田舎の犬と都会の猫ー振興係編ー

雪うさこ

文字の大きさ
上 下
60 / 231
第6章 二年目はじめりました。

03 変わった理由

しおりを挟む




 頭が痛む。

 人に嫌なことをぐずぐず言われるのには慣れているつもりだが、自分の自己管理が出来ていない部分を指摘されるのは面白くないのだ。

 わかってはいるのに興味がないせいか、いつもそうなってから後悔する。学習能力がないと言うか、なんと言うのか。

 仕事のことだと、気を回して熱心に取り組む自分だが、人との関係はいい加減だ。
 昔からそう。家族との付き合いも当たり障りないものだし。友人との関係もそうだ。その場限りが多い。

 頭もいい、顔もいい。
 人柄だってそんなに悪くはない。
 昔から黙っていても、自分を利用しようとする人間が必ず寄ってきていた。
 だが、そういう人たちに対して、心を開くことができないせいか、その場限りの付き合いばかりだった。

 小学校の友達は、中学校に進学すれば離れていく。
 中学校の友達も然りで、高校生になったら離れた。
 高校の友達も大学進学と同時にさようならだ。
 大学時代の友人、いや、知り合い程度か。そういう人たちは、たまに年賀状のやり取りをすることもあるが、それだって面倒で途切れている。一方的に送ってくれる人がいるくらいの話だ。

 友人関係もそんな感じだから、女性関係なんてもっと酷い有様だった。一晩限りの女性は何人もいる。保住の学齢とルックスに引かれて寄って来る女性たちも、無頓着でズケズケとした物言いに、すっかり愛想を尽かして「さようなら」になることが多い。
 大して好きでもないのかも知れない。

 去る者は追わず。
 来るものは拒まず。
 そんな程度の人づきあいをしてきた。

 市役所に入ってからも、酔って一晩限りの関係を持った女性が数人いる。記憶にない。だから嫌われる。

 しかし、すぐに次の女性が寄って来る。それの繰り返し——。

 澤井は、そのことを言っているのだろう。自分でなんとかしたいのに。

 ——グダグダ。

 自己管理が出来ていない部分だ。それは、仕方のないことだと思って諦めていた。直す気もない。しかしここ一年は、そう言う事が無かった気がするのだ。——そう、保住にとったらその程度の話。
 いつ、誰と、どこで。
 そんなことを覚えている程のことでも無いくらいの出来事。だから、うろ覚えだけど、どうでもいい女性と関係を持ったのは、ここ最近はない。

 ——おかしいものだ。

 なにが彼を変えたのか?

 ——わからない。
 
 自分で自分のことが一番よくわからない。ただ、プライベートのことを澤井に踏み込まれるのは嫌だった。
 文化課の扉に手をかけて、ふと保住は思う。

「ああ、そうか」

 ——変わったのは、田口と出会った事?

 田口と過ごす時間が増えて、そういうどうでもいい事って減った気がするのだ。なんだか笑ってしまった。

 ——こんな事ってあるのだろうか。

 保住は扉を開いた。

「係長、大丈夫ですか」

「お帰りなさい」

 みんなが笑顔で迎えてくれる中、田口だけが心配そうな顔をしていた。

 ——そうか。田口は自分のことを心配してくれているのだ。

「年下の部下に心配されたら終わりだな」と思いつつも、嫌な気持ちにならないのはどうしてなのだろう。

 田口だけがここの中で、保住と澤井のことを少し理解してくれているかも知れない。そう思っただけで、心が嬉しいのはなぜなのだろうか。保住は席に座って部下たちを見渡した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

令息だった男娼は、かつての使用人にその身を買われる

すいかちゃん
BL
裕福な家庭で育った近衛育也は、父親が失踪した為に男娼として働く事になる。人形のように男に抱かれる日々を送る育也。そんな時、かつて使用人だった二階堂秋臣が現れ、破格の金額で育也を買うと言いだす。 かつての使用人であり、初恋の人でもあった秋臣を拒絶する育也。立場を利用して、その身体を好きにする秋臣。 2人はすれ違った心のまま、ただ身体を重ねる。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...