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決済の金曜日がきた。
十時に小坂部をデュークの部屋に呼び出して最終リハーサルを行う。
それで同時に特殊メイクを敢行した。
小坂部にメイクをするのはこれで二度目である。
一度目は免許証の写真どりの時だった。
メイクは自然な仕上がりで顔をつついている感じは見た目にはわからない。
「名前は」
不意にデュークが小坂部に聞いた。
「斉藤大作です」
突然の問いかけにも平然と答えた。
「よし、いいぞ」
デュークは不意打ちをかけた質問にも
すぐに答えることができた小坂部に称賛の言葉をかけた。
これで小坂部も落ち着いた。
後はプリンスの会議室に行きリハーサル通りに事を始めるのみであった。
プリンスについたデュークと小坂部ば時間通りに会議室へ向かった。
志保は少し遅れて会議室へ入
ドアを開くと窪田側は皆席についていた。
志保は窪田を見かけると手を上げて近くに歩き寄り窪田の耳元に手をあてた。
「クーさんが一緒に来てくれって言うから来たけど、なんか私、場違いみたいなので下のラウンジで待ってるから終わったらきてよ!」
窪田側には窪田、副社長、そして窪田が用意した司法書士が並んでいた。
その中でこちら側に並ぶのも反対に並ぶのも何かおかしな話である。
志保がいるいないはこの商談には全く関係のない事だったので、窪田も理解したみたいで志保に二度小さく頷いた。
デューク側は結局二人となった。
志保がドアを開け出て行ったと同時に
「時間になりましたので始めさせていただきます」
黒縁の眼鏡をかけて如何にも真面目そうな司法書士が始まりの合図を出した。
「本日はお忙しい中ご足労いただきましてありがとうございます。
無事この日を迎えられて嬉しく思っております。」
デュークいや、宮本はテーブルの向こうに並んだ窪田不動産の関係者を見渡して口を開いた。
「こちらこそ、この度は貴重な物件を私どもにお譲りいただき深く感謝申し上げます」
窪田はまだ四十代でここにいる人の中では一番若い。
だが若くとも礼儀はちゃんとしている。
社長としての気量も兼ね備えていると自負していた。
現実に何度も契約に立ち会い利益を出してきた。
今回も契約をした後でこの地に分譲マンションを建てれば利益は十億円は下らないと思われた。
「時間も限られている事ですし、早速始めましょうか」宮本が明るい声で促すと皆が相槌を打った。
「それでは斎藤様。
本人確認をいたしますので顔つきの身分証明書をご提示いただけますか」
司法書士が斎藤に顔をむけた。
入室してから一言も言葉を発していない小坂部は、幾分緊張した面持ちで小さく頷いた。
ジャケットの内ポケットから財布を取り出して中にしまっていた免許証を司法書士ヘ示した。
「直接拝見してもよろしいですか」
司法書士は斉藤大作の免許証を受け取った。
形成や外観を確認してから、氏名や住所表記などに目を走らせて、券面の写真と斎藤の顔を見比べている。
「では念のために幾つかの質問をさせてください」
司法書士が呼びかけると、再び斎藤は頷いた。
「斉藤大作様本人で間違い無いですね」
「……間違いありません」
小坂部の表情に動揺らしき色は見受けられない。
少し答え辛そうにしている雰囲気がかえって「本物」っぽさを演出できている感じがした。
「生年月日を教えていただけますか」
「昭和二十一年の、二月十八日」
ここに来る前、デュークの部屋でのやりとりを再現するかのように、小坂部が淀みなく答えていた。
デュークは平穏な心もちで耳を傾けていた。
「干支をお願いします」
免許証と卓上のメモを見ながら司法書士が淡々とした調子で続ける。
「干支は戌です」
記憶を呼び戻すように小坂部は目をつむって答えた。
少し咳をした小坂部を見てデュークは「この前病院へ行って少し風邪気味らしいので、あまり無理ができません。
出来れば簡潔にお願いできませんか」
と助け舟を出した。
司法書士は窪田の方に目をやった。
窪田は二、三度頷き、それを見た司法書士は「それでは斎藤様、ご自宅を窪田不動産に売却してもよろしいですか」
と、小坂部に聞いたのだった。
「……はい」
控えめに頷いた小坂部を見て司法書士は、買主の社長と斎藤が登記関係の書類に次々に記名、押印していく。
「ここと、ここ、そしてここにも実印をお願い致します」
小坂部の表情に相変わらず余裕が失われているものの、書き慣れた感じが出るまで何度も筆写させたはずの斉藤の文字に迷いはなかった。
指示に従って実印を押す動作もソツがなかった。
やがて、それぞれの記名と押印済みの書類の確認を終えた司法書士が、出席者を見回しながら口を開いた。
「登記申請書類は全て整いました。
決済をしていただいて結構です」
十時に小坂部をデュークの部屋に呼び出して最終リハーサルを行う。
それで同時に特殊メイクを敢行した。
小坂部にメイクをするのはこれで二度目である。
一度目は免許証の写真どりの時だった。
メイクは自然な仕上がりで顔をつついている感じは見た目にはわからない。
「名前は」
不意にデュークが小坂部に聞いた。
「斉藤大作です」
突然の問いかけにも平然と答えた。
「よし、いいぞ」
デュークは不意打ちをかけた質問にも
すぐに答えることができた小坂部に称賛の言葉をかけた。
これで小坂部も落ち着いた。
後はプリンスの会議室に行きリハーサル通りに事を始めるのみであった。
プリンスについたデュークと小坂部ば時間通りに会議室へ向かった。
志保は少し遅れて会議室へ入
ドアを開くと窪田側は皆席についていた。
志保は窪田を見かけると手を上げて近くに歩き寄り窪田の耳元に手をあてた。
「クーさんが一緒に来てくれって言うから来たけど、なんか私、場違いみたいなので下のラウンジで待ってるから終わったらきてよ!」
窪田側には窪田、副社長、そして窪田が用意した司法書士が並んでいた。
その中でこちら側に並ぶのも反対に並ぶのも何かおかしな話である。
志保がいるいないはこの商談には全く関係のない事だったので、窪田も理解したみたいで志保に二度小さく頷いた。
デューク側は結局二人となった。
志保がドアを開け出て行ったと同時に
「時間になりましたので始めさせていただきます」
黒縁の眼鏡をかけて如何にも真面目そうな司法書士が始まりの合図を出した。
「本日はお忙しい中ご足労いただきましてありがとうございます。
無事この日を迎えられて嬉しく思っております。」
デュークいや、宮本はテーブルの向こうに並んだ窪田不動産の関係者を見渡して口を開いた。
「こちらこそ、この度は貴重な物件を私どもにお譲りいただき深く感謝申し上げます」
窪田はまだ四十代でここにいる人の中では一番若い。
だが若くとも礼儀はちゃんとしている。
社長としての気量も兼ね備えていると自負していた。
現実に何度も契約に立ち会い利益を出してきた。
今回も契約をした後でこの地に分譲マンションを建てれば利益は十億円は下らないと思われた。
「時間も限られている事ですし、早速始めましょうか」宮本が明るい声で促すと皆が相槌を打った。
「それでは斎藤様。
本人確認をいたしますので顔つきの身分証明書をご提示いただけますか」
司法書士が斎藤に顔をむけた。
入室してから一言も言葉を発していない小坂部は、幾分緊張した面持ちで小さく頷いた。
ジャケットの内ポケットから財布を取り出して中にしまっていた免許証を司法書士ヘ示した。
「直接拝見してもよろしいですか」
司法書士は斉藤大作の免許証を受け取った。
形成や外観を確認してから、氏名や住所表記などに目を走らせて、券面の写真と斎藤の顔を見比べている。
「では念のために幾つかの質問をさせてください」
司法書士が呼びかけると、再び斎藤は頷いた。
「斉藤大作様本人で間違い無いですね」
「……間違いありません」
小坂部の表情に動揺らしき色は見受けられない。
少し答え辛そうにしている雰囲気がかえって「本物」っぽさを演出できている感じがした。
「生年月日を教えていただけますか」
「昭和二十一年の、二月十八日」
ここに来る前、デュークの部屋でのやりとりを再現するかのように、小坂部が淀みなく答えていた。
デュークは平穏な心もちで耳を傾けていた。
「干支をお願いします」
免許証と卓上のメモを見ながら司法書士が淡々とした調子で続ける。
「干支は戌です」
記憶を呼び戻すように小坂部は目をつむって答えた。
少し咳をした小坂部を見てデュークは「この前病院へ行って少し風邪気味らしいので、あまり無理ができません。
出来れば簡潔にお願いできませんか」
と助け舟を出した。
司法書士は窪田の方に目をやった。
窪田は二、三度頷き、それを見た司法書士は「それでは斎藤様、ご自宅を窪田不動産に売却してもよろしいですか」
と、小坂部に聞いたのだった。
「……はい」
控えめに頷いた小坂部を見て司法書士は、買主の社長と斎藤が登記関係の書類に次々に記名、押印していく。
「ここと、ここ、そしてここにも実印をお願い致します」
小坂部の表情に相変わらず余裕が失われているものの、書き慣れた感じが出るまで何度も筆写させたはずの斉藤の文字に迷いはなかった。
指示に従って実印を押す動作もソツがなかった。
やがて、それぞれの記名と押印済みの書類の確認を終えた司法書士が、出席者を見回しながら口を開いた。
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