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第3章 太陽の塔との別れ
第18話 王様にぎゅうぎゅうされる?問題
しおりを挟む「お前の気持ちは痛いくらいに理解しているつもりだ。おれもそうだったからな。なぜおれが王位継承者なのだと、自分の生い立ちを呪ったものだ。王宮のしがらみがなんだ。おれは母が笑っていられるなら、それだけでよかった」
「サブライム……」
自分は自由に選択をして生きてきたのだと思っていた。しかし、それは思い込みだったのだ。おれは生まれた時から、運命が決められていた。サブライムの話を聞いていると、人はみんな、そうなのではないかと思い始めていた。
生まれた時から、全てのことが決まっているということ——。
いつ、どこで、誰から生まれるか。どんなに偉い人でも。どんなに強靭な人でも。そればかりは、自分で決められないことだからだ。
サブライムは、おれの頭をぽんぽんと叩いた。
「あの日。大聖堂で典礼際の練習をしていたな。お前にとったら、あれが日常だったのだろう。あの日、あの時まで、お前は平和で穏やかな日常を歩んでいく。そう思っていたのだろう。しかしどうだ。今のお前はリガードを失い、自分が自分ではなくなってしまうかも知れないというのだ。そんな理不尽な話はなかろう。そんな身の上を憂いてなにが悪い。自分の気持ちに素直になればいい」
「けれど」と、サブライムは言葉を続けた。
「やはり、お前が歌姫の生まれ変わりであることには違いない。お前の両親は、お前の背負うべき運命を知った上で、自分たちで産むことを決意してくれたそうだ」
「そんな……。じゃあ、なに? おれの両親は、おれがこんな辛い目に遭うって知っていて、おれを産んだの?」
「そうだ。お前には過酷な試練が待ち受けていると知っていた。だがしかし。お前なら大丈夫だと信じたのだ。いいや。お前の両親だけではない。おれの父である先代の王も、ピスも。それから……リガードも。お前が生まれた夜、ピスとリガードはカースと戦った。その戦いは壮絶だった。二人とも死の一歩手前だったそうだ。お前は、皆に祝福され、必要とされて生まれてきた。それは間違いのない事実だ」
サブライムはそう言い切った。おれは黙り込むしかない。
サブライムはおれの手を握った。細く形のいい指が、おれの指を絡めとる。手のひらと手のひらが合わさると、そこからじんわりと温かい熱が伝わってきた。
「おれは逃げていても始まらないと思っている。確かに生まれた場所は選べない。けれど。そこからどう生きるかを決めるのは自分自身——。運命とは翻弄されるためにあるのではないだろう?」
はっとしてサブライムを見上げると、彼の碧眼はきらきらと輝き、おれをまっすぐに見据えていた。彼の瞳から意思の強さが滲みでている。そうだ。これだ。彼が王たる所以は、この意思の強さ。
自分に課せられた運命に、嘆いてばかりいる人ではない。その運命さえも受け入れ、そして自分のものにしてしまう強さ。それがサブライムという人なのだ。
じいさんから譲り受けた指輪が、じんわりと熱くなった気がした。いつの間にか、からだの一部になっていた指輪だけど、こうして見つめてみると、おれのことを応援してくれているように感じられた。
(じいさん。じいさんなら、きっと——)
『お前ができることをしろ。お前を信じているぞ』
きっとそう言うに違いない。唇が震えていた。本当は怖い。けれど、その唇をぎゅっと噛みしめてから顔を上げた。
「翻弄されたくない。おれは、運命になんて翻弄されない——」
サブライムは、口元を緩めて笑みを見せた。
「そうだ。立ち向かえ。生きるということは、己との闘いだ。自分に負けてはいけない。凛空。おれはお前を守る。絶対にだ。だから、お前も自分の信じた道を進め」
サブライムと一緒にいると、なぜか、なんでもできると思ってしまう。出会って間もないというのに、おれの気持ちはすっかり、サブライムに惹きつけられてしまっているのだろうか。
「おれにできるのかな」
「お前ならできる」
「まだ出会ったばかりなのに、どうしてそう言い切れるの?」
「それは——」
サブライムはその長い腕を伸ばしてきたかと思うと、おれの腰を引き寄せてぎゅっと抱きしめてくれた。サブライムのいい匂いが漂ってくる。
(まただ。この匂い。なんだか——)
頭の芯がぼーっとしてしまうような匂いだった。何度も瞬きをして、サブライムを見ようと視線を巡らせると、ふとその長い指で顎を取られた。
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