田舎の犬と都会の猫ー振興係編ー

雪うさこ

文字の大きさ
上 下
5 / 231
第1章 出会いとはじまり

03 お使いのお供

しおりを挟む




「県庁って駅の近くでいいんですよね?」

 公用車に乗り込もうとしてふと顔を上げると、それを横目に見て保住は苦笑いをした。

「おれが運転する」

「いや。そういうつもりではなくて。教えてもらえれば……」

「そういった面倒ごとは嫌いだ」

 保住はさっさと運転席に回り込んだ。

「係長」

 田口は弱った顔をして、しぶしぶと助手席に座った。

「すみません」

「田口……本気で真面目過ぎだって。そういうの疲れないのか?」

「疲れません。これがおれです」

「ふうん」

 年が近いせいなのだろうか。普通、上司にこんな口の利き方はしない自分なのに……反省するしかない。田口は黙り込んだ。

 ——ダメだ。

 保住と一緒にいるとペースが乱される。上司に運転をさせて、更にその人に無駄口を叩くなんてバカだと思ったのだ。自分が嫌になってきた。

「そんな顔するな」

 走り出した車の中で、保住は微笑を浮かべていた。いつもは無表情で感情が表に出にくい田口だが、会って半日の人に自分の気持ちの揺れ動きを読まれることは滅多にない。今日は、どきっとすることばかりだった。

「なんでわかったの? って顔をしているぞ」

 信号で止まった車。保住はルームミラー越しに視線を寄越す。視線が合うと、なんだか気恥ずかしかった。田口は顔を背けて窓の外に視線を向けた。

「……昔から、なにを考えているのか、わからないと言われます。表情がないから面白味のない男だって。それなのに、どうしてわかるんです? おれの気持ち」

「そうだな。まあ会話の流れと、黙り込む仕草を見ていれば、不本意なのだろうなということは、想像がつくな」

「想像ですか」

「それ以上はよくわからないな。まだ出会って数時間の間柄だ。想像をするのにも、情報が足りない」

「想像をするのに、ですか」

「そう。その場の雰囲気でわかるものだけでは不確か。足りない部分は、その人の人と成りや性格、思考の傾向を見て想像できるものもあるものだ」

「それって探偵みたいですね」

「そうかな? 社会人としてやっていくには、結構、役に立つんだけどな~……」

 田口は苦笑する。

 ——この人、自分よりも面倒な人っぽけど、興味深い。
 
 そんな話をしていると、県庁に到着した。県庁は駅の近くにある。市役所からは、車で十分程度の場所だった。

「ここには、ちょくちょく呼び出される。覚えておいて。一人で来ることもあるぞ」

「了解です」

 田口は書類を抱えて、保住にくっついていった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

恭介&圭吾シリーズ

芹澤柚衣
BL
高校二年の土屋恭介は、お祓い屋を生業として生活をたてていた。相棒の物の怪犬神と、二歳年下で有能アルバイトの圭吾にフォローしてもらい、どうにか依頼をこなす毎日を送っている。こっそり圭吾に片想いしながら平穏な毎日を過ごしていた恭介だったが、彼には誰にも話せない秘密があった。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

令息だった男娼は、かつての使用人にその身を買われる

すいかちゃん
BL
裕福な家庭で育った近衛育也は、父親が失踪した為に男娼として働く事になる。人形のように男に抱かれる日々を送る育也。そんな時、かつて使用人だった二階堂秋臣が現れ、破格の金額で育也を買うと言いだす。 かつての使用人であり、初恋の人でもあった秋臣を拒絶する育也。立場を利用して、その身体を好きにする秋臣。 2人はすれ違った心のまま、ただ身体を重ねる。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...