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第19章 がんばれ! 新人くん!

04 好きは止められない

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 保住の作った夕飯を食べながら、田口は今日の十文字の話をした。鯖の焼き魚をくわえて、保住は笑う。

「お前の考え過ぎではないのか?」

「そうなのでしょうか?」

「みんな疲れているからな。少し変だ」

「そうですね。谷口さんも彼女出来たって言いますし」

「全くだ! 喜ばしい」

「そうですね」

 保住の手料理は美味しい。田口は料理がからきし下手だが、それ以外の家事は保住よりも秀でている。ちょうど役割分担が出来て具合がいい。

「それよりも、十文字は大丈夫だろうか?」

「おれに聞かないで、ご自分で確かめたらいいじゃないですか。心配なんでしょう?」

 ——素直じゃないんだから。

 田口は笑ってしまった。

「いや、だって。おれのことは鬼だと思っているようだ」

「保住さんも、そんなしおらしくすることあるんですか? いつも、ずんがり行くタイプなのに」

「おれだって、そういう時はあるのだ」

 保住は顔を赤くする。くるくると変わる表情は田口には刺激的。

「そうなんですか」

 ——保住さんが好き。

 そんな気持ちで溢れてしまうのだ。

「また! そうやって馬鹿にして」

「馬鹿になんてしていませんよ」

「そうだろうか?!」

 保住は箸を振り回して抗議をした。

「記念館に最初に行った時もバカにして見ていただろう?」

「そんな昔のこと、よく覚えていますね」

 確かに。初めて星野一郎記念館に連れて行かれた時、ふと見た彼の笑顔に釘付けになってしまったのだ。

 最初の頃は、保住のやり方や態度、仕草に戸惑って苦手だと思っていたのに、驚いてしまったのだ。その時のことを言っているのだろうか。

「あれは傷ついたからな!」

 ——子供か。ムキになって。根に持つタイプかな?

 そんなことを思いつつ、目の前の彼を見ると、つい、心の声が洩れ出てしまう。

「可愛い……」

「え?!」

「やめてくださいよ。保住さん」

「え? な、なんだ? おれが怒っていると言うのに」

 田口は箸を置くと、そっと体を伸ばして保住をぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「こら! 今はそういう話ではないぞ」

「いいえ。そういう話なんです」

「なにを?」

「記念館で見ていたのは、あなたの笑顔に心奪われたからです」

「なっ!」

 保住はこれでもかと顔を真っ赤にした。

「今笑ったのも、あなたが可愛いからです」

「お前!!」

 田口は、抗議の声を上げた保住に口付けをした。

「は——」

 同じものを食べているからか。保住は同じ味がした。冷たい唇を舐め上げ、それから口内も味わう。

「んんっ! ダメだ!」

 バチンッと顔面を平手で叩かれて、田口は渋々と唇を離した。

「飯が先だ!」

「そうでした。つい。すみません」

 口元を拭い田口はしゅんとした。

「お前といると調子が狂う」

「では一緒に住むのはやめますか?」

「やめない!」

 ——素直じゃないんだから。

 恥ずかしげに視線を伏せる仕草を目にするだけで、田口の胸は高鳴った。

 ——保住さんが好き。大好き。

 好きが止められない。保住を前にして、田口の恋慕の念は止まらないのだ。


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