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馬鹿婚約者が私の弟と旅行に行くという。馬鹿なのかしら。馬鹿だったわ。 馬鹿は止めても止まらない。  

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天水島に旅行行ってみようぜ」
 は?
 馬鹿な平民の婚約者が馬鹿な事を言う。
 「そんなお金ないし」
 100億あっても天水島なんて行かないし、無料でも行きたくない。
 行けば3万貰えるとしても行かない。
 「そっか。急な事だしな」
 ん?馬鹿婚約者にしてはあっさりとしている。
 「明月とはもう話してるし、黄泉がいかないなら明月と一緒に行ってくるよ」
 10歳の馬鹿弟明月は、馬鹿婚約者に馬鹿みたく懐いている。
 この馬鹿2人を近づけたくないんだけど、一緒に天水島に旅行。ぷじゃけるな。 
 婚約者より先に婚約者の弟に旅行の誘いしてるってのがまずふざけすぎている。
 「高校生になってバイトでもしたら2人で行こう」
 誰が行くかボケぇ。
 「弟も旅行に行くお金なんてないわよ」
 10歳の弟にも旅行に行くお金なんてあるわけがない。
 どうやってお金もなしに旅行になんて行くというのか。
 「お小遣い貯めてるから大丈夫だって言ってたぜ」
 なんで馬鹿のくせにわざわざお小遣い貯めてたのよ。しかもこんな事に使うなんて。
 「3年前から明月と話してたし、行きたいなぁって楽しみにしてたんだよ俺達」
 私そんな事まったく知らないんだけれど。
婚約者の私を差し置いて婚約者の弟と3年前から旅行の計画ですって。そんなふざけた事があってたまるものですか。
よりによって天水島なんて。
 「ねぇ、私達婚約者なのよ。婚約者の私を置いて婚約者の弟と旅行に行くなんておかしいわよ」
 「おかしいとも思わないし、おかしかったとしても行きたいから行く。明月も行きたがってるんだ」
 ああもう、なんでそうなるのよ。貴女がそんなんだから好きになったのよ。
 「天水島なんてモンスターが出るのよ」 
 「ああ、知ってる。明月も知ってるし、モンスターの事も調べられるだけ調べた」
 「ならなんで。天水島ではモンスターに襲われて死亡者が絶えないのよ」
 「結界の向うが見てみたい。海も綺麗だ--」
 反射的に婚約者を殴っていた。鉄心の言葉が中断する。
 「海も綺麗だし、山も森も湖も歴史も神社も、美しい」
 鉄心はまた口を開き言葉を続ける。
 「何よりも一番は結界の向うに惹かれるんだ。あの先が見たくて仕方がない」
 私はもう一度婚約者を殴る。
 「やめときな。そんな素人殴りじゃ、指を傷つけるぜ」
 「やめとくのは貴方達よ。指を傷つけるどころか、命を捨てるわよ」
 「命の危険があるなんて承知の上さ。それでも行きたい、結界の先が見たい」
 「結界の向うに行けば戻ってこれないのよ」 
 結界の向うに行けば戻ってこれない。天水島に行きたくなんて思わない私でも
それぐらいは常識で知ってる。現代日本がいまだに解決できない、いやもう放置されている
モンスター・天水島・結界・誘拐・水守一族。
 モンスターが日常的に出現し、殺される。
誰もが帯剣し、島民同士の刃傷沙汰も絶えない。
 絶えない行方不明者。
 結界の向うから世界で最も美しい水守一族が誘惑して、結界を超えた者は二度と戻ってこれない。
 魅力は分かる。でもそんなところ行きたくないという恐怖感。死にたくないという本能の方が勝って当然なのではないか。
 鉄心が死にたくないという本能が勝ってやりたい事をやらない少年なら、婚約などしていないが。
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