田舎の犬と都会の猫ー振興係編ー

雪うさこ

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第2章 仕事の仕方

15 本当は、結構好き

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「すまない。こんなプライベートな話。バカみたいだ。まさか、ここでするとは思わなかった。おれらしくもないな」

「そんなことはないです。ただ、おれでよかったのかどうか」

 どうしてなのだろうか。田口に出会って一か月少しの人間に、こんな話をするとは思いも寄らなかった。いや、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
 保住には、そう話ができるほど親しい友人もいないのだ。

 昨日から、イライラしていて収まらない気持ちが和らぐのは、気のせいではない。気の利いた事を言う男ではないが。一緒に困った顔してくれる田口は、いい奴だということはよくわかる。

 ——お人よしなのだろうな。

 こんな突拍子もない話を聞いても一緒に悩んでくれるのだ。保住は笑む。

「すまない。ありがとう。田口」


***


 謝辞を述べられて、正直、どうしたらいいのか戸惑った。昨日のもやもやとした気持ちは、すっかりと晴れているのに、なぜか保住の笑顔は、田口には堪えた。
 だらしのない格好の、生気のない顔付きの彼が、時折見せる笑顔は、ぱっと周囲を明るくする。いや、田口自身の心を彩るのだ。

 ——なぜだろう。目が離せないのは。嫌いだからなのに……いや、本当は嫌いじゃない? ……それはきっと。

 ——きっと、好き。

 彼から目が離せないのは、すごく興味があるからだ。だから保住から視線が外せないのだ。

「いえ。おれこそ。ありがとうございます」

 田口がそう言ったとき。扉が開いて矢部が顔を出した。

「あれ~? 今日は珍しいコンビが一番乗りですね」

「おはようございます。矢部さん」

 保住に続いて田口も「おはようございます」と挨拶をする。

「おはようございます」

 矢部はにこにこだった。

「企画書詰めていたんですね」

「はい。書き直しですけど頑張ります」

「で、何点だったの?」

 田口は苦笑いだ。

「十点です」

「まじか? 嘘でしょう? 最高新記録!」

 半分、呆れられているけど別に悪い気持ちにならないのはなぜだろうか。

「どん底を見るのは、いいことだな」

 矢部は苦笑して田口の肩を叩いた。

「そうですね」

 ——なにもこだわることはない。変わるのだ。全て吸収して、自分は変わる。もっと上に行けるように。そして保住のサポートが少しでも出来るようになりたい。

 そう思った。




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