おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美

文字の大きさ
21 / 47

第二十一話

しおりを挟む
「正直、私もインチキと非難されたら言い訳できる立場でもないのですが、さすがにこれは見過ごせません」

 呪物化したお猪口を客へ売りつけた謎の占い師のことを、マリーはどうしても突き止めたいのだという。
 というか、マリーのオーラ占いがガセだと聞かされたことの方が、美琴には衝撃だった。

「大抵のことは化け狸の嗅覚をもってすれば簡単です。それで分かったことを口にするだけで、皆さん信頼してくださるので、つい。ただ、匂いを嗅いで判断するというと嫌がる方も多いので……」
「だから、オーラってことになってるんだ」

 オーラを見ているフリをしている時は、身体の匂いを嗅がれているのかと思うと、ちょっと引いてしまう。陽菜の足の怪我のことも、テーピングの匂いと薄っすら残るシップ薬の香りで気付いたのだと言っていた。
 人気占い師マリーの正体は、嗅覚に優れたタヌキのあやかし。
 匂いから気付いたことを巧みに話へ盛り込むだけで真実味を増し、実際には悩みの核心に迫るような具体的な答えを口にしないのがツボなのだと悪びれない。
 少しは手相も視れるとは言っているが、肝心のオーラが偽物だった。

 ――そう言われてみたら、こないだも曖昧なアドバイスしかしてなかったような。

 文香は相談する前から先輩へ告白することは決めてたし、陽菜も進路のことは周りの大人と話し合って決めるようにと、至極普通のことを助言されただけだった。マリーの言葉で動いたことは何もない。
 タヌキ占い師は客から聞いたことを違う言葉に言い直して肯定してあげていただけだ。

「詐欺だ……」
「占いなんて、そんなもんさ。信じたいと思う者が勝手に当たったと勘違いして金をつぎ込んでく、ある種の娯楽だよ」

 美琴の呟きに、真知子が当たり前だと言わんばかりに諭す。
 当のマリーも否定する気はなさそうで、何だか社会の裏の顔を垣間見てしまったようで力が抜ける。

「折角訪ねて来てくれたところ悪いが、うちは呪物の取り扱いはしてないし、呪術者探しの依頼も受けてない。勿論、呪詛返しなんて危険な真似はごめんだ」

 嫌な物を見てしまったと、テーブルの上の木箱を一瞥した後、真知子が腰を上げかける。
 と、マリーは「待ってください」と手を伸ばし、当主の動きを制止してから口を開いた。

「これを売りつけている占い師は、鴨川桔梗だと名乗っていたそうです。鴨川家はこちらの分家筋にあたると聞きました」
「なっ……! 鴨川⁉」
「本当に鴨川家の者かどうかまでは分かりませんが、そう名乗っている時点でこちらのご当主様としては、放っておけないのではないですか?」

 美琴の両親が亡くなった後、祖母はあまり必要以上に親戚付き合いをしなくなった。祓い屋である八神の家との関わりは、他の家に迷惑を掛けてしまうことになりかねないと。
 だから鴨川という家のことを美琴は聞いた記憶がない。

「それはお得意のハッタリじゃないだろね。鴨川はとっくに祓い屋を廃業している家だ。呪術を使える人間なんているわけが――」

 途中まで言いかけてから、真知子はしばらく考えるように黙り込んだ。何か思い当たる節でもあるのだろうか、眉を寄せて険しい表情を浮かべている。

「分かった。うちの方でも少し調べるとしよう。その物騒な物はさっさと封印した方がいい。後で護符を持ってこさせるから、他の客にも配ってやんな」

 表情を変えぬまま離れから立ち去って行く真知子を、マリーは少し安堵した顔で見送っていた。
 あやかしの身でこの屋敷へ入ること自体、彼女にとってかなりの試練だったに違いない。

 ツバキが運んで来た護符の束を受け取って、オニギリ屋の店舗から直接通りへとマリーを送り出した後、美琴は中庭の玉砂利を踏みしめながら玄関へと回った。
 と、不意に何かからの視線を感じた気がして、斜め後ろを振り返る。
 門に連なって屋敷の外を囲む土壁の塀の上で、白い紙片のようなものが視界を横切って行ったのが見えたと思った。
 それはあまりにも一瞬のことで、見間違いだったかもしれないが。

「お婆ちゃん、鴨川って家は本当に親戚なの?」

 親戚というと、同じ八神の姓を名乗る数軒と、祖父方の井上の家くらいしか美琴は知らない。法事なんかで集まってくるのはいつもそれくらいだ。

「ああ。私の従兄弟が婿養子に入った家だから、ほとんど付き合いはないんだけどねぇ。鴨川家って言ったら、昔はそれなりに有名な祓い屋だったんだけど、実子に力を継承できる者が生まれなくて、八神から素質のある子を選んで婿入れしたんだよ。ただ、その生まれた子供にも力は無かったから結局は祓いの仕事から離れることになったはずだが」

 祓いに必要な力は途絶え、廃業したはずの鴨川家。
 けれど、マリーが持ち込んで来た呪物を売りさばいているという占い師が、もしその鴨川家の子孫だとしたら――

「おそらく桔梗ってのは、その孫かもしれないな。最後の祓い人だった爺さんが死んで、教える者もいなくてデタラメやってるのか……」

 居間で平静にお茶を啜っているように見えた真知子のこめかみに、小さく青筋が立ったのが見え、美琴はぶるっと背筋を震わせる。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...