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第18章 飼い犬に手を噛まれる

09 おれ、同棲します!

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「本当にすみませんでした! すみませんでした! 調子に乗りました!!」

 田口は平謝りだ。ベッドの上で動けなくなっている保住は手だけを上げる。

「お前のせいではない。おれが悪い」

 翌朝。案の定、保住は起きられなかった。腰痛が悪化したのだ。足の指先まで痺れていて思うようにならない。

「どうしましょう」

「痛み止めでも使えば、なんとかなるだろう」

「なるのでしょうか?」

「するしかあるまい」

「今、座薬入れます」

 保住は顔を上げる。

「自分でやる! 放っておいてくれ」

「いけません!」

「田口のバカ」

「バカでもなんでも結構です!」

 彼は保住のカバンを漁り、座薬を見つけるとバタバタとキッチンに走っていった。田口のせいではないのだ。自分も同じだ。彼と体の関係がないせいか、色々と不安を覚えていたのは事実だ。だからこそ、悪い気持ちにはなっていない。

 ——ただ問題はこれだ。

 圧迫骨折のおかげで、毎回、こんな調子では目も当てられない。しかも戻ってきた田口は、とてつもない爆弾発言をした。

「あの、保住さん。おれ、昨日一日中考えていたんですけど、決めました」

「なんだ?」

「ここのマンションを処分して、保住さんと一緒に暮らします!」

「は、え?!」

 びっくりして躰を起こすと、腰が変な音を立てた。

「ッッ……ッ」

 声にならない痛みとは、このことだ。

「すぐ引っ越していいですか? 荷物は最小限にしますから」

「お前の荷物が家に入ると思うか?」

「なら、保住さんが越してきてくださいよ。荷物少ないし」

「そう言う問題か?」

「なにがいけないのでしょうか? 一緒に暮らしたほうが、おれもあなたをしやすい」

「管理って」

「面倒じゃないですか。今晩はどちらの家に行くとか決めるの」

 決めたらテコでも動かない田口に、さすがの保住も歯が立たない。本当は、一番敵わないのが田口なのかも知れない。

 ——仕事では言いくるめられるのに。なぜだ!

「やっぱりおれが引っ越します。業者、大至急、探します」

「お前」

「実は、昨日思い立ったので、保住さんのアパートの管理会社に問い合わせたら、駐車場もう一台大丈夫だそうです」

「いつのまに」

「このマンションは賃貸に出すことにしました。家電とかそのままでいいようなので、荷物だけ持っていきますね」

 引っ越し前提の話だから、なにを言っても無駄か。

「毎晩、保住さんのあんな顔や、こんな顔見たいし」

「ふざけるな! 毎晩なんて、たまったものではない」

「体力なさすぎなんですよ。鍛えないと」

「田口、おれと一緒に住んでもおれの生活には口を出すなよ? ——いいか?」

 寝たきりで、情けないかっこうで言い放っても説得力が足りないらしい。言われた田口は全く怯むことなく、むしろパッと表情を明るくした。

「では一緒に住むことには了解してもらえるってことですね?」

「しまった! そう言う意味では……」

 田口は腕を伸ばしてきたかと思うと、保住の腰を引き寄せた。素肌に触れる彼の腕は逞しい。明るくなると、なんだか気恥ずかしいものだ。

「嬉しいです。保住さん」

「……突然過ぎるから抗議しているだけだ」

「わかっています。おれのこと受け入れてくれるんですもんね」

「とうの昔から、お前だけは受け入れられるようだ」

「それは嬉しい」

「その代わり、八つ当たりも我がままも許せ」

「もちろんです。おれだけにどうぞ」

 田口はそっと口付けを落とす。

 ——やっと前に進めた。

 そんな嬉しさが、にじみ出ている笑顔だった。



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