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第四幕
12 尊敬すべき上司
しおりを挟む「おれは、ただそれを叶えてやりたいとしか思ったことはなかった。だが、田口——」
田口のような愛情表現もあるということ。
「お前のような捉え方をしたことはなかった」
野原は田口をじっと見据えた。彼は少々困惑した顔をしていた。
「は、はぁ……すみません」
「謝るべきことではない。新しい発見だ」
「えっと」
野原は何度も頷いた。よく理解したのだ。田口の考え方を。自分以外の考え方を理解すると心が躍る。ワクワクするのだ。
そして、その気持ちに同意している自分も認識してした。
「なるほどな。止めさせるのか? 下らない野心になどかまけることなく、足元を見ろと言ってやるのだな」
——そうだな。実篤の子供染みた茶番を握り潰すのも一興か。どんな顔をするのだろう?
きっと怒って泣きわめくのだろうな……。
——しかし、どうしてだろう? 田口の言うことは、おれたちには必要な考え方であると思う。
——これはどういうことなのだろうか?
野原にはよくわからない。しかし、そう思われたのだ。
いや、正直自分もそう思っていた。槇のしでかそうとしていることは無謀で無意味だと心の中では思っていたからだ。だからこそ、田口の意見に同意したのかもしれない。
「いや、そこまでは」
田口は慌てて首を横に振るが、野原は聞いていない。
「確かに下らないのだ。澤井副市長を下ろしてもなんの解決にはならないのだ。理解した」
「野原課長……」
「保住は、お前がそうしたらなんと言うのだろう?」
野原の質問に田口は考え込んでから苦笑した。
「多分、最初は怒るかも知れません。しかし、わかってくれると思います。課長、きっと槇さんもわかってくれるのではないでしょうか?」
——いや。実篤は……。
「いや。実篤は泣き叫んで大騒ぎをして喧嘩別れになるだろうな」
「え——じゃあ、それはやめたほうがよろしいのでは?」
「いや。それは実篤には……おれたちには必要なことである気がする」
「課長、大丈夫なのでしょうか?」
「心配、してくれるの?」
田口という男は、自分の大事な人と敵対する立場にいる野原のことまで心配するのか?
野原は心が少し暖かくなる気がした。
「それは心配もします。あなたは真面目で真摯。おれは尊敬すべき上司だと思っていますから」
「おれが——?」
野原は目を瞬かせて田口を見据えた。彼は少し照れたような顔をして言った。
「おれが、尊敬すべき上司?」
そんなこと言われたことがないから、どう理解したらいいのかわからないのだ。
戸惑った気持ちを処理しきれずに顔を逸らす。
「帰るぞ」
「はい」
今晩は嵐になる——。
そんなことを思いながら。
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