月見月は紅染月

紀之介

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日付が変わった瞬間に

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「…今、年が明けましたー!」

 日付が変わった瞬間に、葉月さんは声を上げました。

「明けまして、おめでとうだねぇ」

 おっとりと、霜月さんが挨拶の言葉を口にします。

「今年も残す所…あと364日か」

 何故か嬉しそうに、呟く如月さん。

「で、何処にお詣りするんですか?」

 尋ねる葉月さんに、霜月さんが答えます。

「笹本さんの お墓で、良いなじゃないかなぁ」

「…お墓に、何しに行くんですか?」

「初詣。」

 如月さんが、口を挟みました。

「霜月が墓って言ってるのは、笹本神社の事だから。」

 後を受けて、霜月さんが説明します。

「─ あそこは、戦で討ち死にした 笹本さんを祀っているんだよねぇ」

「?」

 煙に巻かれた顔の葉月さんを、如月さんが促しました。

「とにかく、初詣に行こうか。」

----------

「何か、お願いするの?」

 神社に向かう途中、霜月さんが尋ねます。

「人に教えたら 叶わなくなってしまうので、教えられません。」

 真剣に、葉月さんが答えました。

「しない方が良いと思うよ。お願い事…」

 秘密を明かす様な感じで、如月さんが言葉を漏らします。

「…え?」

「今日みたいな時にしても、叶えてもらえないと 思うから」

「─ 何で、ですか?」

「初詣みたいに 人出が多い時だと、誰が何を願ったのか、神様に伝わり難いと思うんだよね。」

「はぁ…」

「願いを叶えてもらう確率を上げるなら…もっとお願いする人が少なくて、誰が何を頼んだのか、神様に明確に判ってもらえる時の方が 良いと思うな」

「じゃあ…私は、今からどうしたら良いんですか?」

「…顔つなぎの挨拶しておけば、良いんじゃないかな」

「か、顔つなぎの…挨拶……ですか?」

「後で、ちゃんとお願いしに来ますからって」

「─」

「それで顔を覚えて貰えれば、熱意を感じた神様が、願い事を訊いてくれるかも知れないし。」

----------

「今日は、再認識しました。」

 神社からの帰り道、突然語りだす、葉月さん。

「─ 2人が超えた人だって!」

 霜月さんは のんびりと尋ねます。

「私と如月が、何を超えてるの?」

「普通人の境目、です。」

「…それって 私達を、おかしな人だって 言ってたり するのかなぁ?」

「神社を墓と言ったり、初詣が神様への顔つなぎだったりするのは、普通じゃありませんから!」

 力説する葉月さんに、如月さんは確認しました。

「私や霜月が…変人なのは まあ否定しないにしても、あんたは?」

「─ 私は…ごく普通の人、です!」

 葉月さんの言葉に、2人は呆れた様に顔を見合わせます。

「無知の無知、だねぇ…」

 霜月さんの言葉に、葉月さんは不服そうな表情を浮かべました。

「私が、変人だって仰るつもりですか?」

 如月さんは、葉月さんの認識を変えるべく 微笑みながら宣言します。

「初日の出までに時間があるから…あんたの普通じゃない所業、懇切丁寧に、解説してあげるね。」

「…え?」

 笑顔の如月さんに、葉月さんは動揺した様子を見せました。

 霜月さんが、静かに呟きます。

「日が出るまでに終わると、良いけどねぇ。。。」
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