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駅へ
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————ジリリリリリリン!!
三度目の目覚ましを叩いて、さすがに起きないといけないとわかっているがどうしても開かない目を、無理やり身体を起こすことで開かせる。
どんなに寝癖がついていようと、朝の準備はせずにそのまま学校へいく僕は重たい身体を持ち上げてベッドから降り——さすがにカーテンは開けておかないと気持ち悪い——着替えてすぐに学校へ向かう。
予習の終わっていない教科書とノート、そして無駄に厚い問題集の入った重たいリュックを持ち上げ、滑らないよう足元を確認しながら階段を下りて、玄関にある弁当箱を持って家をでる。
僕ら高校生と弁当を作る母親以外はまだ眠っている。
昔はもっと早く起きて自転車を漕ぎ、みずみずしくもほの冷たい風にあたりながら、駅まで通学していたこともあったが、これ以上早起きができない今ではほとんど母親に車で送ってもらっている。
今日もいつも通り車のタイヤに勝手に視線がいく。力なくサイドドアを開けてリュックを放り込み、バタンと身体を投げ出すと同時にドアを閉める。
車が小さいから背をまっすぐ伸ばせない。
母親は僕が自室から出る前からすでに車に乗ってエンジンをかけている。
昨日の夜から一言も母親と話していない。母親だけでなく父親とも二つ上の兄とも話していない。
高校生になった僕の生きる姿は、こんな小さな家庭の中にあると思わない。
————チュン
————チュンチュルン
外の電線にとまる小鳥には僕がどうみえているのだろうか……。
僕がシートベルトをしたのを母親は律儀に確認して車を出す。
毎日おなじルーティンワークを表情も変えずただ遂行する会社員のように、車は決まった道を走り、外の風景は——車道の左路肩に一定間隔に設置してある電柱が周期的に——視界の脇を流れてゆく。この時間の外は少し肌寒いから母が暖房をかけている。乾燥した温風が前からまとわりつくようにボウッと右手にかかるのを、弁当箱を押し出して身体にあたらないようにする。
「……今日の夜食べたいものある?」
母親が前を向いたまま尋ねる。中学生までは普通に会話していたと思うけれど、高校に入ってからどう喋ればいいのかわからなくなってきた。
「うーん……なんでもいい」
「わかった」
——僕は車で送ってもらうこの時間があまり好きじゃない。こっちから話しかけることはないし、話しかけられたくもない。ただ駅まで行ければよくて、そのために毎日この時間は我慢……している。
今日は踏切が下りる前に抜けることができた。日によっては僕が起きてからぼーっとしすぎて、踏切時刻に間に合わないこともある。
そんな日はもう……、一日の意義を失ったも同然と言っていい。
駅のロータリーで母親がやや急ブレーキぎみに車を停める。
「いってらっしゃい」
母は耳を澄まさないと聞き分けられないほどの声でそう告げ、黙って外に出る僕をおそらく見届けてから、半分ぐらいの場所にいたところからロータリーを回りきって静かに家へ帰っていく。
振り返ることなくロータリーの段差を一歩一歩踏みしめて、古くていつ倒壊するかもわからない駅のなかへ歩いていった。
三度目の目覚ましを叩いて、さすがに起きないといけないとわかっているがどうしても開かない目を、無理やり身体を起こすことで開かせる。
どんなに寝癖がついていようと、朝の準備はせずにそのまま学校へいく僕は重たい身体を持ち上げてベッドから降り——さすがにカーテンは開けておかないと気持ち悪い——着替えてすぐに学校へ向かう。
予習の終わっていない教科書とノート、そして無駄に厚い問題集の入った重たいリュックを持ち上げ、滑らないよう足元を確認しながら階段を下りて、玄関にある弁当箱を持って家をでる。
僕ら高校生と弁当を作る母親以外はまだ眠っている。
昔はもっと早く起きて自転車を漕ぎ、みずみずしくもほの冷たい風にあたりながら、駅まで通学していたこともあったが、これ以上早起きができない今ではほとんど母親に車で送ってもらっている。
今日もいつも通り車のタイヤに勝手に視線がいく。力なくサイドドアを開けてリュックを放り込み、バタンと身体を投げ出すと同時にドアを閉める。
車が小さいから背をまっすぐ伸ばせない。
母親は僕が自室から出る前からすでに車に乗ってエンジンをかけている。
昨日の夜から一言も母親と話していない。母親だけでなく父親とも二つ上の兄とも話していない。
高校生になった僕の生きる姿は、こんな小さな家庭の中にあると思わない。
————チュン
————チュンチュルン
外の電線にとまる小鳥には僕がどうみえているのだろうか……。
僕がシートベルトをしたのを母親は律儀に確認して車を出す。
毎日おなじルーティンワークを表情も変えずただ遂行する会社員のように、車は決まった道を走り、外の風景は——車道の左路肩に一定間隔に設置してある電柱が周期的に——視界の脇を流れてゆく。この時間の外は少し肌寒いから母が暖房をかけている。乾燥した温風が前からまとわりつくようにボウッと右手にかかるのを、弁当箱を押し出して身体にあたらないようにする。
「……今日の夜食べたいものある?」
母親が前を向いたまま尋ねる。中学生までは普通に会話していたと思うけれど、高校に入ってからどう喋ればいいのかわからなくなってきた。
「うーん……なんでもいい」
「わかった」
——僕は車で送ってもらうこの時間があまり好きじゃない。こっちから話しかけることはないし、話しかけられたくもない。ただ駅まで行ければよくて、そのために毎日この時間は我慢……している。
今日は踏切が下りる前に抜けることができた。日によっては僕が起きてからぼーっとしすぎて、踏切時刻に間に合わないこともある。
そんな日はもう……、一日の意義を失ったも同然と言っていい。
駅のロータリーで母親がやや急ブレーキぎみに車を停める。
「いってらっしゃい」
母は耳を澄まさないと聞き分けられないほどの声でそう告げ、黙って外に出る僕をおそらく見届けてから、半分ぐらいの場所にいたところからロータリーを回りきって静かに家へ帰っていく。
振り返ることなくロータリーの段差を一歩一歩踏みしめて、古くていつ倒壊するかもわからない駅のなかへ歩いていった。
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