田舎の犬と都会の猫ー振興係編ー

雪うさこ

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第25章 犬、お見合いします!

04 お見合い

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 母親たちを連れて、田口はタクシーに乗り込み駅前のホテルへ向かった。

「あんだの家でよかったのに」

 母親の言葉に首を横に振る。「もう自宅はありません!」なんて言えないからだ。

「失礼だろう。そんなの。ちゃんと予約してあるから」

 平日で助かった。保住に促されて市内のホテルのレストランを予約出来たのだ。ランチ時間とはずれるが、なんとか食事にはありつけるようだった。そこで食事でもして、後は新幹線に押し込んで帰ってもらうのが一番いい。これからの予定を考えながら、田口は三人を予約席に連れて行った。

 佐藤義一郎という男は、母親の家系の本家にあたる。母親の祖母の実家だ。優愛ゆあという女性は、義一郎の弟の妻の兄弟のいとこの子らしい。かなり遠いし、どんな関係なのか理解しがたい。

「優愛ちゃんは、大学が梅沢大学だったんだ。それで、銀太が梅沢にいるなら、結婚したって慣れた土地だし。問題ねーべってことになったんだ」

 義一郎はそう説明する。二十七だか二十八だかと聞いていた。とすると、田口の後輩にあたるのか。雪割から梅沢大学に来るなんて、珍しいコース。彼女もまた少し変わっているのかも知れないと、内心思う。

「しかし大きな役所だな。雪割《ゆきわり》の役場とは違うな」

「だな。私も初めて来た。あんだの職場なんて、なんだか感激だよ」

 母親は笑顔を見せて心から嬉しそうにしていた田口にとったら、大変迷惑な行為であることには違いないが、彼女がそんなにも嬉しそうな顔をするのであれば、それはそれでいいのかも知れない。こんな大人になって息子の職場を見に来る親もいないが、見たら喜ぶものなのだろう。確かにそうかも知れないなと、田口は思った。

「恥ずかしいから。やめろよ」

「だって。いいじゃない。それよりも優愛ちゃん、どう?うちの銀太は?」

 単刀直入過ぎだろう。田口は冷や汗をかくが、彼女は恥ずかしそうに笑みを浮かべた。

「写真通りの方ですね」

「写真って。おれの写真出したの?」

 母親を睨む。

「だって見合いだもの。あんだの出さないわけにいかないでしょう」

「だけど」

 結局はおしゃべりな母親が中心になって話が進んでしまう。三十分程度食事をした後。義一郎が席を立った。

「じゃあ、ここからは若い二人で話をするといいべ」

「え、二人。ですか」

「んだ。おれたちがいたら、言いたいことも言えないだろうし。おれたちは土産買ってっから。そこに物産館あるんだべ」

 ホテルの最上階からの眺めはなかなかのもの。義一郎は向かいにあるコンベンションセンターを指さした。

「一階に観光物産館があります」

「お土産ね。いいわね。じゃ、1時間後にその店の入り口で待ち合わせしましょう」

 母親と義一郎はにこにことして店を出ていった。それを見送ってから田口は困ったと思う。女性と二人きりなんて本気で苦手。緊張していてほとんど食事の味がわからなかったくらいだ。今度、保住を連れてこよう。絶対に彼と来てみたい。そんなことを内心思っていると、「あの」と優愛が声を上げた。

 ——そうだった。彼女と二人だったんだ。

 一気に妄想から引き戻されて、田口は優愛を見た。 

「すみません。騒がしい母で」

「いえ。こちらこそ。すみませんでした。お仕事も忙しいのに……押しかけてしまうなんて」 

「いや。おれが、きちんと話をしておかなかったせいです。母が勝手に暴走して、巻き込まれてしまったのでしょう?申し訳ありませんでした」

 彼女は田口の返答に、なんだか嬉しそうに表情を明るくする。

「やだな。田口さんって、優しくて、素敵男子っぽい」

「?」

「写真を見て思いました。誠実そうな人だなって」

 保住みたいなことを言う。なんだか恥ずかしい。頬を赤くした。

「そんなこと。面等向かって言われると照れます」

「ごめんなさい」

「いや。こちらこそ」

 ぎくしゃくしてしまう会話。優愛は思ったよりも大人しいタイプではないらしい。二人きりになると、笑顔を見せ、朗らかに話をしてくる。

 男だったら放っておかないだろうに。どうして見合いなんて。なんだか第三者的な視線で見てしまうのは、自分ははなから関係ないと思っているせいなのだろうか。彼女には失礼な話だが。はっきりお断りするのが礼儀だ。他愛もない話をしている中だが、田口は切り出した。

「あの」




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