11 / 47
第十一話
しおりを挟む
学校からの帰り道。美琴は幼馴染で腐れ縁でもある船越陽菜と、このまま真っ直ぐ帰宅するか駅前のファストフード店まで引き返すかとグダグダ相談していた時、通りの向こうに見慣れた白いモフモフを見つけた。真っ白の狐のあやかしゴンタが、歩道の隅っこにちょこんと座って待っていたのだ。
屋敷へ連れて帰って来てからは、庭の祠の番をしているか、居間で座布団の上で丸まって眠っていることがほとんどな妖狐が、こうして敷地外に出ていることは珍しい。
「あ、ごめん。今日は早く帰るようお婆ちゃんから言われてたの、思い出した」
「ええーっ、そうなの? 期間限定のやつはまた今度、絶対に食べに行こ!」
「うん、約束ー」
そのまま本屋に寄って帰るという陽菜と別れ、美琴は信号が変わったばかりの横断歩道を小走りで渡り切る。
美琴が駆け寄ってくるのを、ゴンタは四本の尻尾を振って出迎えた。やっぱり狐というよりは、どこか犬っぽい。
「ゴンタ、もしかして迎えに来てくれたの?」
「近くにタチの悪いのがうろついてる気配がするから、婆ちゃんが様子見に行けって」
「オレのことはこき使わないって言ってたくせに」と不貞腐れたようにブツブツ文句を言っているが、美琴の隣で跳ねながら歩いている姿はご機嫌そのものにしか見えない。
「えーっ、タチの悪いのって、何なんだろ?」
「さあ、そこまでは聞いてない」
「まさか街中で神隠しとかは無いよねぇ……」
子ぎつねに話しかけながら歩いていると、すれ違った人達が怪訝な表情で見ているの気付いて、美琴は慌てて鞄からスマホを取り出した。そして、端末を片耳に当てて通話しているフリをし始める。
普通の人にはあやかしであるゴンタの姿が視えないことを、すっかり忘れていた。
きっと周りからは何も居ない横の地面に向かって話し掛けている変な子に見えていたはずだ。
――やばっ。外では気を付けないと……
祓いの力を継承してから、それまで視えていなかったものがはっきり視えるようになった。
今通り過ぎた電柱の横でこちらのことを恨めしそうな視線を送っている地縛霊だって、ついこないだまでは気配程度しか気付いてはいなかった。
何かが居るんだろうな、くらいで気にしないフリして素通りできていたものが、見過ごせないほど認識できてしまうようになった。
何もないところでビクついたり、驚きの声をあげてしまったり、周囲から見れば挙動不審に映ってもしょうがない。
人と違うものが視える世界は、ちょっと不便だ。
せめて不自然にならないようにする小道具として、スマホはとても便利だったりする。片手にもって耳に当てるかイヤホンを嵌めていれば、何もないところに向かって喋っていても「なんだ電話中か」と勝手に勘違いしてくれるのだから。
ながら歩きしてるフリをする美琴の横で、ゴンタは三角の耳をピンと立てて得意げに歩いている。
「なんなら、これから毎日迎えに来てやってもいいぞ」
「別に毎日はいらないよ、駅からそんなに遠くもないし」
「そ、そうか……」
美琴が答えた後、ゴンタの耳が目に見えて萎んでシュンと落ち込んでしまった。
こんなに分かり易く凹まれてしまうと罪悪感を感じ、美琴はフォローの為にと慌てて言葉を付け加える。
「ほ、ほら、雨の日はゴンタも出てくるのも大変でしょ? お天気の良い日とかだけでいいからね」
きっとゴンタには駅までのお迎えもお散歩感覚なんだろうなと思うと、完全に拒否はできなかった。
以前はずっとマンションの敷地内から出られず狭い土地に縛り付けられていたのだから、自由に動き回れるようになったのがよっぽど嬉しいのだろう。
ピョンピョンと飛び跳ねるように歩く妖狐と並んで、大通りを一本横の道へと入っていく。
こちらの通りはお店よりも住宅の方が多いから、一気に人通りは減ってしまう。
それでも不審な人物が潜んでいれば、速攻で通報されるくらいにはこの辺りの治安は決して悪くはない。
だからきっと、真知子が注意しろと言っているのは、ヒトのことではないはずだ。
『ただ視えるだけというのは危険が伴う。視えれば相手して欲しがるものに纏わり付かれ、玩具にされる。場合によっては命だって――』
以前に祖母から聞かされた言葉。
視えるようになった美琴に相手をして欲しがるものが、寄ってくる可能性があるのだ。
制服のブレザーのポケットに手を突っ込んで、御守り代わりに折り畳んで忍ばせていた護符へと触れる。
まだまともに祓ったことなんて無いけれど、一応は使い方くらいは知っている。力の継承後、真知子から散々叩き込まれた。
「そう言えば、さっきも祓いの客が来てたぞ。護符を渡しただけで帰ってったみたいだが、祓い屋ってのもアコギな商売なんだな」
客からは姿が視えないのをいいことに、アヤメと一緒に覗き見していたのだという。
ほんの数日前までは自分も封印される対象だったことは、すっかり忘れ去っているみたいだ。
「まあ、依頼にもいろいろあるみたいだからね……」
美琴は苦笑交じりに呟いて返した。
屋敷へ連れて帰って来てからは、庭の祠の番をしているか、居間で座布団の上で丸まって眠っていることがほとんどな妖狐が、こうして敷地外に出ていることは珍しい。
「あ、ごめん。今日は早く帰るようお婆ちゃんから言われてたの、思い出した」
「ええーっ、そうなの? 期間限定のやつはまた今度、絶対に食べに行こ!」
「うん、約束ー」
そのまま本屋に寄って帰るという陽菜と別れ、美琴は信号が変わったばかりの横断歩道を小走りで渡り切る。
美琴が駆け寄ってくるのを、ゴンタは四本の尻尾を振って出迎えた。やっぱり狐というよりは、どこか犬っぽい。
「ゴンタ、もしかして迎えに来てくれたの?」
「近くにタチの悪いのがうろついてる気配がするから、婆ちゃんが様子見に行けって」
「オレのことはこき使わないって言ってたくせに」と不貞腐れたようにブツブツ文句を言っているが、美琴の隣で跳ねながら歩いている姿はご機嫌そのものにしか見えない。
「えーっ、タチの悪いのって、何なんだろ?」
「さあ、そこまでは聞いてない」
「まさか街中で神隠しとかは無いよねぇ……」
子ぎつねに話しかけながら歩いていると、すれ違った人達が怪訝な表情で見ているの気付いて、美琴は慌てて鞄からスマホを取り出した。そして、端末を片耳に当てて通話しているフリをし始める。
普通の人にはあやかしであるゴンタの姿が視えないことを、すっかり忘れていた。
きっと周りからは何も居ない横の地面に向かって話し掛けている変な子に見えていたはずだ。
――やばっ。外では気を付けないと……
祓いの力を継承してから、それまで視えていなかったものがはっきり視えるようになった。
今通り過ぎた電柱の横でこちらのことを恨めしそうな視線を送っている地縛霊だって、ついこないだまでは気配程度しか気付いてはいなかった。
何かが居るんだろうな、くらいで気にしないフリして素通りできていたものが、見過ごせないほど認識できてしまうようになった。
何もないところでビクついたり、驚きの声をあげてしまったり、周囲から見れば挙動不審に映ってもしょうがない。
人と違うものが視える世界は、ちょっと不便だ。
せめて不自然にならないようにする小道具として、スマホはとても便利だったりする。片手にもって耳に当てるかイヤホンを嵌めていれば、何もないところに向かって喋っていても「なんだ電話中か」と勝手に勘違いしてくれるのだから。
ながら歩きしてるフリをする美琴の横で、ゴンタは三角の耳をピンと立てて得意げに歩いている。
「なんなら、これから毎日迎えに来てやってもいいぞ」
「別に毎日はいらないよ、駅からそんなに遠くもないし」
「そ、そうか……」
美琴が答えた後、ゴンタの耳が目に見えて萎んでシュンと落ち込んでしまった。
こんなに分かり易く凹まれてしまうと罪悪感を感じ、美琴はフォローの為にと慌てて言葉を付け加える。
「ほ、ほら、雨の日はゴンタも出てくるのも大変でしょ? お天気の良い日とかだけでいいからね」
きっとゴンタには駅までのお迎えもお散歩感覚なんだろうなと思うと、完全に拒否はできなかった。
以前はずっとマンションの敷地内から出られず狭い土地に縛り付けられていたのだから、自由に動き回れるようになったのがよっぽど嬉しいのだろう。
ピョンピョンと飛び跳ねるように歩く妖狐と並んで、大通りを一本横の道へと入っていく。
こちらの通りはお店よりも住宅の方が多いから、一気に人通りは減ってしまう。
それでも不審な人物が潜んでいれば、速攻で通報されるくらいにはこの辺りの治安は決して悪くはない。
だからきっと、真知子が注意しろと言っているのは、ヒトのことではないはずだ。
『ただ視えるだけというのは危険が伴う。視えれば相手して欲しがるものに纏わり付かれ、玩具にされる。場合によっては命だって――』
以前に祖母から聞かされた言葉。
視えるようになった美琴に相手をして欲しがるものが、寄ってくる可能性があるのだ。
制服のブレザーのポケットに手を突っ込んで、御守り代わりに折り畳んで忍ばせていた護符へと触れる。
まだまともに祓ったことなんて無いけれど、一応は使い方くらいは知っている。力の継承後、真知子から散々叩き込まれた。
「そう言えば、さっきも祓いの客が来てたぞ。護符を渡しただけで帰ってったみたいだが、祓い屋ってのもアコギな商売なんだな」
客からは姿が視えないのをいいことに、アヤメと一緒に覗き見していたのだという。
ほんの数日前までは自分も封印される対象だったことは、すっかり忘れ去っているみたいだ。
「まあ、依頼にもいろいろあるみたいだからね……」
美琴は苦笑交じりに呟いて返した。
16
あなたにおすすめの小説
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる