罪人(つみびと)

黒崎伸一郎

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逃げなければ…

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メンバーを失った私に残ったのは借金だけであった。
借金と言ってもサラ金とかの正当な所から借りた金ではなかった。
いわゆるヤクザから借りまくった金だったのである。
ポーカーで負け続ける私に金を貸す輩が何人かいた。
その大半は暴利な金利だったが、私にはその時にはまだメンバーがいた。
金利は月に一割の利子ならまだまだマシな方で、二割以上取るヤクザもいた。
いちばん大きかったのはトイチの貸付である。
十日に一割の利子の事だ。
最初のうちは百万円を借りて十日経った日に百十万円を返していたのだが、だんだん金額が増えて融資金額が三百万円にもなってしまった。
それでも保険の金が入った時に返せれたはずだったが、それをしないでポーカーに注ぎ込んでしまったのだ。
三百万円借りていたわけだから十日毎に三十万円支払わなくてはならない。
それでも一向に減る事はないのだ。
トイチの返済は一日たりとも待ってはくれない。
私は知り合いの別のヤクザに頼み五百万円を月に一割の金利で借りた。
月の利子が五十万円だが、トイチの利子よりはるかに低い。
借りた金でトイチの借金を全て返したのだが、残った金はまた同じようにギャンブルですぐになくなってしまった。
その時点ではまだ私の店はあったが、従業員にも支払う金がなくなり、辞めざるを得なくなってしまう。
それにメンバーの崩壊である。
店はそれなりに繁盛していた。
と言っても私が客の店に足を運んで金を落として行ってたから、そこのオーナーらも私の店に来てくれていたのだ。
私は店を今月で締めなければならないのを決めた時にまた別のヤクザに金を借りに行ったのである。
そのヤクザから三百万円を借りたのだが、利子は月に1.五割…つまり四十五万円の支払いである。
しかもその利子は三百万円の中から引かれて私が手にした額は二百五十五万円だ。
先引きという利子の取り方である。
それでも金が必要だったのである。
だが、私にはもうメンバーもいなければ店もなくなる。
その金でもうひと勝負かけるしか方法がないとその時は思っていたのだった。
案の定、ギャンブルで負けた。
私は奥の手を使う…。
もう一度トイチのヤクザに金を頼んだのであった。
この時点でトイチには一千万円近くの利子を払っていた計算になる。
なんて馬鹿な男なんだと思うだろうが、ギャンブルにハマった人間でないとこの時の気持ちはわからない。
別にわかってもらおうとは全く思っても無いが…。
結果は誰もが予想した通り惨敗であった。
十日後には、いやその前に他のヤクザへの支払いが待っている。
私はもうこの街にいることができなくなってしまったのだ。
別にこの街が好きだったわけではない。
誰がどうなろうがもう私には逃げることしか道はなかったのだ。
付き合っていた女はいない事はなかったが、どうせこんな金もないギャンブルばかりの男がいなくなったところで逆に清々するくらいであろう。
親友と呼べる友もいない。
いっそ誰も知らない土地へ行き、そこでなんか仕事を見つけよう…。
住んでいたマンションもそのままにして私は新幹線に乗った。
マンションの保証人はメンバーの一人だった。
そのメンバーからも裏切られたのだから別にそのくらいはいいだろう。

私は新幹線を降りて知らない土地で暮らす事にした。
所持金はヤクザに借りた金を少しばかり残していた。
全く無しではどうする事も出来ないと思っていたからである。
どうせならヤクザに借りた金を全部持ってくれば良かったじゃないかと思われるかもしれないが、それが出来ていたらここまで落ちる事はなかったはずだ。
終わったことを考えても仕方が無い。
私はこの街のタウンワークで仕事を探す事にした。
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