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悪役皇子はざまぁ展開を希求する。

13皇子の元領土(中)

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 首筋にぴりぴりとした緊張感が走って、ユリウスは反射的に両眼を開いた。

 体の側面に体温を感じる。
 ギルバートに体を預けて眠っていたようだ。

「おはよう、眠り姫」

 ちょうどい時に起きたね、と目の前のノースが荷馬車の後方に流れていく景色を示した。
 最近になって整備されたばかりの真新しい街並みが目に入る。クラウディアに入ったのだ。

「よく眠っていたねぇ。荷馬車に乗り込むなりすこん、と落ちて死んだように眠っていたから、このまま百年くらい目覚めないのかと思ったよ」

 どこかの国の御伽噺に重ねたらしいノースの戯言は無視して、ユリウスはギルバートに耳打ちした。

「何かおかしい」

「はい」

 ギルバートの声が警戒心を孕んでいる。
 ユリウスと同じように見慣れた街並みに違和感を感じたようだ。

 後方に移動し、注意深く外を眺める。
 賑わっていたはずの街は人気が少なく、どこか陰鬱で緊張感に満ちていた。

「物乞いだ」

 力なく荷馬車を追いかけてくる人影を見て、ユリウスは眉を潜めた。

 急速に成長したクラウディアでは仕事も多く、近頃では物乞いも少なくなった。それなのにこの光景は何だ。
 商隊だと分かるなり、あちこちから物乞いが湧いて出る。おこぼれをもらうためだ。

「疲れはないですか」

 背後に控えたギルバートがユリウスの腰帯に剣を差し込んだ。万が一、荷馬車を襲われた時のために武器を携帯しておけということだろう。

「子どもの回復力なめんな」

 短い言葉で状態を伝える。
 体力の出力に調整が効かない分、へばるのは早いが回復も早い。昼寝を経た体はもう手合わせの疲労を払拭していた。

「物騒だねぇ。でも戦うことないよ」

 ひょい、と顔を出したのはノースだ。懐に手をやると、他の行商達に目で合図する。

「ちゃんと捕まっててね!」

 言うなりノースが外に向かって何かを撒いた。

 小銭だ。

 わあっ、と声を上げて物乞い達が撒かれたものに反応して四方八方に散っていった。同時に、荷馬車が足を早める。
 急速に遠ざかっていく現場を眺めながら、ノースが言った。

「ああいう手合いは襲ってくると面倒だからね。荷も守らなきゃいけないし。結果的に金撒くのが一番リスクが低い。というわけで君たちからも撒餌代を徴収します」

 にこにこと手のひらを向けるノースに、ギルバートが肩を竦めて小銭を握らせる。
 まいど、と懐に小銭をしまったノースに向かって、ユリウスは尋ねた。

「何がどうなっている」

「どう、とは?」

「みんな子どもだった」

 集まってきた者達はみな、成人前と思われる華奢な体つきをしていた。
 あれは子どもだ。今のユリウスとそう変わらない年頃の。

 ふむ、とノースが両眼を細めてから口を開いた。

「半月ほど前、ここの領主がすげ変わったのは知っている? それから街の情勢が大きく変わったんだよ。行商の間じゃ結構話題に上るんだけど……そうか、君たちは何も知らずにクラウディアに入ったんだな」

 たった半月で何がどう変わったというのか。

 問いを重ねようとユリウスが身を乗り出した、その時。
 馬の嘶きとともに馬車が大きく振れた。

 覆いかぶさるようにしてギルバートがユリウスを庇う。行商達が悲鳴を上げながら幌の中の荷を支えた。
 ギャリギャリとものすごい音を立てて荷馬車が急停止する。

 何が起こった。

 ギルバートの腕の中を抜け出すと、ユリウスは荷馬車を飛び降りた。

「ユリ……ユーリ!」

 皇子の名では呼べなかったのだろう。とっさに呼び換えたギルバートが後を追ってくる。

 回り込んで前方の様子を伺うと、ユリウスは目を丸くした。

 華美な建物の前に住民達が集まって何事か喚いている。
 手には包丁や斧、金槌などを持っていて攻撃する意思が伺えた。

 まるで一揆だ。
 しかし人々が押し掛けているのは公邸ではなく娼館であった。それも街一番の高級娼館だ。

「返せ! 人攫い!」

「うちの子を返して!」

 暴徒と化した群衆が門を破ろうと意気込むが、国外の商人も訪れる館の扉は分厚い鉄製で、押しても殴ってもびくともしなかった。

「あらら。まずいね。兵が集まってきた」

 のんびりした声はノースのものだ。見物に出てきたらしい。

 ノースの言う通り、門の内側に整然と兵が集まり始めている。最初から攻撃されると読んでいたかのようなその数に、ユリウスは腰のものを確かめた。

「ギル、兵の顔に見覚えはあるか」

「いえ。ヘヴンリィ卿が連れてきた者達ではないでしょうか」

 なるほど。私兵か。
 と、なるとギルバートが宙ぶらりんのまま所持している騎士の称号で引く相手ではないだろう。

「よし」

 算段をつけて、ユリウスはピンク色の頭を振り仰いだ。
 
「ノース、ちょっと頼まれてくれないか」

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