田舎の犬と都会の猫ー振興係編ー

雪うさこ

文字の大きさ
上 下
167 / 231
第20章 秘密裏プロジェクト

04 対峙

しおりを挟む




 資料を眺めてから吉岡はため息を吐いた。副市長室への呼び出しは茶飯事だが、いつもは現場担当者も同席が多い。「一人で来い」と言う指示に何事かと思えば……。

「副市長。結構な無理難題を押し付けてくれますね」

「できないのか?」

 財務部長の吉岡は人の良さそうな顔を曇らせた。

「できるとか、できないとかの問題ではありませんよ。昨年のオペラも結構な経費でしたのに。またですか」

「市長の了解は得ているのだ」

「それはわかりますが」

 副市長室の応接セットで二人は対峙していた。澤井は背もたれに体を預け、威圧的に吉岡を見ている。しかし彼は怯むことなく飄々とした表情で咳払いをした。

「打ち上げ花火的な事業は続きませんよ」

「そんなことは承知でやるのだ」

「澤井さん」

「吉岡。百年に一度のお祭りだぞ? 派手さがなくてどうする。どうせ、記憶など頼りにならないものだ。どんなに素晴らしいものでも、誰一人として記憶にとどまることはない。わかるか」

「それは」

「マスコミや市民が好むのは、新聞の一面を飾るような華々しいパフォーマンスなのだ。その時だけ夢に酔いしれればよい」

 澤井は笑った。

「お前に仕事を教え込んだ保住も、さぞガッカリだな。安全パイばかり選ぶ腰抜けになったな。吉岡」

「澤井さん。焚き付けても無駄ですよ」

「詰まらん男だ」

 吉岡は目を細めて澤井を見つめる。

「無茶な出費も困りますけど、もう一つ。個人的に。あなたが彼を可愛がるのが目に余りますね」

「そうか? お前は可愛がれるのに——か?」

「澤井派の中心であるあなたが。どう言う風の吹き回しなのでしょうか。裏があるのでしょうか。彼を翻弄して潰そうとでも?」

「そんな風に見ているのなら、それまでの男と言うことだな。吉岡」

「あなたの心の内は計り知れない。素直に受け取れないのですよ。あなたの好意は」

「そうか? お前が思う以上に、おれは素直なのだがな」

「では、戯れではなく本気と言うことですか?」

 澤井は愉快そうに吉岡を見返した。

「おれは息子あれを好いている。お前ならわかるだろう? おれの気持ちが。——あれの父親とを持っていたのだ」

 吉岡は動ずることなく、そのまま澤井を見つめていた。

「カマをかけて聞きだそうと?」

「いや。知っている。事実だと」

「根も葉もない」

「否定する気か」

「死者を冒涜するのですか? そこまで保住さんが憎いのですか?」

「吉岡」

 澤井はテーブルを叩いて吉岡を睨む。

「それはお前への台詞だ。あいつの気持ちを受け取ったのだろう? 無かったことにでもする気か。お前の気持ちはそんな浅はかなものか」

 澤井の根気に折れるのは吉岡のほうだ。彼は視線を伏せた。

「あなたには隠せないと言うわけですね——?」

「そうだ」

「あなたも保住さんがお好きでしたか」

「それを口にすることも憚られる立場にいたからな。無理だったが」

「だからと言って彼を擁護するなど」

「保住の代わりではないと言った。おれは息子あいつそのものを好いているだけだ」

「本気ですか?」

「少しの間だが、付き合わせたこともある」

「あなたって人は」

「だから。お前には言われたくないな」

 吉岡は黙り込んでしまった。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

PMに恋したら

秋葉なな
恋愛
高校生だった私を助けてくれた憧れの警察官に再会した。 「君みたいな子、一度会ったら忘れないのに思い出せないや」 そう言って強引に触れてくる彼は記憶の彼とは正反対。 「キスをしたら思い出すかもしれないよ」 こんなにも意地悪く囁くような人だとは思わなかった……。 人生迷子OL × PM(警察官) 「君の前ではヒーローでいたい。そうあり続けるよ」 本当のあなたはどんな男なのですか? ※実在の人物、事件、事故、公的機関とは一切関係ありません 表紙:Picrewの「JPメーカー」で作成しました。 https://picrew.me/share?cd=z4Dudtx6JJ

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...