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第六幕

11 守りたい気持ち

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 ——泣かせた。違う、そうじゃない。こんなことするつもりはない……。

「な、なんだよ! じゃあ、なんであんな女とランチなんかして。お前が出て行って、おれがどんな思いしたと思っているんだよ……?」

 ——黙れ。いい加減にしろよ。

 もう一人の自分が、自分を叱責した。

 ——せつにそんなこと言ってどうする気だ。

 目の前で涙をこぼす野原を見て、よくもそんなことが口を吐いて出るものだ。槇はそっと野原の頬を流れる涙を指で拭った。

「おれ、あの……ごめん」

 ——謝るなら、最初から言うなよ。バカ。許して欲しい。おれはバカだから……。

 そんな甘えたことを言っている段階で、クズだ。最低男だ。

「いや、ダメだ。おれを許すな。雪。怒ってくれよ。バカだって、怒れ!」

 懇願するように彼を見つめると、野原は口を開いた。

実篤さねあつ、おれのことちっともわかっていない。だから、いやだった。嫌いになったわけじゃない」


「だって。おれはお前のこと、一番に考えて……おれは、お前のことをこの世の誰よりも知っているはずだ」

「ううん。実篤は一番おれのことわかっていない。ちっとも見ていない」

「そんな事は……」

 ——ある。そうだ。野原のこと、一番分かっていない!

 槇の腕の力が緩んだのを確認し、野原は体を起こした。そして、そっと槇の腕を握りしめた。

「おれは守られたいんじゃない。おれだって、実篤を守りたい。力になりたい」

「え……?」

 ——雪が、おれを守るだって?

 槇は弛緩した情けない顔をしていた。
 しかし野原は続ける。

「実篤はいつもそう。『お前を守るために力が欲しい』って言う。でも、それっておれも同じ。おれもそう。実篤の力になりたい。だから、おれにも相談して。一人で考えてもできないけど、二人で考えればできることあると思う」

 野原の瞳は先ほどまでとは違いしっかりと槇を見捉えていた。彼の意思をひしひしと感じた。

 ぼんやりと抜け殻みたいに情けない顔をしていた槇だったが、野原の言葉、そしてその視線を受けて瞳に少しずつその光を取り戻す。

 守られているばかりの自分ではない。野原は、着実に槇を守るための力をつけているのだ。いじめられて、気味悪がられているだけの野原雪ではないのだということを、一番側にいる自分が理解していなかったのだ。



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