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世間の評価
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結局、様々な雑事を片付けて、本格的な会社開業にたどり着けたのは、1週間後のことであった。
その間の世間の様子といえば、平穏そのものであった。
今のところ、ダンジョン関連のニュースは世間の注目を集めてはいる。
今日も何件かのニュースが流れていた。
例えば、他人の敷地内のダンジョンに無断で侵入しようとして、住居侵入罪で逮捕された者が出た。
また、ダンジョンがあると報道され有名になった芝公園近辺で、ダンジョン探索の目的でバットや工具を持ち歩き、軽犯罪法違反で補導された少年がいたとのニュースもあった。
一方で、ダンジョンに不用意に立ち入り、内部に住む害獣にけがをさせられたものが出たなどのニュースもあった。
ちなみに、ダンジョンの入り口付近で出る敵は、比較的弱いものばかりであることから、モンスターなどという恐ろしい名称ではなく、単なる害獣と呼ばれるケースが一般的である。
ただし、その扱いは芸能人の交際などと同等レベルであり、時間が経つと世間から忘れ去られそうであった。
今のまま行くと、ダンジョンについての話題も、交通事故などと同等のレベルに落ち着いてしまうことが十分予想された。
今日、初めての顧客がやってくるのを待つ間、ニュース番組を見ながら伊吹が呟いた。
「しかし、若返りについての情報が何も出てこんとはな。政府は情報を隠しとるのじゃろうか」
「いえ、単に気づいていないだけだと思いますよ」
ニュース番組では、どこかの畑の真ん中にゲートが現れ、農作業の邪魔になるから何とかして欲しいと訴える老農夫の姿が映されていた。
その映像を見ながら、水沢はため息をつく。
「あのご老人がダンジョンに入り、モンスターを倒したならば若返りの事実に気づくのでしょうが……」
「ですが、そもそもあのご老人が興味があるのは、農作物のことだけで、いちいちダンジョンに入ることなど考えもしないのでしょうね」
「ダンジョンに入る警察官や消防隊員は集団で行動しますから、経験値が分散されてレベルアップの機会自体が少ないのだと思います」
「また、仮にレベルアップしても、ダンジョンに入るような警察官などは、若くて健康な者が大半でしょうから、レベルアップの恩恵を受けることが少ないのではないでしょうか」
「それに、警察や消防の対応がマニュアル化されてきたのも問題ですね」
「最近では、内部に立ち入って調査を行うことなく、ダンジョンを外から封鎖することが一般化されてきたようですし……。これでは、ますますレベルアップによる若返りに気づく機会が減ってしまいますから」
伊吹もため息をつきつつ
「確かに、そんなものかもしれんな」
「ネット上での反応もよくありません」
「一部では、レベルアップしたという情報が流れているようです。しかし、レベルアップしてもすぐ超人になれる訳ではないということが分かると、大半が興味をなくすようです」
「ダンジョンに潜っても、すぐに金銭や物質的な財宝が得られる訳ではないというのも、ネット民にとっては期待外れだったようですね」
「まあ、それだけに我が社の社会的使命も大きいといえる訳です」
「うむ、そうじゃのう」
「既に、マスコミにはニュースリリースを流しています。うまく反応してくれるマスコミがあれば、状況が少しは変わると思いますよ」
その時、楽しそうな様子の清美が部屋に入ってきた。
「モンスター肉の料理ができたわよ。今回はじっくりと熟成させたから、以前よりも柔らかくておいしいと思うわよ」
「やれやれ、またかい」
そう言いながらも、伊吹は料理に箸をのばす。
「確かに、前回よりも柔らかいですし、うまみもありますね」
「1食の料理で得られる経験値は、ごくわずかです。しかし、若返りの料理としてブランドイメージを作れば、思ったよりも売れるかもしれませんね」
「そうは言っても、料理だけでレベルを上げるには、かなりの量を食べる必要があるではないか」
「そんなこと、どうでもいいじゃない。おいしいんだから」
その清美の言葉に、水沢が首を横に振る。
「いえ、人間の味覚というものは案外保守的なものですよ。新しい食べ物を試すよりも、食べなれたものの方を好むものです」
「例えどんなにおいしくとも、食べてもらえなければ関係がありません。その保守的な性質を覆すのが食品のブランドイメージというものです」
「訳の分からないモンスター肉ではなく、健康と若返りに効果のある食品として売り出さないことには、そもそも誰も買おうとはしないでしょうね」
「まあ確かに、訳の分からんモンスターを食おうとするのは、清美くらいのもんじゃな」
水沢の言葉に、清美が少しがっかりとした顔をする。
「それじゃあ、いきなり大ブームが起きるのは無理かしら……」
「大ブームが起きたら、肉の供給が追い付かないでしょう」
「そうそう、会社設立も何とか完了しましたので、社員を雇いたいと思います。前に言いましたように60歳以上の高齢者で、適切な技能をお持ちの方をご存知でしたら紹介をお願いします」
「何人か心当たりがあるから、さっそく声をかけることにしよう」
「よろしくお願いします」
「そう言えば、食肉事業の方も進めてもいいのかしら?」
「さすがに、若返りサービスが完全に軌道に乗るまでは無理でしょう」
「何より人員が足りていません」
「それなら、頑張って社員を増やさなくちゃね」
「わしとしては、余計な事業に手を出してリスクを増やしたくないんじゃが」
その間の世間の様子といえば、平穏そのものであった。
今のところ、ダンジョン関連のニュースは世間の注目を集めてはいる。
今日も何件かのニュースが流れていた。
例えば、他人の敷地内のダンジョンに無断で侵入しようとして、住居侵入罪で逮捕された者が出た。
また、ダンジョンがあると報道され有名になった芝公園近辺で、ダンジョン探索の目的でバットや工具を持ち歩き、軽犯罪法違反で補導された少年がいたとのニュースもあった。
一方で、ダンジョンに不用意に立ち入り、内部に住む害獣にけがをさせられたものが出たなどのニュースもあった。
ちなみに、ダンジョンの入り口付近で出る敵は、比較的弱いものばかりであることから、モンスターなどという恐ろしい名称ではなく、単なる害獣と呼ばれるケースが一般的である。
ただし、その扱いは芸能人の交際などと同等レベルであり、時間が経つと世間から忘れ去られそうであった。
今のまま行くと、ダンジョンについての話題も、交通事故などと同等のレベルに落ち着いてしまうことが十分予想された。
今日、初めての顧客がやってくるのを待つ間、ニュース番組を見ながら伊吹が呟いた。
「しかし、若返りについての情報が何も出てこんとはな。政府は情報を隠しとるのじゃろうか」
「いえ、単に気づいていないだけだと思いますよ」
ニュース番組では、どこかの畑の真ん中にゲートが現れ、農作業の邪魔になるから何とかして欲しいと訴える老農夫の姿が映されていた。
その映像を見ながら、水沢はため息をつく。
「あのご老人がダンジョンに入り、モンスターを倒したならば若返りの事実に気づくのでしょうが……」
「ですが、そもそもあのご老人が興味があるのは、農作物のことだけで、いちいちダンジョンに入ることなど考えもしないのでしょうね」
「ダンジョンに入る警察官や消防隊員は集団で行動しますから、経験値が分散されてレベルアップの機会自体が少ないのだと思います」
「また、仮にレベルアップしても、ダンジョンに入るような警察官などは、若くて健康な者が大半でしょうから、レベルアップの恩恵を受けることが少ないのではないでしょうか」
「それに、警察や消防の対応がマニュアル化されてきたのも問題ですね」
「最近では、内部に立ち入って調査を行うことなく、ダンジョンを外から封鎖することが一般化されてきたようですし……。これでは、ますますレベルアップによる若返りに気づく機会が減ってしまいますから」
伊吹もため息をつきつつ
「確かに、そんなものかもしれんな」
「ネット上での反応もよくありません」
「一部では、レベルアップしたという情報が流れているようです。しかし、レベルアップしてもすぐ超人になれる訳ではないということが分かると、大半が興味をなくすようです」
「ダンジョンに潜っても、すぐに金銭や物質的な財宝が得られる訳ではないというのも、ネット民にとっては期待外れだったようですね」
「まあ、それだけに我が社の社会的使命も大きいといえる訳です」
「うむ、そうじゃのう」
「既に、マスコミにはニュースリリースを流しています。うまく反応してくれるマスコミがあれば、状況が少しは変わると思いますよ」
その時、楽しそうな様子の清美が部屋に入ってきた。
「モンスター肉の料理ができたわよ。今回はじっくりと熟成させたから、以前よりも柔らかくておいしいと思うわよ」
「やれやれ、またかい」
そう言いながらも、伊吹は料理に箸をのばす。
「確かに、前回よりも柔らかいですし、うまみもありますね」
「1食の料理で得られる経験値は、ごくわずかです。しかし、若返りの料理としてブランドイメージを作れば、思ったよりも売れるかもしれませんね」
「そうは言っても、料理だけでレベルを上げるには、かなりの量を食べる必要があるではないか」
「そんなこと、どうでもいいじゃない。おいしいんだから」
その清美の言葉に、水沢が首を横に振る。
「いえ、人間の味覚というものは案外保守的なものですよ。新しい食べ物を試すよりも、食べなれたものの方を好むものです」
「例えどんなにおいしくとも、食べてもらえなければ関係がありません。その保守的な性質を覆すのが食品のブランドイメージというものです」
「訳の分からないモンスター肉ではなく、健康と若返りに効果のある食品として売り出さないことには、そもそも誰も買おうとはしないでしょうね」
「まあ確かに、訳の分からんモンスターを食おうとするのは、清美くらいのもんじゃな」
水沢の言葉に、清美が少しがっかりとした顔をする。
「それじゃあ、いきなり大ブームが起きるのは無理かしら……」
「大ブームが起きたら、肉の供給が追い付かないでしょう」
「そうそう、会社設立も何とか完了しましたので、社員を雇いたいと思います。前に言いましたように60歳以上の高齢者で、適切な技能をお持ちの方をご存知でしたら紹介をお願いします」
「何人か心当たりがあるから、さっそく声をかけることにしよう」
「よろしくお願いします」
「そう言えば、食肉事業の方も進めてもいいのかしら?」
「さすがに、若返りサービスが完全に軌道に乗るまでは無理でしょう」
「何より人員が足りていません」
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