葉月さんと真一君のお話

紀之介

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大欠伸のお話

お待たせ。

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 デートの待ち合わせ時間の、数分前。

 葉月さんは、公園のベンチに座って本を読んでいました。

 人の気配と同時に、本に影が差し込みます。

「お待たせ。葉月ねーちゃん!」

「シンちゃん…」

 自分の横に腰を下ろした真一君に、葉月さんは 軽く食って掛かりました。

「ねーちゃんって呼ぶの…止めてくださいって、何度も言ってますよね? 」

 栞を挟んで本を閉じる葉月さん。

「私のほうが年下なのに…姉呼ばわりされるのは、どう考えても、不条理です!」

「…だったら、年上を『ちゃん』付けで呼ぶのも、変だよね?」

 真一君の言葉に、葉月さんがムキになります。

「でも…シンちゃんは、シンちゃんです!」

「─ だったら、葉月ねーちゃん だって、葉月ねーちゃんで おかしくないよね?」

 有効な反論が出来ない葉月さんは、唇を尖らしました。。。

----------

「ふぁあぁ~」

 喫茶店の席に着くや否や、大欠伸をする真一君。

「寝不足ですか?」

 呆れた顔で、葉月さんはメニューから目を上げました。

 真一君は、表情を取り繕います。

「今日のデートが楽しみすぎて…良く寝られなかったんだ。」

 葉月さんは、冷めた視線を送りました。

 耐え切れなくなった真一君が、目を逸らします。

「ゲームをしてたら…寝るタイミングを逸しただけです。すいません。。。」

----------

「ふぁぁああぁぁ~」

 再び大欠伸をした真一君を、葉月さんは訝しげに見ました。

「私のお話…ちゃんと聞いてくれてますか?」

 葉月さんの頬が、大きく膨らみます。

 怒りのオーラを感じて、わざとらしく 大きく頷いて見せる真一君。

 疑う目で、葉月さんが睨みます。

「…欠伸するなとは言いませんから、する時には…せめて手で隠すぐらいは、して下さい」

「りょ、了解…」

「─ ちゃんと してくれないと…どうなっても 知りませんよ?」

----------

「ふぁぁぁあああぁぁぁ~」

 手で隠すこと無く、真一君は 3度目の大欠伸をしました。

 その瞬間、葉月さんが、素早く腕を伸ばします。

 大きく開いた口の真ん中に、右の人差し指を差し入れたのです。

 突然の出来事に、固まってしまう真一君。

 その姿を見て、葉月さんの目が笑います。

 事態を把握した真一君は、ムッとしました。

 人差し指の第一関節の辺りを歯で噛むようにして、口を窄めます。

「な、何をするんですか!」

 真一君は、噛み加減に気を付けながら、指を舐めました。

「や、止めて下さい!!」

 半泣きで、抗議の声をあげる葉月さん。

 逆襲に成功した真一君は、指を咥える力を緩めました。

 指を開放された葉月さんが、声を荒げます。

「何て事を、するんですか!」

「…頬を膨らませられる、立場じゃないよね!?」

「噛んだり舐めたりするなんて、信じられません!!」

「─ 口に指を入れてきたのは…葉月ねーちゃん、なんだけど。」

「シンちゃんは…そんな事しない人だって、信じていたのに……」

 真一君は、疲れた顔で立ち上がりました。

「口…濯いでくる。。。」

----------

「…落ち着いた?」

 洗面所から真一君が席に戻った時。

 葉月さんは、しょんぼりとテーブルに 目を伏せていました。

「シンちゃんの口に、いきなり指を入れたりしたのは…良く無い事 でした……」

 すっかりしょげた葉月さんを、真一君が取り成します。

「僕も…指を噛んだり舐めたりしたから、それで…帳消し。」

「…本当ですか?」

 頷いた真一君に、葉月さんは、笑顔を見せました。

「─ 次、シンちゃんの口に指を入れる時は、いきなりじゃなく…事前に ちゃんと言いますから、安心して下さい!」

「…え?!」

「今度は、私の指を噛んだり舐めたりしたら…駄目ですよ♡」
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