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ロングホームルームでの役職決め2
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「じゃあ団長は佐々木君ということでいいですか?」
教壇に立った組長の侘実がクラスのみんなに確認する。反対する者はいない。
「じゃあ、佐々木君よろしくお願いします」
佐々木の近くにいる者たちが拍手をしだしたので、皆もパラパラと乾いた拍手を送る。
佐々木は照れくさそうに右手を首に添えてはにかんでいる。
僕と三鍋も無言で拍手を送った。
外は雲に覆われ薄暗くなり、ポツポツと小雨が降りだしてきて、窓際の生徒がガラス窓を閉めた。
僕は頬杖をついて、ゲームに集中している三鍋を眺めていた。
身体が小さめな三鍋は顔もこじんまりしていて、どちらかというと中性的なその童顔が——本人は気に入っていないようだけれど——よく似合っている。
手はせわしなく動いているのに、顔は画面と一定距離を保ってぴたりととまっているのが、あまりゲームしない自分には不思議に思える。
普通ゲームにあわせてリアクションを取りそうなものだが、コアなゲーマーというのは一旦集中しだすと無駄なエネルギーを使わず、攻略することに全神経を研ぎ澄ませるのだろう。
右側に座る僕には三鍋の右半分の顔しかみえない。
鼻の横にぽっこりとほくろが飛び出ていて、普段は三鍋のなかに住んでいる意思決定のなにかが擬人化して、ほくろから現れるんじゃないかと想像した。
ゲームをしている三鍋に女子が二人ゆっくり近づいてきて、前のほうにいる子がためらいがちに話しかけた。
「……三鍋君ってひょっとしてゲーム実況やったりしてる?」
いきなり話しかけられて驚いた三鍋が口を開けたまま女子を見上げる。僕から反対側を向いたので鼻横のほくろが見えなくなった。
「……え!?……やってるけど……、どして?」
「私の弟が実況動画見てて、その声聞いたら三鍋君にそっくりだったから」
「あーそうなんだ……。弟もFPSやってるの?」
「うん、全然下手みたいだけどね」
僕は三鍋がゲーム実況していることは知らなかった。
教えてくれればよかったのにと思うと同時に、自分との距離が一歩離れたように感じた。
「いつからやってるの?」
女子が訊ねる。
「うーん、初めて動画出したのは中二のときかなー」
「えー!編集とか自分でしてるのすごいよねー!」
前の女子が後ろに控えるもう一人に振り返り、後ろの子もうん、うんと頷いて三鍋に視線を向ける。
「……えへっ」
嬉しそうに口もとをほころばせる三鍋は恥ずかしいのか、うつむいてゲーム画面に視線を戻す。
それを見た女子二人組は手で口を覆って、お互いに向かい合ってほくほくと笑っていた。
三鍋と僕らがそうこうしているうちに、副団長と実行委員も決まったようで、侘実が役職につく三人の名前を黒板に書いている。
団長は先ほど決まった佐々木。
副団長は立華になっていた。実行委員は真面目な男子が——立候補したのか押し付けられたのかわからないが——務めるようだ。
「委員会に登録する三役職はこの三人に務めてもらいます。よろしくお願いします」
侘実がお辞儀する。
パラパラと乾いた拍手の音が教室に響く。
「他にも衣装係や用具係などいると思いますけど、そういうのは企画を決めてからのほうがいいですかね?」
体育祭では各クラスごとにダンスパフォーマンスの時間が設けられており、音楽にあわせて創作ダンスをする。どんな世界観でなんのキャラクターたちが踊るのかという企画をたて、それにあわせた背景や衣装、小道具を用意する。当然それらを生徒自身ですべて準備する必要があるから、役割分担のために係をつくるのだ。
立華が言った。
「いいと思うよー。ちなみに私はシンデレラみたいなお姫様が白馬の王子様に連れてかれるストーリーがいいー」
侘実がなるほどと返す。
「他にこういうのやってみたいっていうのありますか?」
「近くの人とグループになって案をまとめて発表してみたらいいんじゃない」
別の女子が提案する。
「そうですね、じゃあ皆さん近くの人と話し合って、五分後に発表しましょう」
侘実がそう言って、生徒たちは輪をつくるように顔をつきあわせる。
僕たちも話し合う。
こういうとき積極的に案を出せるのは女子だ。男子はこういうイベントものを考えるのが苦手なのだ。
………………
各グループが発表したうえで話し合いの結果、ライオンキングを模したダンスをすることになった。団長の佐々木がライオンのお面をかぶり、他主要キャラを演じる生徒がもろもろの動物に扮して踊る。もちろんヒロインのナラ役は副団長の立華だ。
他の生徒たちも主要キャラの格好をするが、代表的な生徒たちとは区別できるような衣装にするようだ。
そして衣装係が女子を中心として、大道具作りが男子、その他小道具などの係が適当に割り振られて、係決めは流れるように決まっていきロングホームルームは解散となった。
ちょうどいい頃合いだったようで、授業終わりのチャイムがなった。
これで今日の授業はすべて終わり、最後に掃除を済ませておのおの部活へ向かう。
教壇に立った組長の侘実がクラスのみんなに確認する。反対する者はいない。
「じゃあ、佐々木君よろしくお願いします」
佐々木の近くにいる者たちが拍手をしだしたので、皆もパラパラと乾いた拍手を送る。
佐々木は照れくさそうに右手を首に添えてはにかんでいる。
僕と三鍋も無言で拍手を送った。
外は雲に覆われ薄暗くなり、ポツポツと小雨が降りだしてきて、窓際の生徒がガラス窓を閉めた。
僕は頬杖をついて、ゲームに集中している三鍋を眺めていた。
身体が小さめな三鍋は顔もこじんまりしていて、どちらかというと中性的なその童顔が——本人は気に入っていないようだけれど——よく似合っている。
手はせわしなく動いているのに、顔は画面と一定距離を保ってぴたりととまっているのが、あまりゲームしない自分には不思議に思える。
普通ゲームにあわせてリアクションを取りそうなものだが、コアなゲーマーというのは一旦集中しだすと無駄なエネルギーを使わず、攻略することに全神経を研ぎ澄ませるのだろう。
右側に座る僕には三鍋の右半分の顔しかみえない。
鼻の横にぽっこりとほくろが飛び出ていて、普段は三鍋のなかに住んでいる意思決定のなにかが擬人化して、ほくろから現れるんじゃないかと想像した。
ゲームをしている三鍋に女子が二人ゆっくり近づいてきて、前のほうにいる子がためらいがちに話しかけた。
「……三鍋君ってひょっとしてゲーム実況やったりしてる?」
いきなり話しかけられて驚いた三鍋が口を開けたまま女子を見上げる。僕から反対側を向いたので鼻横のほくろが見えなくなった。
「……え!?……やってるけど……、どして?」
「私の弟が実況動画見てて、その声聞いたら三鍋君にそっくりだったから」
「あーそうなんだ……。弟もFPSやってるの?」
「うん、全然下手みたいだけどね」
僕は三鍋がゲーム実況していることは知らなかった。
教えてくれればよかったのにと思うと同時に、自分との距離が一歩離れたように感じた。
「いつからやってるの?」
女子が訊ねる。
「うーん、初めて動画出したのは中二のときかなー」
「えー!編集とか自分でしてるのすごいよねー!」
前の女子が後ろに控えるもう一人に振り返り、後ろの子もうん、うんと頷いて三鍋に視線を向ける。
「……えへっ」
嬉しそうに口もとをほころばせる三鍋は恥ずかしいのか、うつむいてゲーム画面に視線を戻す。
それを見た女子二人組は手で口を覆って、お互いに向かい合ってほくほくと笑っていた。
三鍋と僕らがそうこうしているうちに、副団長と実行委員も決まったようで、侘実が役職につく三人の名前を黒板に書いている。
団長は先ほど決まった佐々木。
副団長は立華になっていた。実行委員は真面目な男子が——立候補したのか押し付けられたのかわからないが——務めるようだ。
「委員会に登録する三役職はこの三人に務めてもらいます。よろしくお願いします」
侘実がお辞儀する。
パラパラと乾いた拍手の音が教室に響く。
「他にも衣装係や用具係などいると思いますけど、そういうのは企画を決めてからのほうがいいですかね?」
体育祭では各クラスごとにダンスパフォーマンスの時間が設けられており、音楽にあわせて創作ダンスをする。どんな世界観でなんのキャラクターたちが踊るのかという企画をたて、それにあわせた背景や衣装、小道具を用意する。当然それらを生徒自身ですべて準備する必要があるから、役割分担のために係をつくるのだ。
立華が言った。
「いいと思うよー。ちなみに私はシンデレラみたいなお姫様が白馬の王子様に連れてかれるストーリーがいいー」
侘実がなるほどと返す。
「他にこういうのやってみたいっていうのありますか?」
「近くの人とグループになって案をまとめて発表してみたらいいんじゃない」
別の女子が提案する。
「そうですね、じゃあ皆さん近くの人と話し合って、五分後に発表しましょう」
侘実がそう言って、生徒たちは輪をつくるように顔をつきあわせる。
僕たちも話し合う。
こういうとき積極的に案を出せるのは女子だ。男子はこういうイベントものを考えるのが苦手なのだ。
………………
各グループが発表したうえで話し合いの結果、ライオンキングを模したダンスをすることになった。団長の佐々木がライオンのお面をかぶり、他主要キャラを演じる生徒がもろもろの動物に扮して踊る。もちろんヒロインのナラ役は副団長の立華だ。
他の生徒たちも主要キャラの格好をするが、代表的な生徒たちとは区別できるような衣装にするようだ。
そして衣装係が女子を中心として、大道具作りが男子、その他小道具などの係が適当に割り振られて、係決めは流れるように決まっていきロングホームルームは解散となった。
ちょうどいい頃合いだったようで、授業終わりのチャイムがなった。
これで今日の授業はすべて終わり、最後に掃除を済ませておのおの部活へ向かう。
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