田舎の犬と都会の猫ー振興係編ー

雪うさこ

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第9章 代替えとしての役割

09 身代わり

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「お前、最低だな!」

 左頬に残る佐々木のキスマークを指差されて笑われても……と、田口はうなだれた。

「最後の大友さん見送り完了!」

 渡辺は手を鳴らした。終了ということだ。一同は顔を見合わせてほっとした顔をした。

「大友さん、なんだか飲み過ぎかな? 顔色悪かったみたいだけど」

「まあ、係長に手を出されなくて済んで良かった」

 谷口も胸を撫で下ろしたようで、ほっとした顔をしていた。べったり張り付いている口紅を落としながら田口は、周囲を見渡す。

「あの、係長は?」

 田口が問いかけると、忘れ物の最終確認を終えた矢部がやってきてその質問に答えた。

「来る時も一緒だったから、おれが送っていくって澤井局長が。終わったらおれたちも早々に引き上げろって言われてるけど」

「そうだな。おれたちも帰ろう」

 時計の針は十時前だった。

 ——無事に終わったというのに、この妙な胸騒ぎはなんだ?

 田口は不安な様子で三人に尋ねる。

「あの、係長は大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫だよ。おれたちの中で一番元気だもん」

「それに、局長がついていれば間違いないよ。あ~、疲れたー」

 ——自分だけが心配なのだろうか? みんなは気にならないのか。

 途中から姿が見えない保住が心配で仕方がないのに。守るどころか結局は、自分のことで手一杯だったなんて、本当に情けない限りだ。

 ——本当に大丈夫なのだろうか。

 みんな疲労で思考が回らないらしい。気持ちが「帰りたい」に向いているのだ。「澤井なら大丈夫」ではないのだ。大友は要注意なのかも知れないけど、田口が本当に警戒しているのは、澤井だ。

 田口には、なんとなくわかる。自分が保住を好きだからなのか。澤井の保住への接し方は、上司部下の関係性を逸脱していると思うのだ。ただのお気に入りとか、そういうレベルでもない。だから不安なのに——。

 きっと、この不安は、ほかの三人には理解できないだろう。保住を好いている田口だからこそ、自覚する不安だからだ。

 思わず、保住から連絡が入っていないかと携帯を確認するが、勿論なんの連絡も入ってはいない。

「帰ろう、帰ろう」

 渡辺の声に携帯からこっそり保住にかけてみるが、相変わらずコールは鳴りっぱなし。留守電にならない設定なのは承知のことだが……。やはり不安で不安でたまらなかった。

 しかし、いつまでもその場に立ち尽くしていても仕方がないことだ。荷物を抱えて駐車場に向かう三人に促されて、後ろ髪を引かれる思いで田口は歩き出した。



***


 お互いの吐息だけが耳をついた。薄暗いままの廊下の壁に躰を押し付けられて熱いキスを受ける。大友にけしかけられた欲情の炎が再燃するには容易いことだった。

 澤井に送られて帰宅した保住の自宅。澤井は無遠慮に上がり込むや否や——保住を押し付けると我慢しきれない様子で唇を重ねてきた。

「あ、ん——はぁ、はっ」

 息継ぎの合間に漏れ出る声は甘い。肉厚の舌は、保住の口の中いっぱいになった。

 ——大友とのキスとは違う。

 荒々しい所業なはずなのに、保住の腰に回った手は、優しく摩ってくるのだった。逞しい指先は火傷しそうなほどに熱い。
 口角からこぼれ落ちる唾液は、どちらとも付かないものだが、そんなことはお構いなしだった。

 保住は澤井の頬を指先で撫でる。澤井はその手を握りしめてから、自分の下腹部に持っていった。そこは熱く拍動し、大きく堅くなっていた。

「澤井さん——」

「澤井だ。保住」

 彼は自分を父に見立てているのだろう。そう理解した保住は「澤井」と耳元で囁く。名を呼ぶだけで彼が興奮しているのが手にとるようにわかった。握らせられているものが大きく拍動したからだ。

「手で扱け」

「でも——」

 躊躇している保住の手を覆い隠すように澤井が握った。それから、上下に動かす。澤井の皮膚の感触が、先走りの液でヌルヌルとした感触に変わる。彼の瞳を見上げると、先ほどの大友と同じ目の色をしていた。

 ——澤井さんは、おれとセックスしたいというのか?

 新人時代からパワハラまがいのことをされてきた。大嫌い。だがどこかでは目指すべきものとして認識していた上司である彼とセックスするだなんて。思っても見ない展開なはずなのに、心は踏みとどまらない。

 ここまで来てしまうと、もう後戻りはできないのだ。

「あ……」

 思わず声が漏れてしまう様子に、澤井は余裕のない笑みを浮かべた。

「おれが快楽を得ている様を見るだけで、お前も感じるか? 男なら当然だろうに」

 澤井は保住のベルトに手をかけた。

「澤井、さんっ!」

「遠慮するな。何度でもいかせてやる。歳は重ねているが、まだまだタフさは衰えていないぞ。朝まで付き合え。保住」

 ——やめろ。一緒に、だなんて……っ!

 強引にベルトを引き抜き、露わになった保住のものと自分のを合わせて、一緒に手のひらで撫で回す。

「あ、あっ……だ、ダメです。澤井……——っ」

「気持ちがいいのだろう? 保住——。大友が夢中になるわけだ。お前。いつもと違ってしおらしくていい。そそられるな」

「や、……ああ……っ」

 立っていることもままならない。膝がガクガクと震えて、腰に力が入らないのだ。思わず澤井にしがみついた。彼は満足そうに保住を抱きとめると、壁伝いに床に座らせる。その間も手は緩急をつけて保住を、澤井を刺激した。

 疲労と、久しい感触に、あっという間に高みにまで持って行かれた。
 澤井の手の中に吐き出した白濁の液。彼はそれを眺めて意地悪な笑みを浮かべた。

「女遊びしているくせに造作もないな」







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