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第2章 仕事の仕方

22 曝け出せ

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「なあ、田口?」

 ぼんやりと保住に見入っていると、自分の名前が耳に飛び込んできて、はっとした。

「すみません、なんでしょうか?」

「お前、聞いてないな?」

 渡辺は目を細めて田口を睨んでいる。

「すみませんでした」

「渡辺さん。田口も結構頑張ったし。疲れているんじゃないっすか」

 矢部が間に入ってフォローしてくれた。

「すみません」

「あ~あ。お前も、もっと自分を曝け出さないとダメだぞ!」

 今度は田口に絡む気らしい。渡辺は目が据わっていた。酔うとタチが悪いようだ。

「しかし」

「いいか。ここでは、素の自分を曝け出してなんぼだ。それができなくちゃ、まだまだ仲間とは言い切れないな」

「素の自分、ですか?」

「そうそう。素の自分」

 谷口も興味津々。

「田口の生い立ちから、なにからすべて聞かせろ」

 ——そんな……。

 田口は心底困った顔をした。

「お、表情に出たぞ。困った顔」

「まじか。いつも同じ顔でなにを考えているか、わからないくせに」

「そういう顔もするのか」

 三人にいじられるのは不本意だ。自分を守ることで精いっぱい。保住のことなんか気にしている場合ではなくなったのだ。



 三人との攻防を繰り広げているうちに、時間はあっという間にに過ぎて、十一時を回ったところで渡辺がお開きの声を上げた。

「そろそろ帰らないと。怒られる」

「本当だ。明日は金曜日。まだ仕事あるし。係長、帰りましょうか……」

 谷口が声をかけると、彼は机に突っ伏して寝入ってしまっていた。

「なんだか静かだと思ったら」

「寝ちゃったのか~……」

 隣にいた渡辺は苦笑して、保住の頬をつつく。

「可愛い顔しちゃって」

「本当、本当」

 谷口や矢部も苦笑だ。昨日も澤井に付き合っていたようだし、疲れもたまっているに違いない。田口は気の毒そうに保住を見下ろした。

「係長は、若いのに係長で。なのに。みんなに愛されてますね」

 田口がそう呟くと、急に矢部は田口のほっぺを両手でつねった。

「イタタタ」

「やっとわかったか。このどんくさい奴め」

「やべしゃん……」

 つねられたままでは、うまく話せない。しかし矢部はニヤニヤしている。

「おれたちはな。この年下上司にぞっこんな訳」

 彼がそう言うと、渡辺と谷口も苦笑して頷いた。 

「こんな細い身体で、柔なタイプなのにさ。局長との間に立ってくれているし」

「結構、好き勝手させてくれて」

「おれたち、守られて仕事しているんだよね。こんなやりやすい部署ないくらいだ」

 ——確かに。
 
 それは自分もそう思う。しかし——。

「別に。年下だからバカにしたりなんかしない。お前はさ。最初バカにしていただろう?」

「まあ、当然の反応だがな」

「それに、だらしない上司だって好きじゃないだろう?」

 矢部はよく見ている。そして他の二人もだ。だが自分にも言い分はある。言われっぱなしでは癪に触った。
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