絵画のような人魚

葉桜色人

文字の大きさ
上 下
27 / 74

絵画のような人魚ー27ー

しおりを挟む
第27話


携帯電話へ表示された名前に、僕は秋人が言った言葉を思い出させた。真壁純奈にそれっぽい態度をしたら痛い目にあうぞ!!

どうしようかと一瞬迷ったが、頭の中に上手い対策が思い浮かばない。どんな風に対応すれば良いのか?経験値の少ない僕にとって、上手く交わす案などあるわけない。あの時、秋人から何か助言をもらえれば良かったと後悔するのだった。

迷っている間にも携帯電話の着信は鳴り続けていた。まるで罠を仕掛けた釣り針のようだ。疑似餌の付いた罠に引っかかるのを待ち続ける。

その時、携帯電話の着信が鳴り止んだ。玄関で立ち止まっている僕をあざ笑うように音が消えた。ホッと胸をなでおろして、秋人に良い対策はないか聞いてみようと思った。
ところが次の瞬間、手にした携帯電話が再び鳴り出した!!ビクッとする僕をあざ笑う声が聞こえた。


【四季、逃がさないわよ】とそんな言葉がこだまする。薄笑いする真壁純奈の顔も浮かぶ。もちろんそんなのは僕の妄想であって、現実は携帯電話が鳴り響いているのだ。さっきまでの幸せだった時間が嘘みたいに思える。着信音はまだ鳴っている。軽快なメロディーが僕の心を苦しめていた。だけど何も彼女が本当に、僕に対して好意を持っているかはわからない。もしかしたら僕の勝手な決めつけかも知れないし……


彼女ができたから調子にのってしまったんだろう。冷静に考えたら、すべて僕の勘違いで、彼女からしたら只の話しやすい男子だと思っているだけ。異性として思っていない。そんな風に判断して、僕は思い切って電話に出た。


「もしもし……」と僕の声は少し緊張していた。


『……もしもし純奈です。四季くん今、大丈夫?』


「あっ、大丈夫だけど」


『良かった。もしかしたら秋人くんと一緒かもって思ったから』


僕が一人だと知った瞬間、明らかに彼女の声が変わった。まるで秋人や緑郎がそばに居ないことを願っていたみたいだ。


『一人なんだよね』


「うん、そうだよ。今、寮に帰って来たんだ」


『あのね、早速なんだけど、昨日オリーブで話したと思うんだけど、私が描いてる絵本の挿し絵を見て欲しいなぁ』


なんだ……そんなことか。てっきりもっとビックリするような内容だと想像していた。それなら特に問題はない。だから僕は二つ返事で、いつでも良いよと返した。


『きゃあー嬉しい。絶対だよ』と電話口の向こうで真壁さんは嬉しそうに言った。


このあと、僕はとんでもない勘違いをしていたと気付かされる。だが、時すでに遅し、僕は自ら真壁純奈の罠に引っかかるのだった。


「それじゃあ、いつにしようかな?皆の予定も聞いた方良いよね」と僕が言うと、『違うよう、四季くんだけに見せたいの。だから、皆には内緒にして欲しいの』


思わず言葉に詰まった!!自らオッケーしておいて、今さら断るなんておかしい。今の流れで断れるわけがない。僕は自ら地雷を踏んでしまったのだ!!


『……四季くん、迷惑だった?』明らかにトーンの下がった真壁さんの声に、「いや、大丈夫だよ。僕も真壁さんがどんな絵を描いているか見たかったんだ」と被せるように言うのだった。


口から出まかせじゃないけど、自分が言ったセリフに優しさとは違う後悔の色を感じた。昔から人を傷付けるのを恐れて、つい無理をして本音が出ない。


『四季くんが良かったらなんだけど、あさっての金曜日は大丈夫かな?』


すぐに頭の中であさってのスケジュールを浮かべたが、特に予定という予定はなかった。だから僕はあさっての予定をあけとくと約束した。

電話を切った後、僕はようやく部屋へと向かった。歩きながら考えるのは、真壁純奈の態度。あの嬉しそうな反応に、僕の行動は勘違いされないのかと。でも、向こうもオリーブで僕に挿し絵を見せる約束をしたから、ただそれだけの理由で誘ってきたかもしれない。そんな風に僕は都合良く考えては、少し自分に嫌気がさした。


もし、このことをみゆきが知ったら良くは思わないはずだ。僕と付き合っているんだし、それを他の女性といるところを見たら、なんて思うのか……


僕は自ら踏んだ地雷に、再び後悔をするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

令嬢たちの破廉恥花嫁修行

雑煮
恋愛
女はスケベでなんぼなアホエロ世界で花嫁修行と称して神官たちに色々な破廉恥な行為を受ける貴族令嬢たちのお話。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

お尻たたき収容所レポート

鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。 「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。 ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

処理中です...