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第三幕
02 陰謀
しおりを挟む「叔父さんは年を取り過ぎた。ここのところ澤井の言いなりだ。このままではせっかくのおれの立場が台無しだろう?」
肩を竦めて見せると、野原は少し呆れたような表情をした。
「澤井副市長はキレ過ぎる。底知れない人」
「お前もそう思う?」
野原は頷いた。
「接点はないから本当のことはわからない。だけどそんな澤井に手を出して勝算ある? 水野谷さんの反対派閥だって聞いている。手強い」
「水野谷」という男の名に槇は心がざわつく。
水野谷は、野原の元上司であり彼が槇以外に唯一心許す男だ。
「お前は水野谷さん、好きだよな」
刺々しい言い方をわざとしてやっているのに気が付かないのか、野原は少し気恥ずかしそうに視線を伏せた。
「お世話になったから」
「お前がそんな風に思える人、珍しいからな。妬ける」
「そんなんじゃない」
「知ってるけど。言いたくもなるわけで……」
槇はそっと野原の腕に指を這わせるが、すぐにその手を掴まれてから外された。
「真面目な話しているところで邪魔」
「ちぇ」
「でも澤井副市長下ろしと保住と、なんの関係がある?」
槇は咳払いをしてから、ソファに寄りかかった。
「保住は澤井の恋人、もしくは元恋人ではないかと思っている」
「え?」
さすがに野原は目を瞬かせた。
「澤井は保住がお気に入りだ。保住が新任で配属された時の上司。そして振興係でも接点がある」
「だからといって飛躍しすぎ」
「澤井は保住の自宅に何度も泊まり込んでいたようだ。おかしいと思わないか? 澤井は、保住の父親の流れを組む派閥と対立しているはずなのだ。それなのにあの猫可愛がりようといったらない。保住も澤井には無遠慮で親しい関係性が隠しきれていない」
「確かに澤井副市長から保住宛に電話があるのは確か」
「だろう? おかしいだろう。そんなこと現実的にありえないだろう。副市長が直接、一係長宛てに電話を寄越すなんて。それに」
槇は続ける。
「澤井は市制100周年記念事業の実施にあたって、特設部署を創設する案を出してきた。その室長に保住を座らせると言ってきている」
「それは……」
「破天荒なことだ」
「無茶しすぎ。保住は係長。独立した室長は次長や課長クラス」
「保住はおれたちより年下だぞ」
「早すぎる出世は周りにもいい影響を与えない」
「そう言うことだ。あまりに身勝手。そして独裁的」
一気に話を進めて、槇は一息吐いた。野原はしばらく黙り込んでいたが槇を見た。
「安田市長は?」
「賛成こそしないが、反対もできない。だから。保住を利用する」
「実篤」
野原は難色を示した。
「保住に協力させて、澤井を失脚させる。今度の企画は潰す」
「そんなことをしたら、安田市長の進退問題になる」
「大丈夫だ。上手くやる」
自信ありげに胸を叩くと、野原は冷たい視線を寄越した。
「実篤の作戦はいつも甘い。上手く行った試しある? ことを起こすなら、もっと綿密に計算しなくちゃ」
「な、考えてる」
「嘘」
「雪は協力してくれないのか」
槇はじっと野原を見つめた。
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