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5.レベルアップ
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●5月1日 ダンジョン 水沢健司
二匹目のモンスターと遭遇したのは、最初の襲撃地点から30メートルほど進んだ場所であった。
相手は、最初と同じトビトカゲ。
事前に天井に張り付く相手を見つけていた三人は、滑空してくるトビトカゲを難なくかわし、簡単にとどめを刺す。
清美たちは、倒したトカゲの血抜きを行いながら、今の戦闘について振り返る。
「何か、思ったよりも弱いわね。奇襲は怖いけれど、それも事前に知っていれば容易に気付けるし……。これはどう受け止めればいいのかいら?」
「確かに、一度地面に落とすと普通のトカゲよりもかなり動きが鈍いようですね」
「そうなのよね。普通のトカゲに襲われて怪我をすることはさすがにないけれど、逃げ足はすばしこいから、逆に倒すことができるかというと自信がないもの。ある意味普通のトカゲよりも弱いわね。これなら、素手でも捕まえられるんじゃない?」
「まだ、チュートリアル、お試し版なので手心を加えてくれているのかもしれません」
「いずれ、もっと強いのが現れるかもしれないというの?」
「ええ、このトカゲは緑色をして、壁の色から浮いているせいで簡単に見つけられます。ですが、体の色が壁の色と同じ褐色などの保護色になるだけで奇襲の危険度は跳ね上がります」
「うわあ、色違いの強いやつが出てくるのはゲームのお約束だけれど、現実になると嬉しくないわね」
「何をいまさら」
「ゲームはさておき、こいつも元々は森に住んでいたのを無理やり連れてきたのかもしれませんね」
「まあ、とりあえずの目標は、トビトカゲを後一匹倒すことね」
清美の宣言に、伊吹が首をかしげる。
「後一匹で何かあるのか?」
「後一匹で、ひとりあたりトビトカゲ一匹になるじゃない。そうすればレベルアップの可能性がでてくるわ」
「それも、ゲームの知識じゃな……」
「その通り!」
「それじゃあ、そろそろあ進みましょう」
水沢はそう言って歩き始めた。
「次のが現れたようです。右の壁です」
「了解」
清美はそう言うと、手慣れた様子でフォーメーションを整える。
滑空してきたトビトカゲを、まず水沢が盾で受け止めて地面に叩き落とす。そこで、清美が前に出て地面を這うトビトカゲに薙刀で止めを刺す。
『レベルアップしました。ステータスの閲覧が可能になります』
トビトカゲに止めを刺すと同時に、三人の頭の中にメッセージが流れた。
「うん、予想通り」
「何じゃ、これは誰の声じゃ……」
「ステータスですか……。何が表示されるのでしょうか?」
三人三様の感想が、口から漏れる。
「レベルは0から1に上がったようですね。ステータスはと……」
「筋力、体力、敏捷力か……基本的なやつね。後は経験値と。魔力とかはないのか。残念……」
「ええい、わしにも分かるように説明しろ」
「伊吹さんもこう言っていますし、私たちも情報をまとめる必要があります。少し早いですが、一度地上に戻りませんか?」
「そうね、レベルアップをどうするかも考える必要があるし、いいんじゃないかしら」
「そうと決まったら、さっさと帰るぞ」
そう言って、踝を返す伊吹を、水沢が慌てて止める。
「帰り道も、モンスターに注意を払いながら進む必要がありますよ。安全を確保したつもりでも、どこからかモンスターが湧き出してくる可能性がありますから……」
伊吹は、肩を落としながら答える。
「それも、ゲームの知識なんじゃな……」
実際、道中で一度トビトカゲに遭遇しながらも、地上への出口まで帰還することに成功した。
「そういえば、目印のマーカーや石はどうなってるの?」
「大丈夫ですね。マーカーの跡は消えずに残っていますし、石もそのままです。まだ、一定時間以上放置された物が、ダンジョンに吸収されないと決まったわけではありませんが、少なくとも一時間程度では大丈夫のようです」
「倒したモンスターの死体や血痕も残るのかしら?」
「そうかもしれませんね。定期的な清掃が必要になるかもしれません」
「面倒ね」
「それが普通じゃと思うぞ。実験が必要というなら、3匹の死体のうちの1匹をここに残していったらどうだ」
「そうしますか」
「まあ、悪いことばかりではありません。上手く行けば中継器をダンジョン内に設置することで、内部での通信が可能かもしれません。また、監視カメラを設置することで、探索者の安全確保や犯罪抑止につながるでしょう」
「そうなると、ダンジョン内と外部との通信も何とかしたいわね。有線はどうなのかしら?」
「次の機会に試してみましょう」
●5月1日 自宅 水沢健司
地上に出た三人は、門のあるリビングに腰を下ろす。
「トビトカゲの死体は、冷蔵庫に入れて置くわよ」
清美のその言葉に、伊吹が嫌そうな顔をする。
「まだ、食べるのを諦めとらんかったのか……」
「さてと先ほどのレベルアップという通知について説明させていただきます。レベルとかステータスなどの言葉は、ゲームの中でもロールプレイングゲームと呼ばれるもので用いられる用語です」
「結局ゲームからは逃れられんのか……」
「まあ、そうですね。と言うよりも、この『門』を作ったもの達が、地球のゲーム文化の知識を持っていてその仕組みを利用しているような気がしますが……」
「何でわざわざそんなことをするんじゃ。地球の文化に理解があるというのならば、まっとうな手段でコンタクトを取ってくればよかろう」
「案外、地球の文化に理解があるというのが、間違いなのかもね」
「それはどういう意味です?」
「ほら、メッセージは直接頭の中に伝えられたじゃない。テレパシーだか翻訳魔法だかしらないけれど、言葉ではなく直接概念が伝えられたのかもしれないわ。ただ、実際には別の概念を伝えようとしていたけれども、その概念が私たちの側に存在しなかったため、私たちの中で最もそれに近い概念に私たちが翻訳した結果かもしれないと思ったのよ」
「言い方は難解ですが、要するに電気の概念を知らないために、稲妻を神の怒りの矢と理解したようなものですか」
「そうそう。もし私たち3人が誰もゲームのことを知らない中世の人間だったら、ダンジョンが神の試練でレベルアップは神の恩寵として、私たちの側で解釈していたかもね」
「もし、そうだったら必然的に伝えられる概念の解釈に誤差が含まれることになりますね」
2人が議論に熱中し始めたのを、聞いていた伊吹が苛立ったように叫んだ。
「ええい、それでわしはどうすればいいんじゃ」
「ああ、すみません。とりあえず、ステータスとレベルのほうに話を戻しますね」
水沢は清美にこの件は後で二人で議論しようと合図を送り、話を戻した。
「ステータスというのは、ゲーム内でどれだけの能力を持つかを数値で表現したものです」
「例えば、筋力の数値が大きいものは、数値が小さいものより重い荷物を運ぶことができるなどです」
「体力はスタミナや病気への抵抗力。敏捷は体をどれだけすばやく動かせるかです。」
「レベルというのは、ゲーム内でどれだけ活動したかの目安となる数値ですね。レベルが上がると能力が上がりより重いものを運べるようになったり、敵と戦うのに有利になったりします。厳密には違いますが、戦闘の習熟度のようなものと考えてください」
「経験値というのは、習熟度がどれだけ溜まったかを示す数値です。次のレベルに上がるのに、後どれだけの戦闘が必要かの目安を示す数値とでも考えておいてください」
そこまで、話したところで、清美が何かに気づいたように、話に割り込む。
「ねえ、このステータス画面だけれど、ヘルプがあるみたいよ」
「ヘルプですか? それを見れば、ダンジョンを造った者が、現時点でどこまで情報を開示してよいと考えているかが分かりますね」
「それで、彼らは何と言っています? とりあえず、ステータス関連の項目についてはどうです?」
「ステータス自体については……あなたが話したこととに加えて、筋力、体力、敏捷力の各項目については、成人の平均値が10なんですって」
清美の言葉に、水沢が自分のステータスを告げる。
「私は、筋力が8、体力が4、敏捷力が8です。さすがに、年齢による衰えは隠せないということですね」
伊吹が、水沢に問い掛ける。
「体力がやけに低いようだが、例の何とか言う肺の病気のせいか?」
「COPDですよ。おそらくそう考えて間違いないと思います」
「あら、でもレベルアップごとにステータスポイントを2ポイント得られるんですって。10以下のステータスは1ポイントで、1ずつステータスが上げられるみたいよ」
「それは、ありがたいですね。後はステータスが上がることで、この息切れが何とかなれば良いのですが……」
伊吹が首をかしげながら問いかける。
「ゲームの数値をいじっただけで、病気が治るものなのか?」
「どうでしょう? 何しろ、人知を超えたものですので、試してみなければ分からないとしか言いようがありません」
清美が、さらにヘルプを読み上げる。
「11以上にステータスを上げるには、2以上のステータスポイントが必要となる。11で2、12で3、13で4……階差数列みたいね」
「通常の人間のステータスの上限は18。ステータスポイントを割り振ることで、それ以上に上げることも可能と」
「18……3d6って、本当にゲームね」
伊吹は、どうせゲーム用語だから聞いても無駄だろうと思いながらも、疑問に思った用語について質問する。
「何じゃ、その3d6ってのは?」
「1から6が出る普通のサイコロを3回振った目の合計のことよ。昔のゲームでは良く使われていたの」
「そうか……」
「ステータスの目安として、筋力30でマウンテンゴリラ並みですか。十分に超オリンピック級の能力ですが、岩を砕く超人を期待している人には物足りないでしょうね」
「経験値だけれど、レベル1になるのにトビトカゲ1匹分の60が必要なんですって。レベル2以降になるには2倍、3倍と必要な経験値が増えていくみたい」
「スキルも存在しないわね。スキルを上げて、剣で岩を切り裂くとかは無理みたいね」
「死亡時の復活もなし。当然と言えば、当然ですが、あまりうれしいニュースではありませんね」
「あら、それからダンジョンには階層があるみたい。ヘルプによるとダンジョン内に、また門があって別の階層に繋がっているんですって、ただし、現在は閉鎖中みたい」
二人の話を聞いていた伊吹は、疲れたように呟く。
「……それで、わしは結局何をすればいいんじゃ?」
「ステータスポイントの割り振りです。『ステータスウインドウ』と言って、ステータスを出してください。ステータスの中に10未満の数値があれば、それを上げてください。ああ、そこのボタンを押せばポイントが割り振られます」
「何だか、面倒じゃのう……」
二匹目のモンスターと遭遇したのは、最初の襲撃地点から30メートルほど進んだ場所であった。
相手は、最初と同じトビトカゲ。
事前に天井に張り付く相手を見つけていた三人は、滑空してくるトビトカゲを難なくかわし、簡単にとどめを刺す。
清美たちは、倒したトカゲの血抜きを行いながら、今の戦闘について振り返る。
「何か、思ったよりも弱いわね。奇襲は怖いけれど、それも事前に知っていれば容易に気付けるし……。これはどう受け止めればいいのかいら?」
「確かに、一度地面に落とすと普通のトカゲよりもかなり動きが鈍いようですね」
「そうなのよね。普通のトカゲに襲われて怪我をすることはさすがにないけれど、逃げ足はすばしこいから、逆に倒すことができるかというと自信がないもの。ある意味普通のトカゲよりも弱いわね。これなら、素手でも捕まえられるんじゃない?」
「まだ、チュートリアル、お試し版なので手心を加えてくれているのかもしれません」
「いずれ、もっと強いのが現れるかもしれないというの?」
「ええ、このトカゲは緑色をして、壁の色から浮いているせいで簡単に見つけられます。ですが、体の色が壁の色と同じ褐色などの保護色になるだけで奇襲の危険度は跳ね上がります」
「うわあ、色違いの強いやつが出てくるのはゲームのお約束だけれど、現実になると嬉しくないわね」
「何をいまさら」
「ゲームはさておき、こいつも元々は森に住んでいたのを無理やり連れてきたのかもしれませんね」
「まあ、とりあえずの目標は、トビトカゲを後一匹倒すことね」
清美の宣言に、伊吹が首をかしげる。
「後一匹で何かあるのか?」
「後一匹で、ひとりあたりトビトカゲ一匹になるじゃない。そうすればレベルアップの可能性がでてくるわ」
「それも、ゲームの知識じゃな……」
「その通り!」
「それじゃあ、そろそろあ進みましょう」
水沢はそう言って歩き始めた。
「次のが現れたようです。右の壁です」
「了解」
清美はそう言うと、手慣れた様子でフォーメーションを整える。
滑空してきたトビトカゲを、まず水沢が盾で受け止めて地面に叩き落とす。そこで、清美が前に出て地面を這うトビトカゲに薙刀で止めを刺す。
『レベルアップしました。ステータスの閲覧が可能になります』
トビトカゲに止めを刺すと同時に、三人の頭の中にメッセージが流れた。
「うん、予想通り」
「何じゃ、これは誰の声じゃ……」
「ステータスですか……。何が表示されるのでしょうか?」
三人三様の感想が、口から漏れる。
「レベルは0から1に上がったようですね。ステータスはと……」
「筋力、体力、敏捷力か……基本的なやつね。後は経験値と。魔力とかはないのか。残念……」
「ええい、わしにも分かるように説明しろ」
「伊吹さんもこう言っていますし、私たちも情報をまとめる必要があります。少し早いですが、一度地上に戻りませんか?」
「そうね、レベルアップをどうするかも考える必要があるし、いいんじゃないかしら」
「そうと決まったら、さっさと帰るぞ」
そう言って、踝を返す伊吹を、水沢が慌てて止める。
「帰り道も、モンスターに注意を払いながら進む必要がありますよ。安全を確保したつもりでも、どこからかモンスターが湧き出してくる可能性がありますから……」
伊吹は、肩を落としながら答える。
「それも、ゲームの知識なんじゃな……」
実際、道中で一度トビトカゲに遭遇しながらも、地上への出口まで帰還することに成功した。
「そういえば、目印のマーカーや石はどうなってるの?」
「大丈夫ですね。マーカーの跡は消えずに残っていますし、石もそのままです。まだ、一定時間以上放置された物が、ダンジョンに吸収されないと決まったわけではありませんが、少なくとも一時間程度では大丈夫のようです」
「倒したモンスターの死体や血痕も残るのかしら?」
「そうかもしれませんね。定期的な清掃が必要になるかもしれません」
「面倒ね」
「それが普通じゃと思うぞ。実験が必要というなら、3匹の死体のうちの1匹をここに残していったらどうだ」
「そうしますか」
「まあ、悪いことばかりではありません。上手く行けば中継器をダンジョン内に設置することで、内部での通信が可能かもしれません。また、監視カメラを設置することで、探索者の安全確保や犯罪抑止につながるでしょう」
「そうなると、ダンジョン内と外部との通信も何とかしたいわね。有線はどうなのかしら?」
「次の機会に試してみましょう」
●5月1日 自宅 水沢健司
地上に出た三人は、門のあるリビングに腰を下ろす。
「トビトカゲの死体は、冷蔵庫に入れて置くわよ」
清美のその言葉に、伊吹が嫌そうな顔をする。
「まだ、食べるのを諦めとらんかったのか……」
「さてと先ほどのレベルアップという通知について説明させていただきます。レベルとかステータスなどの言葉は、ゲームの中でもロールプレイングゲームと呼ばれるもので用いられる用語です」
「結局ゲームからは逃れられんのか……」
「まあ、そうですね。と言うよりも、この『門』を作ったもの達が、地球のゲーム文化の知識を持っていてその仕組みを利用しているような気がしますが……」
「何でわざわざそんなことをするんじゃ。地球の文化に理解があるというのならば、まっとうな手段でコンタクトを取ってくればよかろう」
「案外、地球の文化に理解があるというのが、間違いなのかもね」
「それはどういう意味です?」
「ほら、メッセージは直接頭の中に伝えられたじゃない。テレパシーだか翻訳魔法だかしらないけれど、言葉ではなく直接概念が伝えられたのかもしれないわ。ただ、実際には別の概念を伝えようとしていたけれども、その概念が私たちの側に存在しなかったため、私たちの中で最もそれに近い概念に私たちが翻訳した結果かもしれないと思ったのよ」
「言い方は難解ですが、要するに電気の概念を知らないために、稲妻を神の怒りの矢と理解したようなものですか」
「そうそう。もし私たち3人が誰もゲームのことを知らない中世の人間だったら、ダンジョンが神の試練でレベルアップは神の恩寵として、私たちの側で解釈していたかもね」
「もし、そうだったら必然的に伝えられる概念の解釈に誤差が含まれることになりますね」
2人が議論に熱中し始めたのを、聞いていた伊吹が苛立ったように叫んだ。
「ええい、それでわしはどうすればいいんじゃ」
「ああ、すみません。とりあえず、ステータスとレベルのほうに話を戻しますね」
水沢は清美にこの件は後で二人で議論しようと合図を送り、話を戻した。
「ステータスというのは、ゲーム内でどれだけの能力を持つかを数値で表現したものです」
「例えば、筋力の数値が大きいものは、数値が小さいものより重い荷物を運ぶことができるなどです」
「体力はスタミナや病気への抵抗力。敏捷は体をどれだけすばやく動かせるかです。」
「レベルというのは、ゲーム内でどれだけ活動したかの目安となる数値ですね。レベルが上がると能力が上がりより重いものを運べるようになったり、敵と戦うのに有利になったりします。厳密には違いますが、戦闘の習熟度のようなものと考えてください」
「経験値というのは、習熟度がどれだけ溜まったかを示す数値です。次のレベルに上がるのに、後どれだけの戦闘が必要かの目安を示す数値とでも考えておいてください」
そこまで、話したところで、清美が何かに気づいたように、話に割り込む。
「ねえ、このステータス画面だけれど、ヘルプがあるみたいよ」
「ヘルプですか? それを見れば、ダンジョンを造った者が、現時点でどこまで情報を開示してよいと考えているかが分かりますね」
「それで、彼らは何と言っています? とりあえず、ステータス関連の項目についてはどうです?」
「ステータス自体については……あなたが話したこととに加えて、筋力、体力、敏捷力の各項目については、成人の平均値が10なんですって」
清美の言葉に、水沢が自分のステータスを告げる。
「私は、筋力が8、体力が4、敏捷力が8です。さすがに、年齢による衰えは隠せないということですね」
伊吹が、水沢に問い掛ける。
「体力がやけに低いようだが、例の何とか言う肺の病気のせいか?」
「COPDですよ。おそらくそう考えて間違いないと思います」
「あら、でもレベルアップごとにステータスポイントを2ポイント得られるんですって。10以下のステータスは1ポイントで、1ずつステータスが上げられるみたいよ」
「それは、ありがたいですね。後はステータスが上がることで、この息切れが何とかなれば良いのですが……」
伊吹が首をかしげながら問いかける。
「ゲームの数値をいじっただけで、病気が治るものなのか?」
「どうでしょう? 何しろ、人知を超えたものですので、試してみなければ分からないとしか言いようがありません」
清美が、さらにヘルプを読み上げる。
「11以上にステータスを上げるには、2以上のステータスポイントが必要となる。11で2、12で3、13で4……階差数列みたいね」
「通常の人間のステータスの上限は18。ステータスポイントを割り振ることで、それ以上に上げることも可能と」
「18……3d6って、本当にゲームね」
伊吹は、どうせゲーム用語だから聞いても無駄だろうと思いながらも、疑問に思った用語について質問する。
「何じゃ、その3d6ってのは?」
「1から6が出る普通のサイコロを3回振った目の合計のことよ。昔のゲームでは良く使われていたの」
「そうか……」
「ステータスの目安として、筋力30でマウンテンゴリラ並みですか。十分に超オリンピック級の能力ですが、岩を砕く超人を期待している人には物足りないでしょうね」
「経験値だけれど、レベル1になるのにトビトカゲ1匹分の60が必要なんですって。レベル2以降になるには2倍、3倍と必要な経験値が増えていくみたい」
「スキルも存在しないわね。スキルを上げて、剣で岩を切り裂くとかは無理みたいね」
「死亡時の復活もなし。当然と言えば、当然ですが、あまりうれしいニュースではありませんね」
「あら、それからダンジョンには階層があるみたい。ヘルプによるとダンジョン内に、また門があって別の階層に繋がっているんですって、ただし、現在は閉鎖中みたい」
二人の話を聞いていた伊吹は、疲れたように呟く。
「……それで、わしは結局何をすればいいんじゃ?」
「ステータスポイントの割り振りです。『ステータスウインドウ』と言って、ステータスを出してください。ステータスの中に10未満の数値があれば、それを上げてください。ああ、そこのボタンを押せばポイントが割り振られます」
「何だか、面倒じゃのう……」
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