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第2章 仕事の仕方
13 結局は落第点
しおりを挟む寝付けない夜が明けた。悶々したまま、いつもよりも早い時間に自宅を出た。
一人でいると悪いことばかり考えてしまうからだ。職場に行ったって、なにがあるってわけでもないのに……。
前職からそうだ。嫌な上司がいる場所なのに、一人の家にいられなくて、暇さえあれば仕事にかこつけて職場にいたのを思い出す。
職場に着いたのは七時だった。誰もいるはずがない。妙にいい天気なのが、また頭にくる。
季節は五月だ。少しずつ空気がよどんできて夏が近づいている気配が感じられた。梅沢は盆地であるため、夏はジメジメとした高湿度の暑さになる。田口の地元は平野だったから、この盆地の夏は体に堪えた。
——夏は好きなはずなのに。
梅沢の夏は、夏ではないようで、好きになれなかった。
「おはよう。田口。昨日の企画書なんだが……」
扉を開けた瞬間。一瞬、誰もいないと思っていたから面食らってぼんやりしてしまった。
「なにボケっとしている。寝ぼけているな」
パソコンや書類に埋もれていたから、わからなかったが、保住がそこにいたのだ。
「すみません。おはようございます。……係長。すごく早いんですね」
「今日は特別だ。昨日、残業もしないで帰ったせいで仕事が滞っている」
——昨日……。そう。昨日。
田口は昨日の澤井と彼の様子を思い出し黙り込む。無言の反応が違和感だったのか、保住は顔を上げた。
「なにか?」
「いえ。なんでもありません。すみません。頭が働いてません」
「そういう顔している」
彼はそう言うと笑顔を見せた。ズキンと胸が痛む。
——おかしい。
胸元を抑えた。
「体調が悪いのか?」
「そういうわけでは。すみません。おれの仕事が遅いから、係長にもご迷惑をおかけしました」
「そういう言葉は終わってからにしろ。まだまだ考えてもらわないといけないところがある」
「わかりました」
——昨日のような失態はしない。
冷静に受け止めるのだ。仕事ができないということは、みんなに知られてしまったことだ。なにも恥ずかしいこともないだろう。田口は頷いて荷物を席に置くと、さっそく保住のところに向かった。
「そこの椅子持ってきて」
「はい」
そばの谷口の椅子を引っ張り、指示通りにそこに座った。
「内容はすごく良くなった。あとは書き方だな」
「書き方は……」
「そうだ。書き方はひどい」
「すみません。採点は?」
田口の言葉に一瞬、保住は目を見張るが、苦笑して答える。
「そうだな。内容は六十点。書き方は十点に近い」
「本気ですか? 落第点ですね」
「まったくだ。今までどんな教育を受けてきたんだか」
「すみません」
「お前に悪気はないだろう。教える側の問題だ」
保住はそう言うと、赤ペンを出して田口の企画書に改善点を書き入れ始めた。
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