今更だけど、もう離さない〜再会した元カレは大会社のCEO〜

瀬崎由美

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追加エピソード・運動会2

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 緊張しながらも誇らしげな顔で入場門をくぐり抜けてくる年長クラス。週に二度ほど来て指導しているという体操の先生に倣って、堂々とした行進を見せている。年中、年少と順に園庭に出てきた後に、保育士と手をつないだり抱っこされた乳幼児クラスが続く。
 幼児クラスは揃いの体操服に学年別のカラー帽子だが、ちびっ子達にはそういった指定はない。だから余計に、統一感のある大きい組がしっかりしているように見える。

 前に座っている保護者達の頭の間から、担任保育士に手を引かれて歩いている拓也の姿を覗き見る。右手は拓也の手を握ってくれている先生は、反対の手ではまた別の子を引き連れている。普段とは全く違う光景に、どの子もキョロキョロと落ち着かないし、歩いたり立ち止まったりして、園庭に連れてくるだけでも大変そうだ。

「俺もあっちの入場門側から撮ってこようか? ここよりはよく見えるだろうし」

 瑞希の隣でスマホを構えていた伸也が、首を伸ばしながら聞いてくる。よく見たら入場門近くの立ち見エリアにはカメラを持った保護者がこぞって集まっていた。その大半が父親だったから、自分もと思ったらしい。

「ううん、拓也が気付いたら愚図るかもしれないし、ここでそっと見ててあげた方がいいかも」
「そっか」

 そうだよね、とすぐに納得して頷くと、伸也はマグボトルのお茶をごくごくと飲んだ。運動会はまだ始まったばかりなのに、妙に喉が渇く。自分で思っている以上にテンションが上がっているのだろうか。

 保育園と提携している写真館のカメラも何台かスタンバイしているから、上手く撮影出来なくても後でネット購入することができる。無言でカメラを構えているよりも、手を叩いたりして応援してあげた方が子供にとってはいいはずだ。

「これより、みつば保育園の運動会を開催いたします」

 園長先生の開会の挨拶と共に始まった運動会。小さな子供達に向けた激励の言葉に続いて、保護者への感謝が述べられ、その後に続いた来賓の紹介で伸也と瑞希は本部テントの方に視線を向ける。

「え……なんで?!」
「い、いや、まさか……」

 ほぼ同時に気付き、絶句する。理事長など園に関わりのある人達に続いて、地元の長が付くような立場の人が順に名前を呼ばれ、テント内から会釈している。その中に二人が見知った顔が並んでいた。

「何しれっと座ってんだよ……」

 本部テントの来賓席で、ニコニコと穏やかに微笑んでいたのは、ADコーポレーション社長の安達健一と、KAJIコーポレーションの相談役である安達百合子。つまり、伸也の両親だ。社名と共に紹介されて、他の来賓と同様に笑顔で頭を下げていた。

「あー、どこかの保育園に寄付したとか言ってたな、確か……」

 病児保育室の設立に向けて、近隣の園との連携が必要だという話は上がっていた。病児の受け入れに応じて保育士が足りなくなった時、その協力体制を築く為だと。ほとんど父に任せきりで具体的なことは何も聞いてはいなかったが、まさかその対象が拓也の通う園だったとは。否、孫が通っている園だからこそ、ここを指定したのだろう。

「来賓でカメラ構えてる人、初めて見たかも」
「運動会のこと、一言も言ってなかったんだけどな」
「私はお誘いしようかとも思ったんだけど、きっとお忙しいだろうなって……全然必要なかったみたいだね」

 仕事の一環で義務的に座っている来賓客ばかりの中、子供達が体操する姿を目尻を下げて見入っている二人。ビジネススーツに身を包んではいるが、観覧席の祖父母達と全く同じ目線。持てる権力を使いまくって、孫の運動会の特等席を手に入れたようなものだ。呆れはしたが、怒る気にはなれない。

 0歳児からの赤ちゃんクラスが園庭に敷かれたマットの上で手遊びを披露した後、拓也達のよちよちクラスの駆けっこが始まった。よーいドンという保育士の声に合わせて歩き出したちびっ子達が、ゴールでタンバリンを叩いて名を呼ぶ担任に向かって進む。

「あはは、グダグダだな」
「拓也、全然先生の方見てないし……」

 観客が気になるのかキョロキョロと周りを見回したり、直前で立ち止まったり。たった15メートルほどの距離も子供達にとっては果てしなく長い。先生達の誘導のおかげで無事に全員がゴールできると、保護者からは一斉に拍手が起こる。あと半年もすれば小学生になる年長さんも、かつて通ってきた道だ。この場の全ての大人が子供達の成長を温かい目で見守ってくれている。

「あ、そろそろ行った方がいいんじゃない? もう集まり始めてるみたい」

 年少クラスの駆けっこが始まると、入場門前には次に行われる親子レースに参加する保護者達が並び始めていた。瑞希に言われて、伸也は被っていたキャップのツバをきゅっと上げる。気合い十分だ。

「頑張ってね」
「任せて」

 夫に向かってヒラヒラと手を振りながら、瑞希はその後ろ姿を見送る。列の整列をしていた保育士に、伸也は首から下げているネームプレートをおもむろに確認されてるようだった。普段の送り迎えには来ない父親がいきなり出てくると、先生達が戸惑うのも当然。
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