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第三十五話・三人でのお出掛け
しおりを挟むそんな痛い言葉をフィーリアに投げつけてくるこの子とは、もう一緒に居たくない。
そこまで考えると、フィーリアはフラフラと歩きだした。
手を上げたり下げたりしておろおろしている男の子の横を通り過ぎ、そのまま母親が消えただろう方向へとゆっくり歩いていく。
「お、おままごと! おままごとやってやってもいい!」
「……え?」
はらはらと涙を垂れ流しながら、フィーリアは大声がした方向―――シリウスの方へと振り返った。
振り返った先には、さっきまで難しい言葉を話し意地悪な態度をする、とても美しい男の子はいなくなっていた。
代わりにブリキの人形のように動きがギシギシとして、必死な形相になった男の子が立っていた。
「さっき言ってただろう? おままごとがしたい、って。それ、それをするぞ! 僕がお父様役だろう? お前がお母様役な?」
呆けたようにシリウスを見つめたままのフィーリア。
あんなに意地悪だった子が、やってもいいと言い募る急な変化に戸惑い、滝のように流れた涙はいつの間にか止まっていた。
シリウスはフィーリアが歩みを止めて自分の話を訊いてる事で手応えを感じ、このまま畳みかけようと、先ほど拒否していた内容をアレコレ思い出す。
「あー…あとは、ああ、そうだ! 名前……名前だったな。僕はシリウス・ランティレーゼ、この国の第一皇子だ。お前の名は?」
フィーリアは思う。私たちはさっき互いの母親たち立ち合いの元で、ちゃんと自己紹介した気がするのだけれど……? とは思うも、そんなすぐ過去の事をわざわざ指摘しにくいのは、目の前の男の子の表情が必死すぎなのである。
鼻をぐすぐす鳴らしながら、フィーリアもようやくこの美しい男の子が仲直りをしようと必死になっているのが分かった。
「フィーリア・レイゼンベルグです。まだいたらない事ばかりですが、よろしくおねがいもうしあげます」
母親に何度も言い訊かせられた言葉。さっきした時よりもつっかえる事なくスムーズに言えた気がする。
「フィーリア……わかった。僕とフィーリアは今日この日からずっと死が二人を別つまでの長い付き合いになると思う。
先程は意地の悪い事を言った。
……すまない。
改めて、宜しく頼む。」
そう言ってシリウスは、フィーリアに白いハンカチを差し出し、少し迷うような素振りをした後、ふわりと笑った。
とても自然で綺麗な笑顔で。
とても難しい言葉を使うシリウスは頭のいい男の子なんだろうなと思いながらも、謝ってくれた事だけは分かった。
「はい、よろしくおねがいします。」
フィーリアは素直に言葉を返せた。
きっともうこの男の子は意地悪を言ったりしないと思うから。
「さて、おままごとというのは、まず何をすればいいのだ?」
貸して貰ったハンカチで涙を拭いたフィーリアを見て、シリウスが尋ねる。
「えっとね、おままごとっていうのは――――」
すっかりご機嫌になったフィーリアは、シリウスに元気よく説明を始めた。
その時のシリウスは、おままごとなるものが演劇のようなものだと思っていたが、演劇は演劇でも恥ずかし過ぎる演目だった事を知った。
――それから。
第一皇子殿下をおままごとに付き合わせるのは不敬なのだと、フィーリアが気づくまでの二年間程――――
シリウスはフィーリアの疑似夫婦おままごとに付き合わされる事となった。
大衆劇のように色んな題材を持ち出されるおままごと。
フィーリアにとってはちょっとした黒歴史となり、付き合わされたシリウスにとっては甘酸っぱく幸せな二年間の想い出である。
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