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第1章 出会いとはじまり
03 お使いのお供
しおりを挟む「県庁って駅の近くでいいんですよね?」
公用車に乗り込もうとしてふと顔を上げると、それを横目に見て保住は苦笑いをした。
「おれが運転する」
「いや。そういうつもりではなくて。教えてもらえれば……」
「そういった面倒ごとは嫌いだ」
保住はさっさと運転席に回り込んだ。
「係長」
田口は弱った顔をして、しぶしぶと助手席に座った。
「すみません」
「田口……本気で真面目過ぎだって。そういうの疲れないのか?」
「疲れません。これがおれです」
「ふうん」
年が近いせいなのだろうか。普通、上司にこんな口の利き方はしない自分なのに……反省するしかない。田口は黙り込んだ。
——ダメだ。
保住と一緒にいるとペースが乱される。上司に運転をさせて、更にその人に無駄口を叩くなんてバカだと思ったのだ。自分が嫌になってきた。
「そんな顔するな」
走り出した車の中で、保住は微笑を浮かべていた。いつもは無表情で感情が表に出にくい田口だが、会って半日の人に自分の気持ちの揺れ動きを読まれることは滅多にない。今日は、どきっとすることばかりだった。
「なんでわかったの? って顔をしているぞ」
信号で止まった車。保住はルームミラー越しに視線を寄越す。視線が合うと、なんだか気恥ずかしかった。田口は顔を背けて窓の外に視線を向けた。
「……昔から、なにを考えているのか、わからないと言われます。表情がないから面白味のない男だって。それなのに、どうしてわかるんです? おれの気持ち」
「そうだな。まあ会話の流れと、黙り込む仕草を見ていれば、不本意なのだろうなということは、想像がつくな」
「想像ですか」
「それ以上はよくわからないな。まだ出会って数時間の間柄だ。想像をするのにも、情報が足りない」
「想像をするのに、ですか」
「そう。その場の雰囲気でわかるものだけでは不確か。足りない部分は、その人の人と成りや性格、思考の傾向を見て想像できるものもあるものだ」
「それって探偵みたいですね」
「そうかな? 社会人としてやっていくには、結構、役に立つんだけどな~……」
田口は苦笑する。
——この人、自分よりも面倒な人っぽけど、興味深い。
そんな話をしていると、県庁に到着した。県庁は駅の近くにある。市役所からは、車で十分程度の場所だった。
「ここには、ちょくちょく呼び出される。覚えておいて。一人で来ることもあるぞ」
「了解です」
田口は書類を抱えて、保住にくっついていった。
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