田舎の犬と都会の猫ー振興係編ー

雪うさこ

文字の大きさ
上 下
38 / 231
第3章 蒸し風呂事件

04 入院

しおりを挟む



「まずったなー」

 渡辺は苦い顔だ。突然のことに田口は動揺していた。保住のこともそうだが、澤井の手際の良さ。まったくもって自分は役立たずで用なしだった。

「一体……」

「係長って何事にも無頓着だろう?」

「ええ」

「それが体調管理も然りなんだよ」

 谷口が口を挟む。

「人より寒い、暑いの閾値いきちが高いらしい」

 閾値が高いと言うことは、人より「暑い」「寒い」を感じる能力が鈍いということか。人より感じにくいということは、気がついた時には手遅れ……。

「夏はすぐに熱中症だし、冬は凍傷になる」

「まさか……」

「そのまさかじゃん! 今日の一件」

 ——確かに。

 あの保住なら頷ける。

「おれたちも暑さにやられてたからな。係長の面倒まで手が回らなかった……」

「一生の不覚」

 谷口はため息だ。

「去年も軽く熱中症になったけど、ここまではね……」

「しかし、局長のあの手際のよさは……」

 田口の言葉に渡辺は苦笑する。

「あの人、スポーツだかなんだかやっているみたいで、体調悪くなった人の対処が上手いんだよ。それに、近所の熊谷医院の医者と旧友みたいで、なにかあるとそこに行くみたいだ」

「そうなんですね」

「去年も結局、体調悪くなった係長を病院に連れて行くのはあの人の役目。こんなことは日常茶飯事みたいで、澤井局長に任せれば元気になって帰ってくる」

 ——

 そうなのだ。澤井、澤井、澤井。保住の周りには彼の話題がいっぱい。田口は面白くない。自分が対応できたかと言ったら無理だと思う。だけど、なにもできないわけではないじゃないか。保住の容体はどうなっているのだろうか。

 熱中症で意識が朦朧としているのは、軽度とは言わない。田口だはスポーツをしていた。熱中症のことはよくわかっているから、とても心配で仕方がなかった。


***


 その日の夕方。佐久間がやってきた。

「局長からで」

 一同は緊張する。

「しばらく入院だそうだ。早ければ一週間くらいだが、まだ見通しが立たないらしい。今回は重症だ」

 谷口と矢部は、顔を見合わせて不安そうな顔をした。

「しばらくは、おれが直接サポートする。また、日常のものは係長代理の渡辺さんにお願いする」

 返答のないみんなの気持ちを察したのか。佐久間は、気を取り直したように手を叩いた。

保住ほうちゃんが帰ってきた時に、何も進んでないのでは迷惑がかかるぞ! 心配なら働け」

 彼の言葉に、渡辺は気を取り直したかのように笑顔を見せた。

「係長がいなくても、大丈夫だと安心させよう!」

「渡辺さん」

 渡辺は、みんなを順番に見渡す。

「な、谷口」

「はい!」

「矢部」

「もちろんです」

「田口」

「はい」

 不安はある。だけどこんな時こそ団結しなければ。田口はそう心に言い聞かせた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

PMに恋したら

秋葉なな
恋愛
高校生だった私を助けてくれた憧れの警察官に再会した。 「君みたいな子、一度会ったら忘れないのに思い出せないや」 そう言って強引に触れてくる彼は記憶の彼とは正反対。 「キスをしたら思い出すかもしれないよ」 こんなにも意地悪く囁くような人だとは思わなかった……。 人生迷子OL × PM(警察官) 「君の前ではヒーローでいたい。そうあり続けるよ」 本当のあなたはどんな男なのですか? ※実在の人物、事件、事故、公的機関とは一切関係ありません 表紙:Picrewの「JPメーカー」で作成しました。 https://picrew.me/share?cd=z4Dudtx6JJ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

わからないから、教えて ―恋知らずの天才魔術師は秀才教師に執着中

月灯
BL
【本編完結済・番外編更新中】魔術学院の真面目な新米教師・アーサーには秘密がある。かつての同級生、いまは天才魔術師として名を馳せるジルベルトに抱かれていることだ。 ……なぜジルベルトは僕なんかを相手に? 疑問は募るが、ジルベルトに想いを寄せるアーサーは、いまの関係を失いたくないあまり踏み込めずにいた。 しかしこの頃、ジルベルトの様子がどうもおかしいようで……。 気持ちに無自覚な執着攻め×真面目片想い受け イラストはキューさん(@kyu_manase3)に描いていただきました!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...