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2.最初の門
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●5月1日 東京
5月の早朝、白み始めた東の空とは逆に、西の空にはまだ夜の名残りの星明かりが残っている時刻ではある。しかし、そんな時刻でも、東京の朝はもう動き始めていた。
今も数人の男女が、増上寺の前を通り過ぎ、芝公園の前をジョギングをしている。
そのうちの一人の男が、眉をひそめて訝しげに立ち止まる。
立ち止まった男と並走していたもう一人が、からかう様に男に声をかける。
「どうした? もう疲れたのか?」
「いや。それより、何か変な音が聞こえないか?」
「音? そう言われてみれば……」
耳を澄ますと、ブーンという腹に響くような重低音があたりに響いている。
「こりゃあ、いったい何の音だ?」
二人がそう話しているうちに、その音は次第に大きくなり、耳を澄ますまでもなくはっきりと聞こえるようになった。
周囲を走っていた人々も、音に気付いて立ち止まり、周囲を不安そうに見まわし始めた。
「おい、あれは何だ?」
一人の男が、芝公園のほうを指さして叫んだ。
男が指さしたほうを見ると、公園の芝生の中央付近を通してみえる東京タワーの風景が不気味にねじれ、波打っていた。
あまりの異常事態に、大半の人間は呆然と立ち尽くしてその光景を見ているだけであった。しかし、中には反射的に携帯を取り出しその光景を動画に撮影する者もいた。
やがて、空間のねじれが限界に達すると、バーンという衝撃音とともに空間がはじけ飛んだ。
空間が避けて出来た次元の割れ目から現れたのは、パリの凱旋門かベルリンのブランデンブルク門を思い起こさせる巨大な建造物であった。
最初、人々は遠巻きにその建造物を眺めているだけであったが、それ以上変化がないと分かると、これからどうするかを口々に話し始めた。
「一体、これは何なんだよ⁉」
「そんなこと、俺が知るかよ」
混乱した二人の男がいらいらした表情で口論を始めた。
その一方で、比較的冷静な一団は、どこか公的機関に連絡をしようとしていた。
「どこに相談すればいいんだ?」
「分からん。とりあえず警察にでも連絡しとけば?」
「まともに取り扱ってくれるかねえ。まあ、ダメ元か」
先ほどちゃっかりと、『門』出現の瞬間を撮影していた女性が周りの人々に質問を投げかける。
「私、この門が出てくるところを撮影したんだけど、これってどこに提供すればいいの? だれかテレビ局に知り合いのいる人いない?」
「さあ、とりあえずトゥイターかインストでつぶやいてみれば」
「それはもうやった。でもマスコミに確実に伝えるにはどうすればいいのかな?」
『門』の方を黙って眺めていた男が、何かに気付いたように叫んだ。
「おい、あの門、地下に続く入り口になっているみたいだぞ。誰か入ってみるか?」
声をかけられた隣の男は、慌てて首を横に振った。
「俺はやめとくよ。命あっての物種だ」
『門』が地下にまで続いていると聞いて、その影響に気付いた人々がざわめいた。
「この辺りの地下には地下鉄が通っているはずだけれど、大丈夫なのか? すぐそばには地下鉄の駅もあるぞ」
「地下鉄だけじゃない。電気に水道、それにネット用の光ファイバーだって地下を通っているはずだ」
「とりあえず、携帯はまだ通じるみたいだけど……」
そうこう話しているうちに、先ほど警察に連絡していた男たちの通報を受けて、警察官と消防隊員がやってきた
警察官と消防隊員も、最初は突如現れた異様な建造物に戸惑いを隠せなかったようだが、とりあえず不審物を発見した時のマニュアルに従って行動することになったようだ。
「はい、皆さん下がって、下がって。この規制線から前には出ないでください」
警官の静止に対して、群衆から不安の声が上がる。
「おい、何か危険なことがあるのか? 大丈夫なのか?」
「安全かどうかをこれから確認します。確認が終わるまでは万一のことがあるといけませんので、後方に下がっていてください」
消防隊員からも声がかかる。
「けがをした方や気分の悪い方はいらっしゃいませんか? いらっしゃいましたら、些細なことでも構いませんので、声をおかけください」
規制線の中央では、遅れてやってきた警察と消防署の責任者が話し合いをしていた。
「地下に通じる通路があるようだが、中の調査をやらなければならんな」
顔をしかめながら警察の制服を着た男が、そうつぶやくと消防隊の責任者が答えた。
「だからと言って、何の準備もなしに突入するのは危険すぎます。地下に有毒ガスが充満している危険性もありますから……」
「警察からは、対テロ用の化学兵器対応部隊を応援に呼びましょう」
「消防はレスキュー部隊に応援を頼みました。地下に可燃性ガスが充満していたり、都市ガスが漏れだしている危険性を考えると、消防隊員も突入に参加させてください」
「こちらからもお願いします」
話し合いの場に、比較的若い警察官がやってきた。
「署長、周辺の交通機関の規制はどうするかと、問い合わせが入っていますが、いかがいたしますか?」
「万が一のこともある。俺が責任を取るから周辺の道路は通行止めにしろ。近くを通る首都高もだ」
「都営地下鉄にも連絡を入れて、都営三田線と都営大江戸線は芝公園駅を中心とした範囲で運休にしろ」
「了解しました」
警察と消防が駆けつけてから、しばらくたって今度はテレビ局をはじめとするマスコミがやってきた。
封鎖中の道路の規制線の手前に陣取ったマスコミ各社は、芝公園に現れた異様な建造物『門』に息を飲みながらも、報道を開始する。
空中をマスコミのヘリコプターやドローンが飛び交い、各社とも朝のニュースに載せるべく取材を開始した。
その中で、携帯で撮影された『門』出現の瞬間の映像は、日本だけでなく世界各地のマスコミ各社で繰り返し放映され、一躍有名になることとなった。
そして、この映像とともに芝公園の『門』は、世界で最も有名な『門』となった。
だが、『門』が出現したのは東京一か所だけではなく、世界各地に出現していたのであった。
そして、この瞬間にも次々と新しい『門』が出現していたのであった。
5月の早朝、白み始めた東の空とは逆に、西の空にはまだ夜の名残りの星明かりが残っている時刻ではある。しかし、そんな時刻でも、東京の朝はもう動き始めていた。
今も数人の男女が、増上寺の前を通り過ぎ、芝公園の前をジョギングをしている。
そのうちの一人の男が、眉をひそめて訝しげに立ち止まる。
立ち止まった男と並走していたもう一人が、からかう様に男に声をかける。
「どうした? もう疲れたのか?」
「いや。それより、何か変な音が聞こえないか?」
「音? そう言われてみれば……」
耳を澄ますと、ブーンという腹に響くような重低音があたりに響いている。
「こりゃあ、いったい何の音だ?」
二人がそう話しているうちに、その音は次第に大きくなり、耳を澄ますまでもなくはっきりと聞こえるようになった。
周囲を走っていた人々も、音に気付いて立ち止まり、周囲を不安そうに見まわし始めた。
「おい、あれは何だ?」
一人の男が、芝公園のほうを指さして叫んだ。
男が指さしたほうを見ると、公園の芝生の中央付近を通してみえる東京タワーの風景が不気味にねじれ、波打っていた。
あまりの異常事態に、大半の人間は呆然と立ち尽くしてその光景を見ているだけであった。しかし、中には反射的に携帯を取り出しその光景を動画に撮影する者もいた。
やがて、空間のねじれが限界に達すると、バーンという衝撃音とともに空間がはじけ飛んだ。
空間が避けて出来た次元の割れ目から現れたのは、パリの凱旋門かベルリンのブランデンブルク門を思い起こさせる巨大な建造物であった。
最初、人々は遠巻きにその建造物を眺めているだけであったが、それ以上変化がないと分かると、これからどうするかを口々に話し始めた。
「一体、これは何なんだよ⁉」
「そんなこと、俺が知るかよ」
混乱した二人の男がいらいらした表情で口論を始めた。
その一方で、比較的冷静な一団は、どこか公的機関に連絡をしようとしていた。
「どこに相談すればいいんだ?」
「分からん。とりあえず警察にでも連絡しとけば?」
「まともに取り扱ってくれるかねえ。まあ、ダメ元か」
先ほどちゃっかりと、『門』出現の瞬間を撮影していた女性が周りの人々に質問を投げかける。
「私、この門が出てくるところを撮影したんだけど、これってどこに提供すればいいの? だれかテレビ局に知り合いのいる人いない?」
「さあ、とりあえずトゥイターかインストでつぶやいてみれば」
「それはもうやった。でもマスコミに確実に伝えるにはどうすればいいのかな?」
『門』の方を黙って眺めていた男が、何かに気付いたように叫んだ。
「おい、あの門、地下に続く入り口になっているみたいだぞ。誰か入ってみるか?」
声をかけられた隣の男は、慌てて首を横に振った。
「俺はやめとくよ。命あっての物種だ」
『門』が地下にまで続いていると聞いて、その影響に気付いた人々がざわめいた。
「この辺りの地下には地下鉄が通っているはずだけれど、大丈夫なのか? すぐそばには地下鉄の駅もあるぞ」
「地下鉄だけじゃない。電気に水道、それにネット用の光ファイバーだって地下を通っているはずだ」
「とりあえず、携帯はまだ通じるみたいだけど……」
そうこう話しているうちに、先ほど警察に連絡していた男たちの通報を受けて、警察官と消防隊員がやってきた
警察官と消防隊員も、最初は突如現れた異様な建造物に戸惑いを隠せなかったようだが、とりあえず不審物を発見した時のマニュアルに従って行動することになったようだ。
「はい、皆さん下がって、下がって。この規制線から前には出ないでください」
警官の静止に対して、群衆から不安の声が上がる。
「おい、何か危険なことがあるのか? 大丈夫なのか?」
「安全かどうかをこれから確認します。確認が終わるまでは万一のことがあるといけませんので、後方に下がっていてください」
消防隊員からも声がかかる。
「けがをした方や気分の悪い方はいらっしゃいませんか? いらっしゃいましたら、些細なことでも構いませんので、声をおかけください」
規制線の中央では、遅れてやってきた警察と消防署の責任者が話し合いをしていた。
「地下に通じる通路があるようだが、中の調査をやらなければならんな」
顔をしかめながら警察の制服を着た男が、そうつぶやくと消防隊の責任者が答えた。
「だからと言って、何の準備もなしに突入するのは危険すぎます。地下に有毒ガスが充満している危険性もありますから……」
「警察からは、対テロ用の化学兵器対応部隊を応援に呼びましょう」
「消防はレスキュー部隊に応援を頼みました。地下に可燃性ガスが充満していたり、都市ガスが漏れだしている危険性を考えると、消防隊員も突入に参加させてください」
「こちらからもお願いします」
話し合いの場に、比較的若い警察官がやってきた。
「署長、周辺の交通機関の規制はどうするかと、問い合わせが入っていますが、いかがいたしますか?」
「万が一のこともある。俺が責任を取るから周辺の道路は通行止めにしろ。近くを通る首都高もだ」
「都営地下鉄にも連絡を入れて、都営三田線と都営大江戸線は芝公園駅を中心とした範囲で運休にしろ」
「了解しました」
警察と消防が駆けつけてから、しばらくたって今度はテレビ局をはじめとするマスコミがやってきた。
封鎖中の道路の規制線の手前に陣取ったマスコミ各社は、芝公園に現れた異様な建造物『門』に息を飲みながらも、報道を開始する。
空中をマスコミのヘリコプターやドローンが飛び交い、各社とも朝のニュースに載せるべく取材を開始した。
その中で、携帯で撮影された『門』出現の瞬間の映像は、日本だけでなく世界各地のマスコミ各社で繰り返し放映され、一躍有名になることとなった。
そして、この映像とともに芝公園の『門』は、世界で最も有名な『門』となった。
だが、『門』が出現したのは東京一か所だけではなく、世界各地に出現していたのであった。
そして、この瞬間にも次々と新しい『門』が出現していたのであった。
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