田舎の犬と都会の猫ー振興係編ー

雪うさこ

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第20章 秘密裏プロジェクト

13 猫

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「今日は遅かったですね。保住さん、眠そうだ」

 田口の指摘に彼は微笑みを見せた。

「そうかも知れない。眠いな」

「早く寝ましょう。おれも疲れました」

「だな」

「お風呂先に」

「いや。片付けはおれがする。お前が先に入れ」

「しかし」

「夕飯ご馳走になったのだ。当然だ」

 躰を起こしても抱き合った姿勢のまま、田口は離れたくない気持ちでいっぱいだ。それに。一つ。お願いしたいことを思いついたのだ。

「田口?」

「あの、やっぱり:--」

「え?」

「一緒にお風呂、入りませんか?」

 恥ずかしそうに誘う田口につられて、保住は耳まで真っ赤になった。

「な、なにを……。そんなに恥ずかしそうに言われたのでは、おれも恥ずかしい!」

「ですが。だって……」

 きゅっと保住の手を握る。なんとなくの流れならまだしも、面と向かってこんな申し出をするのは、なんだか気恥ずかしかった。

「いや、その……」

「困りますか?」

「こ、困るに決まっているだろう? な、なんだ。それは……っ」

「変なことしませんから。保住さんの頭、洗ってあげたい」

「な、な……おれが、頭洗うのが下手だと言うのか?!」

「違いますけど」

 もうこれ以上もない程赤面してしまっている保住がたまらなく好き。ぎゅーっと抱きしめると、保住は大人しくなった。

「たまにはいいじゃないですか」

「い、嫌だ! 明るいのは、恥ずかしい……」

「嫌な理由はそこですか? じゃあ、真っ暗にして入りますから」

「馬鹿か? お前、馬鹿だろう!?」

「変なことはしません。ただ、気持ちいいことはしたい」

「だ、だからっ! それが変なことなんだ!!」

 保住の叫びは田口には届いていない。いや、彼が恥ずかしがるほど、それは魅惑的にしか映らない。
逆に誘われているみたいで、我を失うばかりだ。

 衝動的。

 保住に関しては、その一言に尽きる。こうなってしまうと田口を止める術はないと諦めてくれたのか。保住は顔を赤くして「では、片付けしてからだ」と言った。

「わかりました! おれ洗い物してきます。保住さんは着替えてきてくださいよ」

「……わかったよ」

 渋々と言う感じで、リビングを出ていく彼を見送ってから洗い物に取り掛かる。

 あんなとこして、こんなことして……と期待に胸膨らませているものの、ふと心が不安になった。

「いつまで、こうしていられるのだろうか?」

 保住は係長として四年目。異動は確定だ。来年の今頃は振興係に彼の姿はない。だけどきっと、自分はそこにいる。

 時間は限られているのだ。何事も始まりがあれば終わる。職場が離れたからといって、二人の関係までもが終わるわけではないのだが、やはり寂しい気持ちになるのは確かだった。蛇口を止めふと顔を上げる。

「あれ?」

 いつまでたっても保住が戻ってこない。嫌な予感がした。そばにあるタオルで手を拭きながら寝室を覗くと……。

「やっぱり」

 案の定、保住はベッドに横になってすっかり夢の中だ。大きくため息を吐くしかないが、ふと笑ってしまった。

「保住さんらしいですね」

 微かに震える睫毛。寝入り端と言うところか。ワイシャツのボタンも適当に外されているだけだし、着替えなんてする気がないだろう? と突っ込みたくなる。前髪にそっと触れてみるが、全く起きる気配はない。

 :--まるで野良猫みたい。

 ご飯だけ食べに帰ってきて、こちらが近付くと、さっと身を翻す。そのくせ、甘えたくなると爪を立ててくる。我がままで気まま。気位が高いわりに、小学生みたいに幼い。保住は自分を「犬みたい」と言うが、保住は「猫みたい」だった。

「好きですよ。保住さん」

 田口は、すっかり寝入っている保住の頬に唇を寄せた。それから、そっと耳たぶを噛む。

「んー……やめろ。眠いんだ」

「だって、約束したじゃないですか。お風呂、一緒に入るって」

「眠い、寝かせろ」

 ベッドの上でもぞもぞとしている仕草だけで、田口は堪らなくなった。

「ほ、保住さん……。すみません。やっぱり、我慢できそうにありません!」

 唐突な大きな声に、保住は驚いたのか。目を見開いて顔を上げた。しかしそんなものに構っている暇はない。田口は彼を抱え上げると、廊下に駆け出した。

「お、おい! おいおい! 田口!」

 下から慌てている声が聞こえても関係なしだ。保住をバスルームに下ろすと、そのまま唇を重ねた。

 それは我慢ができないほど熱いキスだった。








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