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活動記録――今回の一件、送波秋夜と里霧有耶との間で起こっていた揉め事は無事に解決した。
送波が起こしていた問題は、里霧以外との間にも起こっていたが、そこはまた、別の機会に記載しようと思う。記載といっても、生徒会としての資料に残るものではない。
これはあくまでオレがこの件に対して、区切りをつけるための回想に過ぎない。ボールペンは持っていないし、目の前に紙があるわけでもない。生徒会室につい最近、新たに設置された大仰な椅子にふんぞり返りながら、オレが――不撓導舟が、ただ回想しているというだけのことだ。
その後について、すこし語るとしよう。
里霧有耶と拘崎沙莉は、図書館棟で仲直りを果たした。その後もどうやら、前と同じような関係性に戻れたとのことだったが、オレが様子を見に行ったときは、以前より仲が良くなったのでは? と、思うほどで、それについて厳見に訊いてみると、「前より仲いいよ、あの二人」とのことらしい。
それはよかった。
拘崎の誤解を解いて、仲直りができたのは里霧が変わったからだと、偏にそう思う。
自分が変わったから、相手を変えられた。
自分が変わらなかったら、相手を変えることもできなかったはずだ。
分岐点はそこにあったのだろう。
そして、数日が経った放課後のこと。
里霧有耶は、退部届けを持って生徒会室にやってきた。
理由はなにも言わなかった。
里霧は去り際に一言だけ告げて、お辞儀をしていた。
「ありがとう、それと――ごめんなさい」
とのことだった。
「そんな気にするなよ」
残念ではあったが、オレは微笑んで退部届を受け取った。
最後くらいは、和やかにいこう。
「また頑張るさ」
そうして、退部届は顧問を通して受理が成され、生徒会は不撓導舟一人で構成されることになった。
以上、回想終わり。
放課後――生徒会室。
「え~と、今日は演劇部の公演に出席して、そんで、中学生の学校案内に出て、そんで、大量に送られてきた訳のわからん行事企画書の処理をしないといけないと……」
地獄か?
特に行事企画書とかいう、雑事。
九割五分くらい棄却される紙の束、いる?
オレはいらないと思う。
「ひとまず、行事企画書から片付けるか」
適当な数を手にとって、大まかな内容を確認して、紙を振り分けていく。
手慣れすぎて、職人の域に到達してしまっている。
こんなもので職人にならんでいい。
内心でそんなツッコミをしていると、扉をこんこんと叩く音が聞こえた。
「は~い」
オレはできるだけ大きな声で返事をする。
図書館棟ほどでないにしろ、生徒会室もそれなりに防音が効いている。多少は声を張り上げないと、扉の向こうにいる相手も聞こえないだろう。
立ち上がって、訪問者のいる方へと向かう。
変な依頼じゃないだろうなと憂慮しつつ、扉を押す。
今日の予定が増えないといいのだが。
「生徒会に何か御用で……すか」
オレは訪問者の顔を見て、驚きを隠せなかった。
そこにいたのは、
「久しぶり!」
ついこの間、生徒会を去った里霧有耶がそこにいた。
退部届を提出した彼女が、笑顔で手を振っている。
「久しぶり……なのはいいんだが、どうした?」
またトラブルを起こしたんじゃないだろうな、と嫌な予感が脳裏を過った。
いや、里霧の場合、トラブルを起こしたというよりは、トラブルに巻き込まれたというのが正しいところなんだろうな。
「ここで話すのもなんだから、中に入れさせてもらうわね!」
オレは要件を把握できぬまま、里霧有耶は生徒会室に足を踏み入れた。
そして、里霧はソファに腰を掛ける。
その位置は、生徒会の仕事をしているときに、里霧が決まって座っていた場所だ。
懐かしい――というほど、日が経っているわけではないが、懐かしいと感じたオレだった。
「それで、今日はどういったご要件で?」
オレは里霧の対面のソファに腰を掛けて、堅苦しい口調でそう言った。
「要件?」
「そう、要件」
すると、里霧は視線を泳がせ、頬を掻く。
「え~と、生徒会ってどうやったら入れるの?」
「なん……だと……」
ん? あれ?
いつかこんなやり取りをしたような気が……。
というか生徒会の入り方は知ってるだろ。
まあいいか。
「って、生徒会に入る⁉ なんで⁉」
そう、里霧は数日前、理由を告げずに生徒会を去っている。
その数日後である現在、里霧は生徒会に入ると言った。
「あのときはやめる理由を言ってなかったわね」
言えない事情もあるだろうと思って、追求はしなかったが、いま聞けるのか?
「私が生徒会に入った動機、あったじゃない?」
「ああ」
送波から距離を置くために、学校で悪い評判が目立つ生徒会に入った――だったか。
「この前の一件は解決した。それでも私が生徒会に入った動機は変わらない」
どうして生徒会に入ったのか思い出したときに、どうしても送波のことが関連付けられてしまう。
「そのまま続けていたら、いつまでも終わらないままだろうから、一度、生徒会と昔を切り離すために退部届を出したってわけ」
自分勝手だとわかっていたけれど、と里霧。
オレは気が抜けて、ソファの背もたれに両腕を広げ、大の字で天井を仰いだ。
「なるほど、腑に落ちた」
生徒会の退部を以って、一切の後腐れなく、一件落着ということか。
「……こほん」
わざとらしく咳払いをする里霧。
しっかりと手の仕草をいれているところもわざとらしい。
オレは釣られて里霧に視線を向ける。
里霧は頬を赤らめ、咳払いのための手はまだ口元に当てられていた。
そして、
「私をもう一度――生徒会に入れてくださいっ!」
――学校に於けるトップとは誰か。
この話題を挙げれば、出てくる人間はだいたい決まっている。
理事長、校長、あるいはPTAと挙げる者もいるだろう。
スクールカースト上位の生徒?
――――違う。
それとも名家のご令嬢?
――――違う。
はたまた生徒たちに恐れられるヤンキー?
――――それも違う。
全ての委員会を取りまとめ、ありとあらゆる行事を取り進め、生徒の模範として、体育館の壇上に立つ人間。 学校のトップがそれらの者であるならば、生徒のトップは間違いなく生徒会長と言えるだろう。
しかし、生徒のトップであるところの生徒会長もまた、一人の人間だ。
独りでできることなど、たかが知れていると、オレは知っている。
厳見春介がいて、染屋愛歌がいて、里霧有耶がいたからこそ、解決できた。
まあ、オレが何を言いたのかというと、たった独りの生徒会に一人、仲間が増えたということだ。
送波が起こしていた問題は、里霧以外との間にも起こっていたが、そこはまた、別の機会に記載しようと思う。記載といっても、生徒会としての資料に残るものではない。
これはあくまでオレがこの件に対して、区切りをつけるための回想に過ぎない。ボールペンは持っていないし、目の前に紙があるわけでもない。生徒会室につい最近、新たに設置された大仰な椅子にふんぞり返りながら、オレが――不撓導舟が、ただ回想しているというだけのことだ。
その後について、すこし語るとしよう。
里霧有耶と拘崎沙莉は、図書館棟で仲直りを果たした。その後もどうやら、前と同じような関係性に戻れたとのことだったが、オレが様子を見に行ったときは、以前より仲が良くなったのでは? と、思うほどで、それについて厳見に訊いてみると、「前より仲いいよ、あの二人」とのことらしい。
それはよかった。
拘崎の誤解を解いて、仲直りができたのは里霧が変わったからだと、偏にそう思う。
自分が変わったから、相手を変えられた。
自分が変わらなかったら、相手を変えることもできなかったはずだ。
分岐点はそこにあったのだろう。
そして、数日が経った放課後のこと。
里霧有耶は、退部届けを持って生徒会室にやってきた。
理由はなにも言わなかった。
里霧は去り際に一言だけ告げて、お辞儀をしていた。
「ありがとう、それと――ごめんなさい」
とのことだった。
「そんな気にするなよ」
残念ではあったが、オレは微笑んで退部届を受け取った。
最後くらいは、和やかにいこう。
「また頑張るさ」
そうして、退部届は顧問を通して受理が成され、生徒会は不撓導舟一人で構成されることになった。
以上、回想終わり。
放課後――生徒会室。
「え~と、今日は演劇部の公演に出席して、そんで、中学生の学校案内に出て、そんで、大量に送られてきた訳のわからん行事企画書の処理をしないといけないと……」
地獄か?
特に行事企画書とかいう、雑事。
九割五分くらい棄却される紙の束、いる?
オレはいらないと思う。
「ひとまず、行事企画書から片付けるか」
適当な数を手にとって、大まかな内容を確認して、紙を振り分けていく。
手慣れすぎて、職人の域に到達してしまっている。
こんなもので職人にならんでいい。
内心でそんなツッコミをしていると、扉をこんこんと叩く音が聞こえた。
「は~い」
オレはできるだけ大きな声で返事をする。
図書館棟ほどでないにしろ、生徒会室もそれなりに防音が効いている。多少は声を張り上げないと、扉の向こうにいる相手も聞こえないだろう。
立ち上がって、訪問者のいる方へと向かう。
変な依頼じゃないだろうなと憂慮しつつ、扉を押す。
今日の予定が増えないといいのだが。
「生徒会に何か御用で……すか」
オレは訪問者の顔を見て、驚きを隠せなかった。
そこにいたのは、
「久しぶり!」
ついこの間、生徒会を去った里霧有耶がそこにいた。
退部届を提出した彼女が、笑顔で手を振っている。
「久しぶり……なのはいいんだが、どうした?」
またトラブルを起こしたんじゃないだろうな、と嫌な予感が脳裏を過った。
いや、里霧の場合、トラブルを起こしたというよりは、トラブルに巻き込まれたというのが正しいところなんだろうな。
「ここで話すのもなんだから、中に入れさせてもらうわね!」
オレは要件を把握できぬまま、里霧有耶は生徒会室に足を踏み入れた。
そして、里霧はソファに腰を掛ける。
その位置は、生徒会の仕事をしているときに、里霧が決まって座っていた場所だ。
懐かしい――というほど、日が経っているわけではないが、懐かしいと感じたオレだった。
「それで、今日はどういったご要件で?」
オレは里霧の対面のソファに腰を掛けて、堅苦しい口調でそう言った。
「要件?」
「そう、要件」
すると、里霧は視線を泳がせ、頬を掻く。
「え~と、生徒会ってどうやったら入れるの?」
「なん……だと……」
ん? あれ?
いつかこんなやり取りをしたような気が……。
というか生徒会の入り方は知ってるだろ。
まあいいか。
「って、生徒会に入る⁉ なんで⁉」
そう、里霧は数日前、理由を告げずに生徒会を去っている。
その数日後である現在、里霧は生徒会に入ると言った。
「あのときはやめる理由を言ってなかったわね」
言えない事情もあるだろうと思って、追求はしなかったが、いま聞けるのか?
「私が生徒会に入った動機、あったじゃない?」
「ああ」
送波から距離を置くために、学校で悪い評判が目立つ生徒会に入った――だったか。
「この前の一件は解決した。それでも私が生徒会に入った動機は変わらない」
どうして生徒会に入ったのか思い出したときに、どうしても送波のことが関連付けられてしまう。
「そのまま続けていたら、いつまでも終わらないままだろうから、一度、生徒会と昔を切り離すために退部届を出したってわけ」
自分勝手だとわかっていたけれど、と里霧。
オレは気が抜けて、ソファの背もたれに両腕を広げ、大の字で天井を仰いだ。
「なるほど、腑に落ちた」
生徒会の退部を以って、一切の後腐れなく、一件落着ということか。
「……こほん」
わざとらしく咳払いをする里霧。
しっかりと手の仕草をいれているところもわざとらしい。
オレは釣られて里霧に視線を向ける。
里霧は頬を赤らめ、咳払いのための手はまだ口元に当てられていた。
そして、
「私をもう一度――生徒会に入れてくださいっ!」
――学校に於けるトップとは誰か。
この話題を挙げれば、出てくる人間はだいたい決まっている。
理事長、校長、あるいはPTAと挙げる者もいるだろう。
スクールカースト上位の生徒?
――――違う。
それとも名家のご令嬢?
――――違う。
はたまた生徒たちに恐れられるヤンキー?
――――それも違う。
全ての委員会を取りまとめ、ありとあらゆる行事を取り進め、生徒の模範として、体育館の壇上に立つ人間。 学校のトップがそれらの者であるならば、生徒のトップは間違いなく生徒会長と言えるだろう。
しかし、生徒のトップであるところの生徒会長もまた、一人の人間だ。
独りでできることなど、たかが知れていると、オレは知っている。
厳見春介がいて、染屋愛歌がいて、里霧有耶がいたからこそ、解決できた。
まあ、オレが何を言いたのかというと、たった独りの生徒会に一人、仲間が増えたということだ。
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