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第3章 蒸し風呂事件
07 クズが
しおりを挟むあれから、一週間がたった。結局、一度断られた面会にはタイミングがよくわからず、行けず仕舞いだった。
「アイタタタ……」
渡辺はお腹を抑えながら、書類を抱えて帰ってくる。
「大丈夫ですか? 渡辺さん」
谷口が心配そうに声をかけた。
「キツイ……胃がやられてきた。おれには無理だ……局長の面倒をみるのは」
「おれでも無理ですよ」
矢部も「同感」と頷いた。
「一生、平がいい!」
渡辺はそう叫んだ。正直、彼の本音だろう。
「早く帰ってきて、係長!」
みんな泣きそうだった。この一週間で振興係は疲弊している。係長代理の渡辺は胃を壊し、矢部はストレスで不眠らしい。谷口も食欲がなく、ますます痩せている。
田口も然りだ。眠れないし、仕事への集中力もない。ここにくる前の自分に戻ってしまったようだ。彼一人抜けただけでこの様か。保住の影響力は、計り知れない。
明後日の金曜日に夏休み休暇をもらって、週末と合わせて二泊三日で実家に帰るつもりだったが。とてもそんな気分にもなれなかった。こんな調子では、効率も悪い。
保住が戻ってきても、がっかりさせるだけだし、仕事がたくさん残っていて負担をかけさせるだけだ。田口は大きく頷いてみんなを見渡した。
「もう少しですよ。頑張りましょうよ。このままでは、係長が戻っても大変になるだけですよ」
「田口」
「一週間たって、へこたれてきているのはおれも同じです。全く使い物にならなくてすみません。こんなおれが偉そうに言えることではありませんが」
「わかっているけど……」
先の見えないトンネルみたいで、頑張れないのだ。
「おれ、局長に聞いてきます」
「え?!」
「係長の容態とか、退院の目処がどうなっているのかとか」
「嘘だろ?」
「行ってきます」
保住の容体は佐久間でも把握していない。なら澤井に聞くしかない。ほかに術がないからだ。
「田口!」
「やめておけ!」
「減給だぞ」
止めるみんなを振り切って、田口は事務所を出ると澤井の部屋をノックした。
「誰だ」
「田口です。お話があります」
——門前払いか?
そう思ったが、澤井はあっさりと通してくれた。
「入れ」
「ありがとうございます」
中に入ると、いつもと打って変わって、彼の机の上には書類が山積みだった。珍しいことだった。いつもはもっと整然とされている局長室なのに。
「くそっ、意味がわからんな。こんな書類作りやがって、クズがっ」
彼は文句を吐くと、田口を手招きする。
「おい、お前。この企画書を説明しろ」
「え?! は、はい」
駆け寄る。澤井が「クズ」呼ばわりしている企画書は、矢部が書いて、渡辺が提出したものだった。内容を聞いていてよかった。田口の説明に、澤井はじっと目を閉じて黙っていたが、ふと声を上げた。
「なんだ、そんな話か。じゃあそう書けよ! 馬鹿者。返却。書き直し」
「すみません」
「お前のではないのだろう。自分のことではないところで謝罪するのは、なんの意味もない無駄なことだ。やめろ」
「はい……」
澤井は頭をかいた。
「通訳がおらんと、こうも仕事が滞るものか……」
「通訳……」
田口が呟くと、澤井はそこで初めて田口を見る。
「で、なんだ。お前」
「振興係の田口です」
「そんなものは、わかっている。なんの用だ」
「仕事とは関係ないのかもしれないですが……」
「グズグズ言うのは嫌いだ。要点を言え」
澤井は真っ直ぐに田口を見た。
「係長の容態が知りたいのです。局長ならご承知なのではないかと」
——そんなこと教えてくれないんじゃないか?
しかし澤井はあっさりと答えてくれる。
「明日退院だ」
「本当ですか?」
「嘘を言っても仕方あるまい。今回はやっと戻ってきた感じだな。一週間は自宅療養を言いつけたが、多分、来週から出てきてしまうだろうな」
保住らしい。
「今回ばかりは、ダメージが大きい。復帰してもお前がきちんと管理してやれ」
「おれですか?」
「他のやつよりは使えそうだ。体型からしてスポーツをしてきたのか。自分の体の管理の術くらい心得ているだろう?」
「剣道をやってきましたので、多少は……」
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