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第十七話・運動会2
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「宣誓! 私達は、これまでの練習の成果を存分に発揮し、仲間と皆で力を合わせ、諦めずに最後まで頑張りぬくことを誓います。令和6年6月22日。選手代表、横山佳奈」
マイクを通してグラウンド中に響き渡る、佳奈の選手宣誓。体育委員長として全生徒の前に立ち、真っ直ぐに右手を挙げる妹の雄姿を、愛華はカメラの液晶越しに見守った。
今朝の佳奈の落ち込み具合は、これを柚月に見せたかったからこそで、決して妹の我が儘なんかじゃない。きっと何度も練習して、ようやく今日という本番を迎えることになったはずで、それは母親に見て貰えると信じていたからで……。
愛華が妹の為にしてあげれるのは、今この場にいない柚月が後で見れるように映像として記録して持って帰ることくらいしか思いつかなかった。勿論、スマホでも撮影できるけれど、少しでもキレイな画質で残してあげたいと、わざわざ父のカメラを掘り出して来たのだ。
開会式が終わり、児童全員でのラジオ体操が始まると、周囲の保護者達がワラワラと動き始める。次のプログラムの対象学年の親が少しでも良い撮影スポットを探して移動していくみたいだった。
「小学校の運動会に来てるって送ったら、りっちゃんも来たかったって言ってるー。今からおいでって言ったけど、間に合わん、だって」
「そっか、りっちゃんもここだったっけ」
「うん、小学校から一緒。小6の時の担任がまだいるよって教えたら、メチャクチャ会いたがってる」
高校の同級生だった江崎律とやり取りしたメッセージを見せてもらうと、「先生に会いたい!!」という文字の後ろに、大量のハートマークがついていた。言わずもがな、律にとって憧れの教師だったんだろう。そんなことなら誘ってあげれば良かった。
佳奈の学年の団体行動はクラスごとに違う色のフラッグを使った集団演技だった。応援団旗ほどではないが、ちょっとでも腕を下げれば簡単に地面に付きそうなサイズの旗を曲に合わせて上下左右とたなびかせ、とても見応えのある鮮やかな発表だった。
沢山いる児童の中から佳奈の姿を探し出すのには少し手間取ってしまった。朝に妹が用意していたハチマキが青色だったのは覚えていたけれど、みんな同じ体育着を着ているから着ている物で探すということが出来ない。靴も指定なのか同じような黒のスニーカーばかりで何の目印にもならない。カメラのズームを利用して何とか探し出した佳奈は、列のかなり前の方で演技していた。どうも背の順みたいだ。
演技が終わると、フラッグを持った6年生達は観覧スペース前を回るようにトラックを一周してから退場門へと走り去っていく。愛華達が場所取りしていた観覧席の前を青色のハチマキをしたクラスが通過する時、迷わず妹の名前を呼んだ。
「佳奈ちゃん!」
そこまで大きな声ではなかったはずだが、佳奈はまさかという顔で声のした方を振り返る。そして、沢山いる保護者の中に居るはずがないと思っていた愛華の姿を見つけると、驚きつつも照れた表情を浮かべる。一瞬で前を過ぎていった妹のその可愛い反応は、愛華の場所からもとてもはっきりと見ることができた。
六年生のクラス対抗リレーがこの運動会では大トリらしく、応援に回った他学年が団旗を振り回したり、ペットボトルで作ったメガフォンやマラカスを使いながら声援を送っていた。トラック半周ずつをクラス全員で走り抜けていくのを、愛華は腕がプルプルと震え始めるのを耐えながらカメラを回し続けた。
正直、佳奈だけ撮ればいいかとも思ったが、事前に何番目に走るかを聞いてなかったから、万が一でも撮りそびれるくらいならと全走者をカメラで追いかけた。三脚でスタンバイしている親が多い理由がようやく分かった。今までずっと「学校行事で三脚なんて大袈裟な」くらいしか思ってなかった。うん、三脚はあった方が便利だ。
全てのプログラムが終わり、閉会式になると、周りの保護者達は手際よくビニールシートを畳んであっという間に撤収していく。特に高学年の親は終わった後の流れを熟知しているから、電車が混まない内にということなんだろう。
周囲の雰囲気に釣られて、愛華達も慌ててシートを片付け始める。
「見てるのも結構体力使うもんだね。ふぅ、腰痛い……」
固い地面にシートを敷いただけのところに長時間座っていたせいで、上半身がバキバキに凝っている。真由が腕を思い切り伸ばしながら呻いていた。
「この後どうする? りっちゃんがご飯行こうって言ってるけど」
「あー、今日はお父さん達が帰って来るんだよね。運動会には間に合わなかったけど」
「そっか、撮ったやつ見せてあげなきゃね」
最寄り駅で別れた後、真由は反対ホームの電車に乗って、律との待ち合わせ場所に向かった。愛華は真っ直ぐ帰るつもりで、一人で電車を待っていた。運動会帰りの保護者で混雑したホームは、教室でのホームルームを終えて下校してきた児童も加わってくると、さらに騒々しくなる。
――佳奈ちゃんは……委員の仕事があるから、まだだよね。
もしかしたら一緒に帰れるかもと期待したが、電車が到着するまでに妹と会うことはできなかった。頑張ってたのをちゃんと見せてもらったよ、と声を掛けてあげたいけど、それは帰宅してからになりそうだ。
マイクを通してグラウンド中に響き渡る、佳奈の選手宣誓。体育委員長として全生徒の前に立ち、真っ直ぐに右手を挙げる妹の雄姿を、愛華はカメラの液晶越しに見守った。
今朝の佳奈の落ち込み具合は、これを柚月に見せたかったからこそで、決して妹の我が儘なんかじゃない。きっと何度も練習して、ようやく今日という本番を迎えることになったはずで、それは母親に見て貰えると信じていたからで……。
愛華が妹の為にしてあげれるのは、今この場にいない柚月が後で見れるように映像として記録して持って帰ることくらいしか思いつかなかった。勿論、スマホでも撮影できるけれど、少しでもキレイな画質で残してあげたいと、わざわざ父のカメラを掘り出して来たのだ。
開会式が終わり、児童全員でのラジオ体操が始まると、周囲の保護者達がワラワラと動き始める。次のプログラムの対象学年の親が少しでも良い撮影スポットを探して移動していくみたいだった。
「小学校の運動会に来てるって送ったら、りっちゃんも来たかったって言ってるー。今からおいでって言ったけど、間に合わん、だって」
「そっか、りっちゃんもここだったっけ」
「うん、小学校から一緒。小6の時の担任がまだいるよって教えたら、メチャクチャ会いたがってる」
高校の同級生だった江崎律とやり取りしたメッセージを見せてもらうと、「先生に会いたい!!」という文字の後ろに、大量のハートマークがついていた。言わずもがな、律にとって憧れの教師だったんだろう。そんなことなら誘ってあげれば良かった。
佳奈の学年の団体行動はクラスごとに違う色のフラッグを使った集団演技だった。応援団旗ほどではないが、ちょっとでも腕を下げれば簡単に地面に付きそうなサイズの旗を曲に合わせて上下左右とたなびかせ、とても見応えのある鮮やかな発表だった。
沢山いる児童の中から佳奈の姿を探し出すのには少し手間取ってしまった。朝に妹が用意していたハチマキが青色だったのは覚えていたけれど、みんな同じ体育着を着ているから着ている物で探すということが出来ない。靴も指定なのか同じような黒のスニーカーばかりで何の目印にもならない。カメラのズームを利用して何とか探し出した佳奈は、列のかなり前の方で演技していた。どうも背の順みたいだ。
演技が終わると、フラッグを持った6年生達は観覧スペース前を回るようにトラックを一周してから退場門へと走り去っていく。愛華達が場所取りしていた観覧席の前を青色のハチマキをしたクラスが通過する時、迷わず妹の名前を呼んだ。
「佳奈ちゃん!」
そこまで大きな声ではなかったはずだが、佳奈はまさかという顔で声のした方を振り返る。そして、沢山いる保護者の中に居るはずがないと思っていた愛華の姿を見つけると、驚きつつも照れた表情を浮かべる。一瞬で前を過ぎていった妹のその可愛い反応は、愛華の場所からもとてもはっきりと見ることができた。
六年生のクラス対抗リレーがこの運動会では大トリらしく、応援に回った他学年が団旗を振り回したり、ペットボトルで作ったメガフォンやマラカスを使いながら声援を送っていた。トラック半周ずつをクラス全員で走り抜けていくのを、愛華は腕がプルプルと震え始めるのを耐えながらカメラを回し続けた。
正直、佳奈だけ撮ればいいかとも思ったが、事前に何番目に走るかを聞いてなかったから、万が一でも撮りそびれるくらいならと全走者をカメラで追いかけた。三脚でスタンバイしている親が多い理由がようやく分かった。今までずっと「学校行事で三脚なんて大袈裟な」くらいしか思ってなかった。うん、三脚はあった方が便利だ。
全てのプログラムが終わり、閉会式になると、周りの保護者達は手際よくビニールシートを畳んであっという間に撤収していく。特に高学年の親は終わった後の流れを熟知しているから、電車が混まない内にということなんだろう。
周囲の雰囲気に釣られて、愛華達も慌ててシートを片付け始める。
「見てるのも結構体力使うもんだね。ふぅ、腰痛い……」
固い地面にシートを敷いただけのところに長時間座っていたせいで、上半身がバキバキに凝っている。真由が腕を思い切り伸ばしながら呻いていた。
「この後どうする? りっちゃんがご飯行こうって言ってるけど」
「あー、今日はお父さん達が帰って来るんだよね。運動会には間に合わなかったけど」
「そっか、撮ったやつ見せてあげなきゃね」
最寄り駅で別れた後、真由は反対ホームの電車に乗って、律との待ち合わせ場所に向かった。愛華は真っ直ぐ帰るつもりで、一人で電車を待っていた。運動会帰りの保護者で混雑したホームは、教室でのホームルームを終えて下校してきた児童も加わってくると、さらに騒々しくなる。
――佳奈ちゃんは……委員の仕事があるから、まだだよね。
もしかしたら一緒に帰れるかもと期待したが、電車が到着するまでに妹と会うことはできなかった。頑張ってたのをちゃんと見せてもらったよ、と声を掛けてあげたいけど、それは帰宅してからになりそうだ。
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