話す。
ここはとある商会の一室……でしかないのだが、どういうわけかこの国の玉座の間より荘厳かつ豪華な仕様になっている。
よくわからない絵画やら、役割のわからない無駄にでかい壺やらといった芸術品が絶妙なバランスで配置されている。
俺が成金趣味というわけではない。
魔王やらドラゴンやらからお返しの品としてもらったものを置いているだけだ。
倉庫に放り込んで、埃被っちゃうだけの置物にしておくのもなんだか不義理だし。
それぞれの品が国宝級のものであるらしいが、あいにく俺はそういった審美眼的なものが備わっていないのでなんとも言えないところではある。
「コウタロウさん。
そのような大役……とても僕に務まるとは思えません」
ヨーロッパ風の端正な顔立ちを自信なさげに歪ませてエドワードは言う。
俺は小さくため息をつき、かたわらに立つ男に声をかける。
「もう何度も話し合って決めたことじゃないか。
俺はエドワード君になら任せられると心から思っているんだ。
ドラファルさんもそう思いますよね?」
「ええ。
まず間違いなく。
エドワード様なら今後数百年は安泰でしょう」
「数百年って。
そのころにはみんな土に還って骨ですよ。
ドラファル翁の寿命と一緒にしないでください」
「ふぁっふぁっふぁ。
ちょっとした冗談ですよ。
でも、エドワード様なら安泰という判断は本心から思っておりますぞ」
白く長い顎鬚を撫でつけながらドラファルさんは言う。
ドラゴニュートとハイエルフのハーフであり、千年近い寿命を持つ「生ける伝説」ことドラファルさん。
どういうわけか俺の側近を務めるひとりである。
「まあ、役職の肩書がちょっと変わるだけです。
それだけですよ。
自信を持っていつもと同じようにやればいいんです。
あなたもそう思うでしょうエマ殿?」
ドラファルさんの語りかけた相手に俺も視線を送る。
身の丈もある杖を持ち、少しくたびれたとんがり帽子を小さな頭にのせた、いかにも魔法使いといった装いの女性。
稀代の天才魔術研究者であり、現代最強の魔導士であるエマ・シーラッハ。
「神域の魔女」との異名を持つ彼女も俺の側近のひとりだ。
これまたどういうわけだかなんだけど。
「エドワードさん。
シマダ商会は素晴らしい人材の宝庫ではありますが、跡継ぎという点においてあなた以上にふさわしい人材はいないと私も思っておりますよ。
コウタロウさんの妻である私が言うんです。
これ以上ない判断材料ではありませんか」
彼女は当たり前のように俺の妻であると述べているが、そうではない。
素晴らしい才と美貌を持った彼女に言い寄られるのはとても光栄なことであるが、俺は徹底的な独身主義者である。
上記の理由から幾度とない告白を断ってきたが、彼女は諦めるつもりがないらしくついには自ら妻であると公言しはじめたのだ。
まあ、独身主義である俺がそれで困るようなことはないので、彼女の好きにさせているが。
彼女のこれからを思い、きちんと強くお断りをしているんだがなあ。
俺としては早く次の恋を見つけてほしいものである
「ま、そんなわけだ。
俺もこの二人も……なんならほかの幹部たちも君なら問題ないと判断しているんだ。
自信を持ってやりなよ。
困ったことがあったら俺もこの二人も助けてあげるからさ」
「……わかりました。
では、ありがたくシマダ商会会長の役職拝命させていただきます。
お三方の期待に恥じない働きを見せれるよう精進してみせます」
「よし、任せたよ」
こうして俺は自ら立ち上げた商会から身を引くことになった。
エドワード君に任せっきりにするつもりはないが、なんとなく肩の荷が降りた気がする。
思い返せばまったくずいぶんと大きく成長したものだ。
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