11 / 14
第十一話・休日の朝
しおりを挟む
休日の朝、川岸のことを玄関前で見送った後、穂香は洗濯物をバルコニーへ干していく。奥行きのあるバルコニーは、夏場にビニールプールを出して子供を遊ばせることができそうなほど、広々としている。室外機を避けながら洗濯物を干さないといけなかった以前の賃貸物件のベランダとは比べ物にならない。
川岸が置いていたバルコニー用のサンダルを履いて、洗い立ての衣類を物干しへと掛けていく。男物のサンダルは大きくてブカブカで、油断するとすぐに脱げそうになる。日用品の大半が100均で揃えていた穂香とは違って、それだけでもSNS映えしそうなステンレス製の洗濯バサミ。こういうお洒落な雑貨類をこの家では頻繁に見かける。
「元カノの趣味だって言ってたっけ……」
輸入雑貨が好きだったらしい、川岸の元婚約者。キッチン用品一つにしても、デザインにこだわった物が多い。ワッフルメーカーやホームベーカリーなどもあったが、一人暮らしになった川岸には一生使うことがなさそうだ。置いていかれた物で元カノのことをとても女子力の高い女性だったんじゃないかと勝手に想像してしまう。朝から自家製スムージーを飲むような。オーナーはそういうタイプが好きなんだろうか?
洗い物を干し終えると、リビングから順に掃除機をかけていく。ソファー周りを掃除している時に、穂香は掃除機の先に何かがコツンと当たったのに気付いた。掃除機では吸い取れないサイズの物に触れた感触。電源を切って、身体を低くしてソファーの下に腕を伸ばして探る。
「あ、なんだ……」
ソファーの下に落ちていたのはボールペン。赤、青、緑、黒の四色で書けるタイプだ。リビングで書類を書いている際にでも落としてしまって、行方不明にでもなっていたのだろう。帰宅後に川岸にもすぐ分かるよう、ソファーテーブルの上にそれを置いておいた。
そして、また掃除機の電源を入れて、念入りに部屋中の埃を吸い取って回る。余計な物の少ないすっきりとしたインテリアは、掃除するのにはとても効率的だ。掃除機の先端が入りきらない高さのテレビ台の下は、腰をかがめてフロアモップで拭っていく。すると、埃と一緒に台の下から出てきた物に、穂香は思わず噴き出した。
「ふっ、家の中でどれだけ無くしてるの……」
先ほど見つけたのとはまた別のボールペン。今度は黒の単色の物だ。これには穂香も見覚えがあった。川岸がいつもジャケットの胸ポケットに挿していて、そう言えば最近は別の物に変わってるなと密かに思っていたところだった。これらのボールペンは自宅に仕事を持ち帰った後、何かの拍子に落として見失ってしまったのだろう。見つけたばかりの二本は、揃えるようにテーブルの上に並べておく。
リビングを終えて、廊下や洗面所、今現在居候させて貰っている洋室へと回っていくが、穂香は川岸の寝室の前で掃除機の電源を切った。さすがにここに勝手に入り込む訳にはいかない。穂香は川岸にとって、ただの部下で居候でしかない。家族や恋人のような近しい関係ではないのだから、プライベートな空間に黙って踏み込むつもりはなかった。
一通りの家事を済ませると、夜ご飯の買い出しの為にとキッチン周りを確認していく。飲み物と種類の少ない調味料だけが入った冷蔵庫。ラップ類が収納されている引き出しを開くと、アルミホイルだけがやけに沢山あって首を傾げてしまう。
そう言えば、洗面所下の収納に入っていた歯磨き粉の数も尋常じゃなかった。彼一人では一年かけても使い切れないのではないかと思うほどの量だ。
「そろそろ無くなりそうな気がして買ってくるんだけど、買ってこないといけないのは別のやつだったとかか」
どういう経緯でこの在庫量になったのかを聞いた時、川岸自身も首を傾げていた。毎回、朧げな記憶を頼りに買い足すからつい間違った物を買って来てしまうのだという。店の在庫数には細かいくせに、家のこととなると急に適当になる。仕事とプライベートの顔がまるで別人だ。他のスタッフはこんな気の緩んだオーナーのことを知らないのかと思うと、少しだけ優越感を覚える。
買い足しが必要だと思う物をメモしながら、穂香は夕飯の献立に頭を悩ませる。『セラーデ』に勤務してからもうすぐ3年にはなるが、オーナー自身のことはあまりよく知らない。食の好みが分からない人に料理を振舞うのは少し勇気が要る。ただ、こないだの飲み会では食べ物の好き嫌いは特に無いと答えていたのが救いだ。
川岸が置いていたバルコニー用のサンダルを履いて、洗い立ての衣類を物干しへと掛けていく。男物のサンダルは大きくてブカブカで、油断するとすぐに脱げそうになる。日用品の大半が100均で揃えていた穂香とは違って、それだけでもSNS映えしそうなステンレス製の洗濯バサミ。こういうお洒落な雑貨類をこの家では頻繁に見かける。
「元カノの趣味だって言ってたっけ……」
輸入雑貨が好きだったらしい、川岸の元婚約者。キッチン用品一つにしても、デザインにこだわった物が多い。ワッフルメーカーやホームベーカリーなどもあったが、一人暮らしになった川岸には一生使うことがなさそうだ。置いていかれた物で元カノのことをとても女子力の高い女性だったんじゃないかと勝手に想像してしまう。朝から自家製スムージーを飲むような。オーナーはそういうタイプが好きなんだろうか?
洗い物を干し終えると、リビングから順に掃除機をかけていく。ソファー周りを掃除している時に、穂香は掃除機の先に何かがコツンと当たったのに気付いた。掃除機では吸い取れないサイズの物に触れた感触。電源を切って、身体を低くしてソファーの下に腕を伸ばして探る。
「あ、なんだ……」
ソファーの下に落ちていたのはボールペン。赤、青、緑、黒の四色で書けるタイプだ。リビングで書類を書いている際にでも落としてしまって、行方不明にでもなっていたのだろう。帰宅後に川岸にもすぐ分かるよう、ソファーテーブルの上にそれを置いておいた。
そして、また掃除機の電源を入れて、念入りに部屋中の埃を吸い取って回る。余計な物の少ないすっきりとしたインテリアは、掃除するのにはとても効率的だ。掃除機の先端が入りきらない高さのテレビ台の下は、腰をかがめてフロアモップで拭っていく。すると、埃と一緒に台の下から出てきた物に、穂香は思わず噴き出した。
「ふっ、家の中でどれだけ無くしてるの……」
先ほど見つけたのとはまた別のボールペン。今度は黒の単色の物だ。これには穂香も見覚えがあった。川岸がいつもジャケットの胸ポケットに挿していて、そう言えば最近は別の物に変わってるなと密かに思っていたところだった。これらのボールペンは自宅に仕事を持ち帰った後、何かの拍子に落として見失ってしまったのだろう。見つけたばかりの二本は、揃えるようにテーブルの上に並べておく。
リビングを終えて、廊下や洗面所、今現在居候させて貰っている洋室へと回っていくが、穂香は川岸の寝室の前で掃除機の電源を切った。さすがにここに勝手に入り込む訳にはいかない。穂香は川岸にとって、ただの部下で居候でしかない。家族や恋人のような近しい関係ではないのだから、プライベートな空間に黙って踏み込むつもりはなかった。
一通りの家事を済ませると、夜ご飯の買い出しの為にとキッチン周りを確認していく。飲み物と種類の少ない調味料だけが入った冷蔵庫。ラップ類が収納されている引き出しを開くと、アルミホイルだけがやけに沢山あって首を傾げてしまう。
そう言えば、洗面所下の収納に入っていた歯磨き粉の数も尋常じゃなかった。彼一人では一年かけても使い切れないのではないかと思うほどの量だ。
「そろそろ無くなりそうな気がして買ってくるんだけど、買ってこないといけないのは別のやつだったとかか」
どういう経緯でこの在庫量になったのかを聞いた時、川岸自身も首を傾げていた。毎回、朧げな記憶を頼りに買い足すからつい間違った物を買って来てしまうのだという。店の在庫数には細かいくせに、家のこととなると急に適当になる。仕事とプライベートの顔がまるで別人だ。他のスタッフはこんな気の緩んだオーナーのことを知らないのかと思うと、少しだけ優越感を覚える。
買い足しが必要だと思う物をメモしながら、穂香は夕飯の献立に頭を悩ませる。『セラーデ』に勤務してからもうすぐ3年にはなるが、オーナー自身のことはあまりよく知らない。食の好みが分からない人に料理を振舞うのは少し勇気が要る。ただ、こないだの飲み会では食べ物の好き嫌いは特に無いと答えていたのが救いだ。
30
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
Perverse second
伊吹美香
恋愛
人生、なんの不自由もなく、のらりくらりと生きてきた。
大学三年生の就活で彼女に出会うまでは。
彼女と出会って俺の人生は大きく変化していった。
彼女と結ばれた今、やっと冷静に俺の長かった六年間を振り返ることができる……。
柴垣義人×三崎結菜
ヤキモキした二人の、もう一つの物語……。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる