絵画のような人魚

葉桜色人

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絵画のような人魚ー72ー

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連休明けから数日が経ったある日、僕は一人、授業を終えて帰り道を歩いていた。大学の授業は忙しくて、ここしばらくはバイトも休みがちだった。

僕は缶コーヒーを飲みながら、まっすぐ寮には帰らず、例の神社へ向かっていた。少しでも一人で考えて整理したかったからだ。と言っても、解決策は浮かばない。ループみたいに繰り返しを経験しているだけ。

明日は明日の経験が待っている。それをこなしていく日々を過ごせば良いのだろうか?心の隙間に二度と塗れない色だけが滲んでいた。


何も答えが出ないまま、僕は翌朝を迎えるのだった。


瞼の裏に光を感じて、僕は目覚めた。すると目覚めたと同時に、緑郎のハイテンションな声が響く!!


何事かと、僕は眩しい朝の光を避けるように瞼を薄っすらと開けた。


「四季くん、おはようさん。今日も素晴らしい晴天や」

「おはよう。今何時?」

「六時や」

「早く起きたな」と寝ぼけたまま言葉を返す。

緑郎がテンション高めなのは訳があった。今日がヌードデッサンの開催日なのだ。昨日の夜から奴はテンションが上がりっぱなしだった。分からなくはないが、起きるのが早すぎる。僕は大きな欠伸を引き連れて、顔を洗いに洗面所へ向かった。すると寝癖を激しく跳ねさせた秋人が、眠そうに歯を磨いていた。


「おはよう秋人」

「おう、四季」


鏡越しから挨拶を交わす秋人の目は、明らかに眠そうだった。

「ずいぶん早起きしたな」

「緑郎の奴に起こされたんだよ。あいつ、昨日からテンションが高いから」

「そうか、四季も起こされたのか。おれも奴に無理やり起こされたんだよ。あいつ、朝っぱらから部屋に来るんだぜ」

「秋人もなんだ。あいつ、おれたちの都合は無視だな」

「だな。ヌードデッサンは楽しみだけど、あそこまでテンション高いと、逆に引くわ」

「確かに」と僕は同意した。


そのあと、お互い無言で鏡に向かって目覚めの支度をした。身体は起きているが、脳はまだ寝ていた。こんな感じで僕と秋人の朝が始まった。一人、僕たちを置いて今日のヌードデッサンに燃えてる男はいたけど。


大学に着いた頃、僕と秋人も完全体になっていた。空洞だった身体に精神と魂を入れたみたいだ。そして僕たちはヌードデッサンの会場に向かった。

さすがにここまで来ると僕のテンションも上がり、期待と興奮の混ざった感情がふつふつと沸騰していた。


「緑郎じゃないけど、いざ始まると思ったらテンションが上がるな」と秋人がスキップをしそうな勢いで歩く。その横で緑郎がマジでスキップをしていてたが……


「今頃、純奈ちゃんもドキドキしてるんやろな。あかん、どうしよう。想像するだけで興奮するわ!!」

「別室でやるから見れないだろう。大体、どんな想像してるんだよ」と僕は訊いた。

「四季くんは想像せえへんの!!あの巨乳を!!」

「しないよ。それよりも僕たちのところに来るモデルさんが気になるな」

「そうだよな。美人な人だったら嬉しいよな」と秋人が僕の意見に賛同した。緑郎はどうしても真壁純奈のヌードが気になるようだが……


僕は心の中で一度見ていることもあったので、そんなには気にしていなかった。どちらかと言うと、あの日以来、彼女から連絡が無いことのが気になっていた。とにかく僕たち三人は、テンション高めに期待と興奮のまま会場へ入るのだった。


そして、その期待がまさか裏切られるとは思いもしてなかった。男三人のエロい妄想を打ち消すように、ヌードデッサンは独特の雰囲気を漂わせていたのだ。講師の先生は淡々と説明をして静まり返った教室にヌードモデルを呼んだ。


この時点で僕たちは、芸術という世界を思い知ったのだ。真剣な表情で思い思いの場所を確保する学生たち。

今回、一般の方も参加していたので教室の雰囲気は違っていた。僕たちのように中途半端な芸術をしている人はいなかった。緊迫感ある空気に、僕と秋人と緑郎の三人はようやく、ここが芸術の場だと身体で感じたのだ。


周りの空気に、僕たちも緊迫感に包まれた。頭の中にあった妄想は消えていた。秋人も慌てて場所を確保していたし、緑郎は場の空気に感化されたのか急にモードが変わっていた。

僕も慌てて教室の中央に置かれている椅子を見た。先生の説明だと、あの椅子にモデルの人が座るようだ。

学生と一般の人を合わせた25人の参加者は、緊迫感で静まる教室でモデルの人を待った。遊び半分、芸術半分の気持ちで来ていた僕は、少し場違いだったかもと心の中で思うのだった。


そしてついに、ヌードデッサンが始まろうとしていた。


つづく……
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