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第6章 二年目はじめりました。
03 変わった理由
しおりを挟む頭が痛む。
人に嫌なことをぐずぐず言われるのには慣れているつもりだが、自分の自己管理が出来ていない部分を指摘されるのは面白くないのだ。
わかってはいるのに興味がないせいか、いつもそうなってから後悔する。学習能力がないと言うか、なんと言うのか。
仕事のことだと、気を回して熱心に取り組む自分だが、人との関係はいい加減だ。
昔からそう。家族との付き合いも当たり障りないものだし。友人との関係もそうだ。その場限りが多い。
頭もいい、顔もいい。
人柄だってそんなに悪くはない。
昔から黙っていても、自分を利用しようとする人間が必ず寄ってきていた。
だが、そういう人たちに対して、心を開くことができないせいか、その場限りの付き合いばかりだった。
小学校の友達は、中学校に進学すれば離れていく。
中学校の友達も然りで、高校生になったら離れた。
高校の友達も大学進学と同時にさようならだ。
大学時代の友人、いや、知り合い程度か。そういう人たちは、たまに年賀状のやり取りをすることもあるが、それだって面倒で途切れている。一方的に送ってくれる人がいるくらいの話だ。
友人関係もそんな感じだから、女性関係なんてもっと酷い有様だった。一晩限りの女性は何人もいる。保住の学齢とルックスに引かれて寄って来る女性たちも、無頓着でズケズケとした物言いに、すっかり愛想を尽かして「さようなら」になることが多い。
大して好きでもないのかも知れない。
去る者は追わず。
来るものは拒まず。
そんな程度の人づきあいをしてきた。
市役所に入ってからも、酔って一晩限りの関係を持った女性が数人いる。記憶にない。だから嫌われる。
しかし、すぐに次の女性が寄って来る。それの繰り返し——。
澤井は、そのことを言っているのだろう。自分でなんとかしたいのに。
——グダグダ。
自己管理が出来ていない部分だ。それは、仕方のないことだと思って諦めていた。直す気もない。しかしここ一年は、そう言う事が無かった気がするのだ。——そう、保住にとったらその程度の話。
いつ、誰と、どこで。
そんなことを覚えている程のことでも無いくらいの出来事。だから、うろ覚えだけど、どうでもいい女性と関係を持ったのは、ここ最近はない。
——おかしいものだ。
なにが彼を変えたのか?
——わからない。
自分で自分のことが一番よくわからない。ただ、プライベートのことを澤井に踏み込まれるのは嫌だった。
文化課の扉に手をかけて、ふと保住は思う。
「ああ、そうか」
——変わったのは、田口と出会った事?
田口と過ごす時間が増えて、そういうどうでもいい事って減った気がするのだ。なんだか笑ってしまった。
——こんな事ってあるのだろうか。
保住は扉を開いた。
「係長、大丈夫ですか」
「お帰りなさい」
みんなが笑顔で迎えてくれる中、田口だけが心配そうな顔をしていた。
——そうか。田口は自分のことを心配してくれているのだ。
「年下の部下に心配されたら終わりだな」と思いつつも、嫌な気持ちにならないのはどうしてなのだろう。
田口だけがここの中で、保住と澤井のことを少し理解してくれているかも知れない。そう思っただけで、心が嬉しいのはなぜなのだろうか。保住は席に座って部下たちを見渡した。
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