罪人(つみびと)

黒崎伸一郎

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遂に…

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杏が六歳になり何処の小学校に行くかを決めなくてはいけない時になっていた。
文は私には内緒で自分の実家の近くにある小学校に行かすことを決めていた。
私のアパートから通える距離ではもちろんない。
文は杏と春を連れて私と別れるつもりだったのだ。
三月の月末に文は実家に帰ると決めていた。
帰ると決めていた前日に私は仕事を終えてから風呂に入り、文の寝室に入った。
実家に帰って欲しくない私は寝ていた文の布団の中に入った。
寝てはいない。
涙を流しながら私に「これからも店、頑張ってね…」
と言ってきた。
私は文の頭を撫でてから文を抱いた。
私を拒否しなかったのは本当に最後の夜とするつもりだったのだろうか…?
身体の関係を持ったのは何故なんだろう…?
もしかしたら実家に子供を連れて帰ると言って本当はここにいるんじゃないか…?
私の頭の中にはそんな甘い考えが未だあったのだった。
次の日はブーブーは休みの日だった。
前の日までに荷物の整理をしていた文は杏と春を連れて車に乗る支度をしていた。
当時杏は六歳、春は一歳でまだ何もわからない年頃だった。
車に春を乗せようとした時に本当に出ていくんだ…!
その思いが「行かないでくれ!」
との言葉になって車の後ろにしがみついた。
その言葉に文は黙ったまま涙を浮かべて車を発進させた。
尚も車にしがみつく私だったが、カーブで振り落とされてしまう。
バックミラーで私を見ながら文は車のアクセルを踏んだ。
車から落とされた私は少し転がって溝に落ちたが、大きな怪我はしなかった。
私は悲しみの中にいたが、本当に悲しかったのは文の方である。
本気で止めるつもりであればもっと前から行動で示して欲しかったに違いない。
ギャンブルを止めることはできなくとも普通の人と同じ様に小遣いで遊ぶことができる人であって欲しかったに違いない。
涙を流しながら車を運転して実家に帰らなくてはならない文の気持ちさえわからなかった私だった。

四月に入り文がいなくなってもブーブーは繁盛していた。
「奥さんは?」
と常連さんに聞かれることは何度かあったが、「次女が小さいので実家に帰ってます」
と誤魔化していた。
笑顔で頑張り屋の文は店では人気者だった。
忙しくても辛い顔一つせずに頑張っていた姿をお客さんはしっかり見ていたのである。
文と杏、春がいなくなってぽっかり穴が空いた私は誰もギャンブルを注意する人がいなくなってから一層ギャンブルをやるようになった。
親からの注意はずっと続いていたが、もうギャンブルは辞めたの一点張りでごまかしていたのだ。
実家に帰った文と杏に何度か電話をかけていたが、時間が経つに連れて回数が減ってきてやがては月に数回とかになっていった。
文は杏と春に会うことは許してくれた。
私も文と杏、春に会いたいので休みの時はよく車で文の実家に行った。
文の母には合わせる顔がない為、私が行くことは母には内緒にしてもらっていた。
本当に情けない男であった。
夏になって杏の夏休みに入ると私の親の実家に来てくれて家の近くの海で海水浴をする時もあったくらいで、文も私に頑張って欲しかったのだった。
そんな気持ちを嘲笑うかのように私の行動は荒んだものになっていった。
当時店は繁盛していて売り上げもかなりあった。
それに託けた私はバイトを雇って店を抜け出すことが多くなった。
麻雀やパチンコに行く時間が多くなり、学生が休みの時など、開店の準備をしてからすぐに遊びに行く事も珍しくなかった。
もちろん長年焼いている私が焼くわけではなく、この前教えたばかりのバイトの学生が焼くわけだから味は落ちるのは当然のことだった。
そんなにが続くと必ず売り上げに響いてくるのは当たり前である。
文が去ったブーブーは確実に衰退していったのである。
悲しいかな、それでも私のギャンブル熱が覚めることはなかったのである。
そして遂にとんでもない事件を起こしてしまうのだった…。
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