田舎の犬と都会の猫ー振興係編ー

雪うさこ

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第16章 最恐メンバー最後の仕事

11 宴の後

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 先程までの賑やかさはどこに消えたのだろうかと思うくらい、辺りは静寂。土曜日の深夜、時間は一時を回る。田口は疲れた目頭を押さえながらハンドルを握っていた。

 地方の都市だ。この時間になると車の往来は減り、小さい道路の信号は点滅に変わる。停止する度に、振動を抑えようと丁寧に運転をしているつもりだが、道路の状況が悪ければ避けられないものもある。ルームミラーで後部座席を確認すると、腰を押さえながら少しうつ伏せ気味に保住が横になっていた。

「すみません、運転が下手です」

「いや……そう言う問題ではないから気にするな。むしろ、疲れているのにすまない。運転させて」

 保住の声はかすれていて弱弱しい。腰の痛みがひどいのだろう。今日は、ほぼ一日立ち通しだ。

 ——本当に無茶ばかりなんだ。

 復帰して一週間しかたっていないのに。こんな夜中まで立ち通し。いくらコルセットをしていても、痛みが半端ないようだ。

 ——明日は無理なのではないだろうか。

 田口の胸には、そんな心配がよぎる。会場を撤収して、一人では帰れない彼を抱えて自分の車に乗せた。本当なら、我が家に連れて行きたいところが、こう疲弊している様子では、無理はさせられない。自分の家がいいだろうと判断し、彼をアパートに送るところだった。

「歩けますか」

「そのくらいは……」

 到着して扉を開けるが、言葉とは裏腹に保住は動かない。いや、動けないのだろう。

「手伝いますよ」

「い、いい!」

 たまに保住は子供みたいにムキになる。目元を赤くして、彼は起こっているので、田口は待ってみることにするが、彼が起き上がる気配は一向にない。

「やはり、お手伝いいたします」

「悔しいっ!」

 田口の手を借り渋々と起き上がった。

「強がりですね」

「うるさい!おれにだってプライドはある」

 むうむうと怒っているのは、疲れての八つ当たりだ。田口にしか見せない姿。
彼はそう自負している。保住の腰に腕を回し支える。

「階段、これで登りましょう」

 悔しいけど、もう自力では歩けないのだろう。顔を真っ赤にして不機嫌そうなくせに、田口にしがみついてくる様は微笑ましい。

「全くもって思うようにならん」

「仕方ありません」

「くそっ」

 室内に入りベッドに彼を下ろす。

「ともかく横になりましょう」

「明日も早いのに」

「明日は本番前に顔を出せばいいのではないですか?」

「そんな事はしたくない」

「無茶言わないでくださいよ」

 わがままな小学生か。黙らせるしかあるまい。コルセットを外し腰に手を当てる。直に触れられて驚いたのか、保住は姿勢を緊張させた瞬間、屈み込んだ。田口の手に驚いて体が強張り、痛みが増悪したようだ。痛みに声も出ない。

「……っ、お前なあ……っ」

「もうお休み下さい。座薬入れて差し上げましょうか」

「田口、楽しんでるだろう?!」

「楽しいですね」

「いつか仕返してやるからな!」

 こんな調子では、休む気持ちにもならないだろう。興奮している保住を落ち着かせようと、田口は無言で保住の首に手を添え思いっきりキスをした。

「——っ」

 彼の腰に手を回してそっと躰を倒す。

「んんっ」
 
  バンバンと肩を叩かれても気にしない。

 ——保住の味は甘い。

 腰に手をあてがっているので痛みは少ないと思われるが、保住は田口を引き剥がそうとシャツを握った。

「んんんっ!!」

 唇が離れる。

「田口……っ!」

「いけませんか?」

「いけないって……」

「終わったら、いくらでもしていいと言われました」

「まだ終わっていないだろ?」

「そうですか?」

 保住の頬に鼻先をつける。

「やめろ、今日は汗臭い」

「保住さんって、お日様の匂いがします」

ほこり匂いって言うのか」

「あ、そうか。お日様の匂いってほこりの匂いなんですね」

 田口は笑う。失礼な表現だと、言った自分も思うが、あまり嫌な気持ちになっていないのか、保住は文句を言うことはないが、疲れているのだろう。大して言い返すつもりもないようで、「疲れた」とだけ言った。

「でしょうね。お休みください」

「明日は早く起こせ。おれも行く」

「わかりました。ちゃんと起こしますから。寝てください」

 そう言って、田口が視線を下ろすと。保住は眠っていた。

「もう、——ですか?」

 田口は笑う。かなり疲れていたのだろう。田口の腕に支えられて、安心しきったように眠る彼。

 付き合い始めて数ヶ月。まだまだ前に進めてない関係性だが、こうしてそばに彼を感じられるだけで満たされる。風呂に入ろうかとか。色々考えていたが、それは明日の朝でもいいだろう。田口も、そっと彼の頭に額をくっつけて目を閉じる。 疲れた。暖かい。そんな思いを抱きながら——。


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