猫だけに吐く弱音 ~余命3か月を宣告された家族の軌跡~

瀬崎由美

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第二十二話・緊急入院3

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ある嵐の日、公園でずぶ濡れになり震えていたその犬を見つけ、自宅に連れ帰った書記さま。
誰にも言わずこっそり自室で世話をしていたが、案の定というかお約束通り家の者に見つかってしまう。
もちろん犬は部屋から追い出され、そのまま大人達が何処かへと連れて行ったきり、二度と会えなかったそうです。

この悲しい出来事がきっかけで、書記さまは一生他の犬を飼わないと心に誓ったのだとか。



まぁ子供には辛い思い出だよね。
でも俺には関係無くない?
と思ったが書記さまいわく、昔大好きだった雑種のノラ犬は俺によく似ていたらしい。
いや待て、それ俺に対して失礼だろ。


「ダメ、離れる……嫌。わんわんと一緒に、いる」

「え? ちょっ、うわッ」


何なのこの人。
イヤイヤ、と頭を振りながら俺の腹にしがみつかないでください。
振動が気持ち良いです。じゃなくて。

中庭のベンチに座らされている俺。
その前で地面に膝をつき、人の腰に腕を回して抱きつく書記さま。
うーん、今この状態で親衛隊の子に見られたら俺どうなるのかなぁ。
というか絶対に制裁されるし。


「あ、あの、本当に止めて。頼むから離れてくださいってば!」

「何……で、せっかく会えた、のに。俺……キライ?」


うわまたしても既に涙目ですか書記さま。
その捨てられたワンコみたいな顔、止めてください。まるで俺が人で無しのように思えてくるじゃないですか。
ハッ!? きゅうぅーんって切ない鳴き声が聞こえてきた。え、幻聴?
ど、どうしてかなぁ。垂れた犬耳と尻尾も見えるぞ。疲れてんのか、俺。


「はぁ」

「……っ!」


あ、しまった。
何気なく溜め息吐いたら、書記さまの身体がビクッと跳ねて不安そうな目がますます潤んじゃってるよ。うわもぉ本当にワンコでも虐めてる気がして嫌だ。
とりあえず怒ってないよ~みたいな感じに、頭を撫でてみたりして。
そ、そおっとね。そおっと……。
うわー髪の毛ふわふわ、柔らかいなぁ。

ん?
俺を見上げてる書記さまが、驚いたように目を見開いた。で、今度は嬉しそうに笑顔を浮かべる。

ぐはあッ、なななんという威力。
やっぱ美形の微笑み(鼻水無し)は綺麗かつ男前すぎて別格。悔しいがノーマルな俺ですら一瞬どきどきしちゃったもの。そりゃ親衛隊も出来るわけですね、うん納得。

とか言ってたら、おや?
書記さまの身体がプルプルし始めました。
でもって――。


「わんわん、大……好き!」

「ハッ? うわぁあっ、待てちょっ、何でまたしてもーッ!」


急に書記さまの腕に力が入り、ぎゅううううっと締められたら。
結果はもう分かるよね。

焦る書記さまの声を遠くに聞き。
再び意識を失うハメになった俺は、健勝ながら何故か川岸の向こうにいる祖母ちゃんに向かって、手を振ってみせた。

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