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天から舞い降りし者
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「さて……」
キアが居なくなるとリゼフィアーラはルアグに向き直った。
「ルアグ」
「君は天使なんだよな」
「えぇ、お話しした通りです」
「悪魔にも詳しい」
「はい、悪魔はわたくし達天使と相対する種族ですから」
「それなら君には、俺が何なのか分かるよな……?」
ルアグは意を決すると長い髪を掻き上げリゼフィアーラに尖った耳を見せた。
「俺には記憶がないんだ。おそらくこの首輪のせいだろう」
シュルリ。目隠し用にとキアから貰った黄色のスカーフを取る。
スカーフの下からは不気味な目の形をした金属をぶら下げた皮の首輪が現れる。
その刹那、リゼフィアーラの眉が動いたのをルアグは見逃さなかった。
「そして……一度キアを襲っている」
「!」
「時々首輪が熱くなって、ひどい頭痛と、その……喉の「渇き」に襲われるんだ。
あの夜もそうだった。
首輪が熱くなっていつもよりも強い頭痛が来て、
激しい「渇き」に頭がおかしくなりそうになって、
気が付いたら部屋に飛び込んできたキアの首筋に噛み付いて、血を……」
首が微かに熱を帯びる。ルアグはとうとう確信に迫った。
「俺は……悪魔、なんだろう?」
リゼフィアーラは哀れむようにルアグを一瞥すると、静かに瞳を閉じた。
「それは、聞かない方が貴方のためになると思います」
「もうすでに俺はキアを襲ったんだ! 今更だ」
「それを聞いて貴方はどうするのですか」
「……君は天使なのに、どうして俺の心配をするんだ」
「……」
「本来なら俺は君に斬られてもおかしくないんだよな?
天使と悪魔は相対する存在だって言ったじゃないか」
「……それは……」
「言えないのか」
「……」
「せめて俺の正体だけでも教えてくれ、リゼフィアーラ」
リゼフィアーラは顔を上げると、苦虫を噛み潰したかのような顔をしながら口を開いた。
「間違いありません。その耳、微かに感じるその気配、貴方は悪魔です」
「……そうか、やっぱり俺は……悪魔……「人喰い」なんだな……」
ルアグは椅子の背にもたれかかると、力なく項垂れた。
「守るって、俺が守るって約束したのに」
「ルアグ……」
「くそっ!」
ダンッと机を拳で叩くが、
キアが上で寝ていなければ机を叩き壊してやりたいくらい悔しさと怒りでいっぱいだった。
「どうしたらいいんだ。明日からどんな顔してキアと話せばいい?」
「……今は、言わなくていいのではないですか?」
「え?」
突拍子もない提案にルアグは驚いた。目の前の天使は何を言っているのだ?
「どうせ言わなくてもいずれ正体は明らかになる…それならせめてそれまで黙ってたらいいのです」
「リゼフィアーラ、君は何を……?」
「彼女は貴方を大切に想っているのでしょう? 貴方もまた、彼女が大切」
「そ、それは……俺は確かにキアが大切だ。けど彼女にとっての俺は──」
「こんなに近くに居るのに、大切な人の心も分からないと貴方は仰るのですか?」
翠玉色の美しい瞳がルアグをきっちりと見据える。その瞳に何か強い圧を感じ、ルアグは思わず言葉に詰まってしまった。
「貴方は彼女を、キアの想いを軽んじすぎているのでは?」
「……そんなこと……」
「ないと言い切れますか? 種族の違いなどなんだと言うのです!」
今度はリゼフィアーラが机を両手でバン!と叩いた。
「リゼフィアーラ……?」
それはルアグに、と言うよりまるで自分自身への言葉であるかのような……。
「すみません、少し熱くなりました」
一瞬垣間見たリゼフィアーラのただならぬ事情がルアグにはとても引っ掛かった。
「とにかく。あんなに憔悴しきった彼女に事実を告げるのはあまりに酷というものですよ」
「確かに、そうだな……ありがとう、少し冷静さを欠いていたよ。今はこれ以上キアに負担をかけられない」
「どれだけの猶予があるのかは分かりませんが、今はキアの傍にいてあげるべきです。
貴方のことについてはあちらには報告しないでおきますから」
「でもそれはもし知られたら君の立場が危ういんじゃないか?」
「大丈夫ですよ。それに貴方が心配するべきなのはわたくしじゃないでしょう?」
ふわりとリゼフィアーラが微笑む。
「ありがとう。恩に着る」
「わたくしはそろそろ行きます。また何かあった時は駆けつけます」
「あぁ、頼むよ」
リゼフィアーラは最後にもう一度笑顔を見せると出て行った。
「種族の違いなど、なんだと言うのです……」
そんな彼女の独り言に、ルアグは全く気づかないまま。
キアが居なくなるとリゼフィアーラはルアグに向き直った。
「ルアグ」
「君は天使なんだよな」
「えぇ、お話しした通りです」
「悪魔にも詳しい」
「はい、悪魔はわたくし達天使と相対する種族ですから」
「それなら君には、俺が何なのか分かるよな……?」
ルアグは意を決すると長い髪を掻き上げリゼフィアーラに尖った耳を見せた。
「俺には記憶がないんだ。おそらくこの首輪のせいだろう」
シュルリ。目隠し用にとキアから貰った黄色のスカーフを取る。
スカーフの下からは不気味な目の形をした金属をぶら下げた皮の首輪が現れる。
その刹那、リゼフィアーラの眉が動いたのをルアグは見逃さなかった。
「そして……一度キアを襲っている」
「!」
「時々首輪が熱くなって、ひどい頭痛と、その……喉の「渇き」に襲われるんだ。
あの夜もそうだった。
首輪が熱くなっていつもよりも強い頭痛が来て、
激しい「渇き」に頭がおかしくなりそうになって、
気が付いたら部屋に飛び込んできたキアの首筋に噛み付いて、血を……」
首が微かに熱を帯びる。ルアグはとうとう確信に迫った。
「俺は……悪魔、なんだろう?」
リゼフィアーラは哀れむようにルアグを一瞥すると、静かに瞳を閉じた。
「それは、聞かない方が貴方のためになると思います」
「もうすでに俺はキアを襲ったんだ! 今更だ」
「それを聞いて貴方はどうするのですか」
「……君は天使なのに、どうして俺の心配をするんだ」
「……」
「本来なら俺は君に斬られてもおかしくないんだよな?
天使と悪魔は相対する存在だって言ったじゃないか」
「……それは……」
「言えないのか」
「……」
「せめて俺の正体だけでも教えてくれ、リゼフィアーラ」
リゼフィアーラは顔を上げると、苦虫を噛み潰したかのような顔をしながら口を開いた。
「間違いありません。その耳、微かに感じるその気配、貴方は悪魔です」
「……そうか、やっぱり俺は……悪魔……「人喰い」なんだな……」
ルアグは椅子の背にもたれかかると、力なく項垂れた。
「守るって、俺が守るって約束したのに」
「ルアグ……」
「くそっ!」
ダンッと机を拳で叩くが、
キアが上で寝ていなければ机を叩き壊してやりたいくらい悔しさと怒りでいっぱいだった。
「どうしたらいいんだ。明日からどんな顔してキアと話せばいい?」
「……今は、言わなくていいのではないですか?」
「え?」
突拍子もない提案にルアグは驚いた。目の前の天使は何を言っているのだ?
「どうせ言わなくてもいずれ正体は明らかになる…それならせめてそれまで黙ってたらいいのです」
「リゼフィアーラ、君は何を……?」
「彼女は貴方を大切に想っているのでしょう? 貴方もまた、彼女が大切」
「そ、それは……俺は確かにキアが大切だ。けど彼女にとっての俺は──」
「こんなに近くに居るのに、大切な人の心も分からないと貴方は仰るのですか?」
翠玉色の美しい瞳がルアグをきっちりと見据える。その瞳に何か強い圧を感じ、ルアグは思わず言葉に詰まってしまった。
「貴方は彼女を、キアの想いを軽んじすぎているのでは?」
「……そんなこと……」
「ないと言い切れますか? 種族の違いなどなんだと言うのです!」
今度はリゼフィアーラが机を両手でバン!と叩いた。
「リゼフィアーラ……?」
それはルアグに、と言うよりまるで自分自身への言葉であるかのような……。
「すみません、少し熱くなりました」
一瞬垣間見たリゼフィアーラのただならぬ事情がルアグにはとても引っ掛かった。
「とにかく。あんなに憔悴しきった彼女に事実を告げるのはあまりに酷というものですよ」
「確かに、そうだな……ありがとう、少し冷静さを欠いていたよ。今はこれ以上キアに負担をかけられない」
「どれだけの猶予があるのかは分かりませんが、今はキアの傍にいてあげるべきです。
貴方のことについてはあちらには報告しないでおきますから」
「でもそれはもし知られたら君の立場が危ういんじゃないか?」
「大丈夫ですよ。それに貴方が心配するべきなのはわたくしじゃないでしょう?」
ふわりとリゼフィアーラが微笑む。
「ありがとう。恩に着る」
「わたくしはそろそろ行きます。また何かあった時は駆けつけます」
「あぁ、頼むよ」
リゼフィアーラは最後にもう一度笑顔を見せると出て行った。
「種族の違いなど、なんだと言うのです……」
そんな彼女の独り言に、ルアグは全く気づかないまま。
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キアちゃんとっても優しくていいですね……!
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